草稿: 商集合の話 -数学の話①
*下書き書いたはいいものの、文体とか導入とか文章量とか、Mathlog使うかNotion使うかとか、迷ってるうちに一週間経ってしまった。下書きでも公開しちゃえ。なんか感想とかあったら@uts1_19_math までよろしく
Twitterで「商集合が難しい」という意見を見かけたので、個人的に見通しがよいと思っている説明を載せます。
商集合の話をする前に
まずは、商集合が登場する文脈をまとめておきましょう。
集合の間の写像を分析する大きな定理の一部が商集合です。以下に、定理の骨子を列挙します。
全ての写像f:X→Yは、Xからの全射とYへの単射に(本質的に)一意的に分解できる。
集合Yに対し、Yへの単射はYの部分集合と(本質的に)一対一に対応する。
集合Xに対し、Xからの全射はX上の同値関係と(本質的に)一対一に対応する。
これら3つをまとめて、写像の全射-単射分解、あるいは(集合と写像に関する)準同型定理などと呼びます。正確な主張は追々見て行きましょう。
商集合は、上の3の証明を構成する一部です。この記事では3の説明をすることを主目的とします。3は2と酷似していますので、まずはより簡単な2の説明からしていきましょう。
単射と部分集合
集合Yに対し、Yへの単射とは概ねYの部分集合のことです。つまり、Yへの単射とYの部分集合が大体一対一に対応します。本節ではこの事実を正確に述べ、証明します。
一対一対応を示すには、両向きの対応を作り、それらの対応が互いに逆対応であることを示せばよいのでした。
定理1:集合Yに対し、Yへの単射とYの部分集合は本質的に一対一に対応する。即ち、以下の①②の2つの対応があり、それらは以下の③④の性質を満たす。
① Yの部分集合からYへの単射を作る対応「包含写像」
② Yへの単射からYの部分集合を作る対応「像」
③ Yの部分集合Aに対し、Aに①を施したあと②を施すと、A自身が得られる。
④ Yへの単射 i:Z→Y に対し、i に②を施したあと①を施したものを j: A→Y と置くと、標準的な同型φ : Z→A があって、i = j◦φ である。
定理の枠だけ作ったので、中身はスカスカですね。中身を埋めていきましょう。まずは①の対応を定義します。
定義1-①:包含写像
Yの部分集合Aに対し、写像 ι_A : A→Y を
ι_A(y):=y
で定義する。
これは明らかに単射ですね。
A⊂Yに対しι_Aを対応させる対応はほとんど一対一対応である……というのが定理1の言いたかったことです。まずは(本質的)逆対応となるべきもの(②)を構成しましょう。
②はどんなものであるべきかというと、「包含写像から元の部分集合を取り出す」ような操作であるべき(③)です。もちろん包含写像そのものの場合は定義域を見ればもとの部分集合を取り出せますが、一般の単射に対して同じように定義域を取り出せばそれはYの部分集合になってくれるとは限りません。そこで、Yの部分集合を取り出す方法として像を採用します。
定義1-②:像
写像 f:X→Y に対し、fの像Im(f)を以下で定義する:
Im(f):= { y∈Y | ∃x∈X f(x)=y }
また特に単射i:Z→Yに対し、iの像Im(i)は次のようである:
Im(i):= { y∈Y | ∃z∈Z i(z)=y }
これが欲しかった逆対応②です。実際に(本質的)逆対応になっていること(③, ④)を確かめましょう。
命題1-③:部分集合からの包含の像はそれ自身
集合Yの部分集合Aに対し、Aからの包含写像をι_A : A→Y と置くと、ι_Aは単射で、さらにその像Im(ι_A)はAに等しい。
証明1-③:Im(ι_A) = A を示す。
(左辺)
= { y∈Y | ∃y'∈A ι_A(y') = y }
= { y∈Y | ∃y'∈A y' = y }
= { y∈Y | y∈A }
= A □
これで①→②が何もしないのと同じであること、即ち③が分かりました。④、即ち②→①も大体何もしないのと同じであることを確かめましょう。まず一般的な形で主張を述べ、その系として④を導きます。
命題1-④':写像の像経由分解
f:X→Yを写像とする。
このとき、次を満たす写像 p: X→Im(f) が唯一つ存在する:f = ι_(Im(f))◦p.
