オルタナ入門奮闘記 其の二
ロックを求道する者の日記パート2。今回はプライマル・スクリームとピクシーズとR.E.M.+αといった感じ。
聴いた時期は先々月の中旬。あの頃はまだ涼しかった… この、勘弁してほしいほどに暑い今改めて聴いたとしたら、また違った感想が出てきそう。
Primal Scream
Primal Scream / Sonic Flower Groove (1987)
1stアルバム。この時代のインディーロック小僧たちは本当に60sのロックが大好きだったんだなと実感する。美しいメロディーと爽やかな12弦ギター。その後に大きな飛躍が待ち構えているけれど、初期の彼らがここにいたのは何となく嬉しい。
AllMusicのNed Raggettによるレビューがいい。
(意訳:このアルバムについて、明らかな焼き直しじゃないかと文句を言うのは、空が青いのを呪う、みたいなことだ。)
どれも良いけど、いちばん「空の青さ」を感じるのはM7“Love You”かな。
(2024.5.10)
Primal Scream / Primal Scream (1989)
2ndアルバム。ハード味が付加され、バーズからアリス・クーパーに鞍替えしたみたいな感じ。やりたいことを、焼き直しとか言われようが、素直にやろうとするその姿勢、好き。
ボビー・ギレスピーの優しい声は確かにこの類いのロックには向かない。が、それが逆にこのバンドの個性として浮かび上がっている。
まあ、それでも結局、このバンドの良さが出ているのはバラードで間違いない。その中の一つであるM5“I'm Losing More Than I'll Ever Have”は、DJのアンドリュー・ウェザオールによってリミックスされ、シングル曲“Loaded”となり、大ヒットを飛ばす。
(2024.5.10)
Primal Scream / Screamadelica (1991)
3rdアルバム。彼らが持っていた繊細なメロディーに、強靭なプロダクションによるグルーヴ感が加わった。
ダブ自体はレゲエを経た耳にとって新鮮なものではない。しかし、当時のインディーロックが音楽的にも思想(及びムーヴメント)的にも持っていた60sサイケの雰囲気と、陶酔的で脳を刺激するダブ・サウンドとが抱合した結果、“ロック”として、これ以上ないくらいの効果を上げている。時機を捉えたというだけでなく、ダブとサイケデリックそれぞれに対する深い理解が、この作品をエポックメイキングなものにしたのだと思う。流石の完成度な名盤。
個人的にはテクノっぽい音が随所に散りばめられているのが、YMOを想起させ、楽しい。プロデューサーのひとり、アンドリュー・ウェザオールはテクノ出身だ。特にM6“Come Together”にその影響が顕著。
(2024.5.11)
Pixies
Pixies / Come On Pilgrim (1987)
デビュー・ミニアルバム。曲自体が持つ前のめりなリズムと喋るような旋律はポストパンク的だが、歪んだギターと絶叫するボーカルはオルタナっぽくてカッコいい。
“Levitate Me”のリフは大いなる憧れを抱くがごとき美しさ。今日のロックに直接的に繋がる名曲だ。
(2024.5.13)
Pixies / Surfer Rosa (1988)
1stアルバム。ベースのキム・ディールが歌う“Gigantic”、アブナイ歌詞だが、自然体な彼女の歌声とギターの厚いサウンドとが魅力的な一曲。ノイジーなナンバーも入っているが、耳に残るのはメロディアスな旋律とディストーション、女声。
(2024.5.16)
Pixies / Doolittle (1989)
2ndアルバム。そうか、オルタナというのはパンクの曲作りを手本にしつつ、その音楽的密度をそのままにテンポを下げ、音を厚くしたり歪ませたりしてできてるんだな。それは60sへの揺り戻しであると同時に「ロック」への胎内回帰なのだ。
M3"Wave of Mutilation"はラウドなサウンドの真ん中から、か細い頼りない声が響いてくる。コードワークはパンク時代、もしくは60sブリティッシュロックを想起させる。M5“Here Comes Your Man”のイントロなんか、もろビートルズだ。
M7“Monkey Gone to Heaven”の歌詞なんかもドアーズみたい。そこにストリングと、コーラスに厚いギター・サウンドが加わればピクシーズだ。
集合的無意識としての「ロック」がここには詰まっている。それがオルタナなのか。
(2024.5.16)
Pixies / Bossanova (1990)
3rdアルバム。前作よりもハード&ラウドになりガレージ色が強くなっている。しかし持ち前の美しいフレーズは健在。前作が60s的内燃性をもっていたとすれば、今作は70s的外燃性をもつ。
例えばシングル曲M3“Velouria”はハードな音像だが、もう一方のシングル曲M8“Dig for Fire”はよりオルタナ的繊細さが際立っている。
