史跡に入浴-青梅市-【ゆっくり動く乗り物で~都バスの走る風景2】
<岩蔵温泉郷へようこそ>
梅74甲・梅74乙『岩蔵温泉』停留所付近(2016年)
※企画の構成上走行するバスを描いておりますが、実際にはこのような状況ではバスに乗ることはできません。青梅地域の都営バスは本数が非常に少ないので、事前に時刻を調べ、余裕を持って乗車しましょう。
五月病とは「4月に入った大学新入生や新入社員などに、1カ月を経た5月頃に見られる、新環境に対する不適応病状の総称」(大辞林第三版)。正式な医学用語ではないが、皆さんの間でも広く浸透した言葉なのではなかろうか。
どうしようもないほどつらい時には医療の支援が必要だが、それより手前で「気分を変えたい」ぐらいの場合には温泉につかるという方法もある。青梅市にある岩蔵温泉。ここは都心から2時間以内で行ける都内唯一の温泉郷である。JR青梅線の東青梅駅前または青梅駅前から都バス梅74甲系統に乗る。梅74甲系統は循環路線でトンネル回りと小曽木回りがあるが、どちらも岩蔵温泉前を経由する。また、本数は少ないが、河辺駅北口から出ている梅74乙系統でもよい。青梅地域の都バスは都区内のように均一運賃ではなく、後ろ乗り前降り整理券方式(ICカードは乗車時と降車時にタッチ)なので要注意である。
岩蔵温泉は開湯1200年を誇る歴史ある温泉で、日本武尊(やまとたけるのみこと)が入浴したと伝えられ、青梅市の史跡に指定されている。岩蔵温泉観光協会としてのホームページもある。とある土曜日、私は日帰りで岩蔵温泉を訪れた。温泉入浴と料理、個室での休憩がセットになった日帰りプランを予約したのだ。レトロな旅館の和室に荷物を置き、浴場に向かう。まず目に入ったものは、効能などを示す温泉分析書ではなく、市史跡であることを示す指定書だった。この場所がまさに史跡とは、不思議な気分である。硫黄の香りにつつまれながら湯につかり、浴場の窓からは、青々とした青梅の自然。入浴後に部屋に戻ると、座卓にはアサリの酒蒸し・ヤマメの塩焼き・刺身・筍ごはんをはじめとした料理の準備がととのい、幸せな気持ちのまま頂いた。満腹になり、だらしなく昼寝。日頃の自分自身の疲れをねぎらう時間はお開きとなり、名残を惜しみつつ旅館をあとにした。<br /> 温泉で存分に心と体をほぐした後、バス停に向かう道の途中で、自転車に乗った地元の男子中学生数名とすれ違った。部活の帰りだろうか。先頭のいがくり坊主くんが自転車を止めて後ろを振りかえる。「今日楽しかった人ー!」思春期特有の照れ隠しなのか、他のメンバーからの反応はない。その時、彼らとは面識もない私自身が一番に手を挙げて「はーい、私、楽しかったでーす!」と主張したい心境であった。もちろん、しなかったけれど。
都政新報(2016年5月20日号) 都政新報社の許可を得て転載