さらにこのような写像pは全射である。
証明1-④':計算するだけなので略。暇なら書き足します
系1-④:単射の像経由分解
i:Z→Yを単射とする。
このとき、次を満たす写像 φ: Z→Im(i) が唯一つ存在する:i = ι_(Im(i))◦φ.
さらにこのような写像φは同型である。
証明1-④:ほとんど④'そのままである。集合の全単射は同型であったことを思い出そう。
以上で単射とは大体部分集合であるということが分かりましたね!いかがでしたか?
当たり前やん。と思った方、素晴らしい。全射と同値関係の対応も、そのくらい当たり前の話です。全く同じ流れですので、リラックスして聞いてくださいね。
全射と商集合
集合Xに対し、Xからの全射とXの上の同値関係は概ね一対一に対応します。本節では、この主張を正確に述べ、証明します。
一対一対応を示すには、両向きの対応を作り、それらの対応が互いに逆対応であることを示せばよいのでした。
定理2:集合Xに対し、Xからの全射とX上の同値関係は本質的に一対一に対応する。即ち、以下の①②の2つの対応があり、それらは以下の③④の性質を満たす。
① X上の同値関係からXからの全射を作る対応「商写像」。
② Xからの全射からX上の同値関係を作る対応「誘導する同値関係」。
③ X上の同値関係~に対し、~に①を施したあと②を施すと、~自身が得られる。
④ Xからの全射 p:X→Z に対し、p に②を施したあと①を施したものを q: X→B と置くと、標準的な同型ψ : B→Z があって、p = ψ◦q である。
さて、説明していきます。今回は②の対応の方が簡単なので、まずはそちらを定義しましょう。
定義2-②:写像の誘導する同値関係
写像f:X→Y に対し、X上の同値関係~_fを次で定める:各x1, x2∈Xに対し、
x1~_f x2 :⇔ f(x1)=f(x2) .
特に、全射p:X→Zに対し、X上の同値関係~_pは次を満たす:各x1, x2∈Xに対し、
x1~_p x2 :⇔ p(x1)=p(x2).
なんと、この対応②はほとんど一対一対応になります。この逆対応①に必要なのが、他ならぬ商集合です。
定義を述べる前に、①がどういうものであるべきかを確認しましょう。X上の同値関係を受け取ってXからの全射を返す対応①は、②の逆対応であるために「与えられた全射の誘導する同値関係から、もとの全射を概ね復元する」ものでなければなりません(④)。つまり、行き先の集合とそこへの全射を、同値関係だけから復元しなければならないわけです。もちろんX上の同値関係は、元の全射の終域が何であったかという情報は持っていません(Xの中の構造だから)。ただし、元の全射の終域がどんなものだったかという情報は持っています。つまり、up to iso で元の全射の終域を復元できます。これが商集合です。
定義2-①:商集合、商写像
集合Xとその上の同値関係~に対し、Xの~による商集合 X/~を次で定める:
X/~:= {A⊂X | ∃x∈X A={x'∈X | x~x'} }.
また、XからX/~への商写像π_~:X→X/~を次で定める:各x∈Xに対し、
π_~(x):={x'∈X | x~x'}.
