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ボブ・ディラン『欲望』『ストリート・リーガル』『武道館』を聴いて(4月の日記より)

[ディランは、]1975年10月から12月と1976年4月から5月の2つの時期にかけて「ローリング・サンダー・レヴュー」と銘打ったツアーを行なった。これは事前の宣伝を行わずにアメリカ各地の都市を訪れ、小規模のホールでコンサートを行なうというもので、かつてのフーテナニーの復刻ないし、巨大産業化したロック・ミュージックに対する原点回帰の姿勢を提示した。[…]このツアーメンバーを主として、ツアー開始直前に録音されたアルバム『欲望』が1976年初頭に発表され、チャート1位を獲得するとともに自身最大の売上を記録した。
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1978年、12年ぶりにワールド・ツアーを開始した。2月から3月にかけては初の来日公演を行ない、東京公演の模様が『武道館』に収録、発売された。1971年のレオン・ラッセル・セッション以来の女性コーラス、ホーンセクションを含むビッグバンド編成である(ディランは1987年のツアーまで女性コーラスを導入していた)。また、ツアー中には、ツアーメンバーとともに『ストリート・リーガル』を制作。日本滞在時に作曲したという「イズ・ユア・ラヴ・イン・ヴェイン ("Is Your Love in Vain?") 」も収録されており、イギリスなどでヒットとなった。

Wikipedia「ボブ・ディラン」より

『欲望』“Desire”

1976年17thアルバム
物語の詞が多く、重厚な短編集を一気に読むような充実感を得た。特に、人種迫害を受けたボクサー、ルービン “ハリケーン” カーターについて歌われている“Hurricane”は、譚詩であり告発でありプロテスト。これぞディランの面目躍如といった感がある。

私のお気に入りは、ギリシャのホテルに泊まっていた女性が火山の噴火に巻き込まれる一部始終を、終始快活に歌った“Black Diamond Bay”。最後のオチも最高。

そしてそれらの物語を、ヴァイオリンやマンドリンなどアコースティックな楽器が、まるで遠い昔のことのように、セピア色に染め上げる。ここにおいて物語は、音楽になる。

『ストリート・リーガル』“Street-Legal”

1978年18thアルバム
詞は前作に比べ、象徴的もしくは叙情的で、わりかし標準的ボブ・ディランに戻っている。とはいえ、聖書の一節のような“Changing Of The Guards”は謎めいた暗示に富んでいる。流石ディラン。

一方サウンドは、ヴァイオリンやサックス、タイトなドラムといった落ち着いたロック・サウンドに、ソウルフルな女性コーラスが加わるAOR/R&B路線。なので気負わず、リラックスしながら聴けるので良い。

ゴスペル調の“No Time to Think (考える時間はないのさ)”や“True Love Tends To Forget (真実の愛を忘れがち)”などは、歌詞のもつメッセージと曲調とが、うまくマッチしていると思う。「キリスト教三部作」はもうすぐ、ということか。

『武道館』“Bob Dylan at Budokan”

1978年の2月28日と3月1日に行われた日本公演の模様を録音したアルバム。ライブではディランの意に反して60年代のヒット曲を多く歌うことになったらしい。だからなのか、ディランのやる気が欠如しているように聴こえ、バックバンドとの温度差を感じる瞬間が多発する。(その分、サックスを吹くスティーブ・ダグラスの熱演が光っている。)

しかし、後に『ストリート・リーガル』(78年4月録音)に収録されることとなる最新曲は、比較的こころを込めて歌っていると思う。特に“Is Your Love In Vain”はとても優しい。あと、旧曲なのにバンドを巻き込んで急に本気になったりしており(“All Along The Watchtower”など)、なんだかんだ聴いていて飽きない。

・・・そもそもディランが、往年の名曲を装い新たに歌ったというだけで、私にとっては価値がある。そしてどう歌っても、どんなに微妙(イマイチ)なアレンジでも、名曲は名曲だし、天才歌手は天才歌手なのである。結局感動してしまう自分がいて、ちょっと悔しくも、楽しいアルバム。

(2024.4.7)


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