浅田政志写真展「浅田家 赤々・赤ちゃん」と、目に見えない部分の仕事[2009・5〜6]
5月×日
黒沢健一さんのボックスセットの仕事が佳境に入る前に、清澄白河へ。前から気になっていた浅田政志写真展「浅田家 赤々・赤ちゃん」をAKAAKAにて。主役の浅田家のみなさんによる手作りの飾り付けにほっこりさせられる。今回の展示作品には、浅田家以外の家族が被写体になったものも含まれている。資料によれば、どの家族とも何回かに渡る綿密なミーティングを繰り返して撮影に臨んだという。そうした表に出ない手間のかかる仕事を経て、ただの写真が特別な写真へと変わってゆく。写真でもデザインでも音楽でも、そういう目に見えない部分の仕事が膨大であればあるほど、表に出る部分の広がりがどんどん増していく。浅田さんはそのことをよくわかっている作家だと思った。
倉庫があるビルに移ったhiromi yoshiiで、HIROMIXの久々の個展『早春、心の輝き』が開かれていた。途中に挿入された本人のドローイングが、写真の邪魔をしているように思えてならなかった。
5月×日
ギャラリー360°でホンマタカシ「トレイルズ」を見る。銀世界に点々と血痕が。狩猟の痕跡を捉えた新作とのこと。村上龍で一番好きな小説『愛と幻想のファシズム』の狩猟のシーンを思い出した。
5月×日
渋谷は初夏の風が強く、道行く女子高生のスカートを舞い上げていた。パラシュートの形にふくらむのが格好いい。5月前半に作業したCDの色校をクライアントの事務所に見に行く途中で、Bunkamura Galleryで開かれる「-少女幻想綺譚-その存在に関するオマージュ」というタイトルの展覧会に立ち寄った。宇野亜喜良、金子國義、四谷シモン、丸尾末広、山本タカト……と出展者の名前を見ただけで、パブロフの犬のように「少女」のイメージが心に浮かんでくる。人形あり絵画ありと想像以上に面白かった。
5月×日
HB Galleryで小林愛美個展「hitokoma」を観る。豊島ミホ「檸檬のころ」表紙の画家。四角の中に極限まで抽象化された風景がとびきり心地よい。
6月×日
黒沢健一さんのボックスセットが、実作業半月ちょいという短期間で終了。執筆やアイデア出しも含めて“すべて出し切った”状態。もぬけの殻のまま、銀座へ。ギンザ・グラフィック・ギャラリーのマックス・フーバー展。Akzidenz GroteskやFuturaが飛び交うヨーロッパの王道的デザインという印象。河野鷹思の娘さんでもある奥様の葵・フーバー・河野さんのデザインが、個人的にはとても興味深い。
新橋まで足を延ばし、クリエイションギャラリーG8の「JAGDA新人賞受賞作家作品展2009」へ。自分ごときが口を挟める資格などないのを承知で言わせてもらえば、受賞作品が年々小粒になってきているような気が……。不況と歩調を合わせるようにスターデザイナーが減りつつあり、個人の才能で引っ張っていく仕事より、デザイナーが一歩下がったチームとしての仕事が増えてきているのではないか(顕著に感じるのは、福岡南央子さんのキリンビバレッジ「世界のキッチンから」や、居山浩二さんの仕事など)。それはそれでありだと思う。
よく間違えるのだが、新橋側だとずっと思い込んでいて実は京橋側だったというギャラリー小柳へ(30分ぐらい探し回ってバカみたいだった)。鈴木理策「WHITE」は、「雪」のシリーズの最新作。黒沢さんの『Focus』を聴いて一番最初に浮かんだのは、実は鈴木理策さんの雪の写真だった。鈴木さんの写真を使わせてもらうことも一瞬だけ頭をよぎったが、スケールがあまりに大きすぎて、小品のようなアルバムの雰囲気に合わないと思い、そのアイデアを却下した。雪のない地方に生まれたぼくにとって、雪に覆われた世界は憧れである。ただ、そこに自ら足を踏み入れたいとは思わない(寒さが苦手だから)。写真で見ているのがちょうどいい。
6月×日
保育雑誌のサマーセミナーで販売するための本やCDのデザインで、梅雨から初夏の頃多忙になるのが恒例になりつつある。この時期はインプットがまったくできないが、武蔵野美術大学で開かれている「新国誠一の《具体詩》ー詩と美術のあいだに」だけはどうしても行きたく、重い腰を上げて小平市へ向かった。公明党のポスターが貼り巡らされる中を歩いて武蔵美の校舎へ。今年の初めに大阪の国立国際美術館で観た同名の展示とは内容が微妙に異なっており、独自の展示作品もあって、遠くまで足を運んだかいがあった。図録も、大阪展で同時販売された「新国誠一works 1952-1977」とは異なる独自のものが販売されていた。新国誠一の作品群から受けた衝撃は計り知れず、いつか形にして返せる日が来るといいなと思う。
――2010秋以降の展覧会ツイートを、こちらのハッシュタグ #gbiyori に残しています。
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