この商写像こそが、逆対応です。実は、大事なのは商集合ではなく商写像だったんですね。商集合というのは「商写像の終域」と覚えておけばよいです。
商写像は商集合の定義から明らかにwell-definedです。写像としての定義はこれでよいのですが、我々の目的を思い出せば、さらにπ_~はいつでも全射であることを確かめる必要があります。
補題2-①:π_~は全射である
証明2-①:あとで書く。「同値類は交わらない」
さて、これで両向きの対応①②が作れました。あとはこれらが互いに逆対応であることを確かめるだけですね。
命題2-③:同値関係による商写像が誘導する同値関係はそれ自身
集合Xとその上の同値関係~に対し、商写像π_~ : X→X/~ の誘導する同値関係~_{π_~}は~に等しい。
証明2-③:任意にx1, x2∈X を取る。x1~x2 ⇔ x1 ~_{π_~} x2 であることを示す。
~_{π_~}の定義より、(右辺) ⇔ π_~(x1) = π_~(x2)である。
π_~の定義を思い出せば、π_~(x1) = π_~(x2) ⇔ {x'∈X | x1~x'} = {x'∈X | x2~x'}
簡単な計算により、{x'∈X | x1~x'} = {x'∈X | x2~x'} ⇔ x1~x2を得る。□
これで①→②が何もしていないのと同じであること、即ち③が分かりました。④、即ち②→①もそうであることを確かめましょう。まず一般的な形で主張を述べ、その系として④を導きます。
命題2-④':写像の商経由分解
f:X→Yを写像とする。
Coim(f):=X/~_f と置く。
このとき、次を満たす写像 i:Coim(f) →Y が唯一つ存在する:f = i ◦ π_{~_f}.
さらにこのような写像iは単射である。
証明④:計算するだけなので略。暇なら書き足します
系2-④:全射の商経由分解
p:X→Zを全射とする。
Coim(p):=X/~_p と置く。
このとき、次を満たす写像 ψ:Coim(p) →Z が唯一つ存在する:p = ψ ◦ π_{~_p}.
さらにこのような写像ψは同型である。
以上で定理2が示されました。以て次の結論を得ます。
結論:商集合とは、全射と同値関係の一対一対応において、同値関係から全射を作り出す対応である。
というわけでした。いかがでしたか?
重要な視点として、「商集合の元はあくまで点であって、それ自体を集合とみなす必要はない」ということを補足しておきます。
そもそも、「集合の集合」というものを考える必要は基本的にありません。一般に、何か欲しい集合を構成するときに、構成の過程でその元を集合とすることはありますが、それが本質的であることはまずないです。
今回の場合、「同値類」という言葉が2つの意味で使われています。一つは「商集合の元」。これは点で、その中身について考える必要はありません。もう一つは「商写像による一点の逆像」。これは集合で、これ自体がどこかの集合に属すると考える必要はありません。これら2つの「同値類」を区別して、どちらの意味なのかを意識すると混乱が解消されるでしょう。
おまけ:写像の全射単射分解
冒頭の話で1.2.3.と三項目並べたのに、2.と3.の話しかしませんでしたね。もやっとしてしまう人もいると思うので、1.の話もしておきます。(※商集合とは特に関係ないです。)
定理3:写像f:X→Yに対し、その全射単射分解が本質的に一意に存在する。即ち、以下の2つが成り立つ。
①商写像π_{~_f}: X→Coim(f), 標準的な同型θ_f : Coim(f)→Im(f), 包含写像ι_{Im(f)} : Im(f) →Y の合成 π_{~_f}▹θ_f ▹ι_{Im(f)} は f に等しい。さらに、π_{~_f}は全射、θ_fは同型、ι_{Im(f)}は単射である。
②全射p: X→Z及び単射 i: Z→Y s.t. p▹i = f に対し、一意的な同型φ_i : Z→Im(f) 及び ψ_p: Coim(f)→Z があって、次の三つを満たす。
p = π_{~_f}▹ψ_p
θ_f = ψ_p▹φ_i
i = φ_i▹ι_{Im(f)}
《図式を載せたい!あとでやる》
証明3:容易なので略!
いかがでしたか?《いかがでしたか構文わからん。あとで @rityo_masu に教わる》
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