ただ、どちらにせよ表現に内在的衝動を感じられるのがよい。M1“Cecilia Ann”でサーフ・ロックを参照にしていることをも含め、彼らのなかで50s以降の様々な流派におけるロックが、ただ「ロック」という一字のもとで統合されているのだ、との思いを強くする。そしてその考えは現代のロック・シーンにも引き継がれている…のだと思う。
(2024.5.17)
John Zorn / Naked City (1990)
[ジャズ・ミュージシャンによるアルバムだが、オルタナやインディーズの文脈で取り上げられることも多いので、ついでに加えてみる。]
基本的にハードコアと言ってよい音楽だし、アルバムの核及び同時代的に彼らの最もオリジナルな部分も山塚アイが入った「騒音八連発」にあると思うが、一方で古い映画のテーマやサーフロック風ナンバーなど、ロックが蔓延る前のアメリカ音楽への志向が感じられるのが興味深い。それはジョン・ゾーンのみならずビル・フリーゼルの現代の活動にも繋がるものだろう。
個人的にはヘヴィなロックビートに乗せた〈淋しい女〉(“Lonely Woman”)と、カルテットで恥ずかしいくらい真正面から取り組んでいる〈007/ジェームス・ボンドのテーマ〉(“The James Bond Theme”)にシビれた。
フリー・ジャズ的ノイズ的なアヴァンギャルドの精神と、ショー的コメディ的なポップスの精神が矛盾なく同居、そしてどんな音楽においても高いクオリティーを維持することによって生まれている、有無を言わさぬ説得力の高さが凄まじい。“Contempt”もアンセム的なカッコよさ。
その人気も納得の名盤。やっと『ネイキッド・シティ』を聴いた側の人間になれた。
(2024.5.15)
R.E.M.
R.E.M. / Green (1988)
6thアルバム。[特に意味はないが、R.E.M.は今のところ中期の四枚のみ聴いている。]
カントリー色が強く、私にはイエスを彷彿させた。
短いし単純だけど“Hairshirt”という曲が、温かみのあるとても良い曲。マイケル・スタイプの歌声はしっかりロックしてる。一曲目の“Pop Song 89”も、タイトルは何だかニューウェーブのようだが、オルタナ的な爽やかな名曲。
オルタナという音楽はフォーク(それぞれのバンドの白人としてのルーツミュージック)を重んじる傾向があるんだなと再認した。
(2024.5.13)
R.E.M. / Out of Time (1991)
7thアルバム。フォーキーな郷愁とオルタナ的切なさとが見事に合体した、胸を掻き毟るカントリー・ロック。前作で採用したマンドリンが引き続き美しい音色を提供し、さらにはオーケストラのサウンドも聴こえる。B-52'sのメンバーであるケイト・ピアソンの歌声も、カントリー的志向を強めている。90s版イーグルスと言える、素晴らしい音楽。
一方でM1“Radio Song”はラッパー・KRS-Oneを呼んだファンク/ラップ・ナンバー。逆に一曲目がアルバムの中でイレギュラーなのは構成的に良いし、その「王道オルタナ」的サウンドがしっかりと時代性を切り取ってもいる。
全編を包み込むプロダクションの完璧さを非難する声もあるかもしれないが、そもそもイーグルス自体「作られたウェストコースト・バンド」だったことを考えると、これで何も間違っちゃいないと思う。文句なく名盤。
(2024.5.17)
R.E.M. / Automatic for the People (1992)
8thアルバム。もう全部いい曲でズルい。
M1“Drive”は、ツェッペリンのジョンジーがスコアを書いたストリングスとの共演。壮大でカッコいいサウンドは確かにレッド・ツェッペリンを思わせる。いきなりクライマックスだ。M2,M3はオルガンが入りハード・ロック感が増す。しかしマイケル・スタイプの歌声はオルタナ/SSW的で自分を見失わない。またしてもストリングス入りのM4“Everybody Hurts”、めちゃカッコいい!
しみじみとしたM7“Monty Got A Raw Deal”から始まる後半は少し落ち着いている。M11“Nightswimming”のピアノのリフ、素晴らしい。ストリングスも感動的。そしてラストの“Find The River”も郷愁を誘う名曲。メロディカの音色も心に染み入る。名盤過ぎます…
(2024.5.18)
R.E.M. / Monster (1994)
9thアルバム。
M1"What's the Frequency, Kenneth?"…初っぱなから前作・前々作とはうってかわってハードな音像に驚く。ただビル・ベイリーのドラムの重心は高く、メタルやグランジなんかよりもハード・ロックっぽく聴こえる。
M3"King of Comedy", M4"I Don't Sleep, I Dream”ではボーカルもサウンドも悄然としており、内向きでダークな印象を与える。確かに力ート・コバーンとリヴァー・フェニックスの死がバンドに与えたショックを反映しているように思える。
今作も良曲揃いだが、やるせない気持ちが独特の哀調を帯びたM8"Bang and Blame”や、カートに捧げられた神々しいM10“Let Me In”は特に印象的。
失われたものへの憧憬をうたおうとするとき、オルタナは独特の光彩を放つ。
(2024.5.20)
キリがいいので今回はここまで。