金太郎塗りの人気者「一球さん号」【東京のりもの散歩~いちょうマークの車窓から8】
<都電荒川線6152 一球さん号>
荒川区立あらかわ遊園に静態保存されている都電6152号車、通称「一球さん」号。2000年まで運行されていた。
※あらかわ遊園はリニューアル工事のため、2021年の夏頃まで休園中です。
都電荒川線の「荒川遊園地前」電停から3分ほど歩くと、23区で唯一の区営遊園地、あらかわ遊園がある。その入り口付近に静態保存されている車両が都電の6152号車、通称「一球さん号」である。
戦後間もない1947年から290両製造された6000形車両の中で荒川線に残った最後の1両で、およそ50年に渡って大勢の人々の人生を運び続け、2001年に廃車となった後、2003年よりあらかわ遊園で常設展示されている。
「前照灯が一つ」という特徴から一球さん号と呼ばれるようになったというこの車両の存在を初めて知ったのは、『さよなら一球さん号』というDVDを見たのがきっかけだった。そのDVDには運行当時の姿はもちろんのこと、荒川車庫内での走行シーン、運転手へのインタビュー、都電沿線の今と昔を比較する写真などが収められており、さらに特典として、一球さん号の写真プリントが3枚ついていた。まるでアイドル並みの扱いである。
一球さん号を間近で見ると、車両下部を頂点とする逆三角形の塗装デザインが印象に残る。このデザインは昔話の金太郎の前掛けになぞらえて金太郎塗りと呼ばれ、戦後の鉄道車両に広く普及したものだという。最近主流のステンレス車両にはないものだが、確かに筆者が子供の頃には、路面電車を含めた多くの電車で金太郎塗りを見かけたものだ。レトロな車体に優しい雰囲気を与えるような塗装だと個人的には感じるが、いかがだろうか。
さて、人々を運ぶ役割を終えた一球さん号の前には、今ではテーブルと椅子が置かれている。乗車して移動することができないかわりに、その雄姿を至近距離から観察できる。椅子に座るのは家族連れだろうか。カップルだろうか。「車内が木でできているんだね」「昔っぽいね」「27ってどういう意味かな」「電車の年齢かな(実際には違います)」……そんな会話が交わされるのだろうか。
何かに疲れた時に、一人で見に来るのもいい。一球さん号はいつでもそこにいる。柵の外からでも眺めることはできるが、あらかわ遊園に入場すれば、様々な角度から、かつての人気車両をじっくりと拝むことができる。
「いちょうマークの車窓から」という連載でありながら、走る都電からは一球さん号を見ることはできない。とはいえ電停を降りてあらかわ遊園に向かう道のりには、春秋に見頃を迎えるバラをはじめとする様々な花が植えられており、歩く時間もとても楽しい。
都政新報(2018年7月6日号) 都政新報社の許可を得て転載
【参考資料】
・あなたの街の路面電車 さよなら一球さん号 都電荒川線(DVD・株式会社カラーテック)
・小幡勇彦写真集 一球さん 都電荒川線6152(BeeBooks)