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【東大生進学選択体験記② あの日差し伸べられた手を僕は忘れない】

こんにちは、東京大学ピアサポートルームのキャリアチームです。
キャリアチームでは東大生が自分のキャリアについて考える際の参考にしていただくため、東大生の就活や進学選択に関する体験談を投稿しています。
今回は東大生進学選択体験記シリーズ第2弾です!

2017年度進学、都内の人文系の学部→総合文化研究科
#東大生進学選択体験記 #院生 #院進

【東大生進学選択体験記② あの日差し伸べられた手を僕は忘れない】
 この体験記は模範を示すものではなく、失敗談を話し、反面教師にしてもらうために書きました。

〇なぜ大学院に進学しようと思ったのですか?
 理由は3つあります。1つは社会に出ず勉強を続けたかったからです。学部生の時、私は体育会系の部活に所属し、生活の中心が部活でした。ありがちな学園ドラマのように成功体験や仲間との友情を育めたわけではありません。部の運営をめぐって同級生ともめる、OBとのコミュニケーションがうまくいかないなどトラブルを多く経験しました。そして、今の自分のまま社会に出て組織の中で働いてもこのような気苦労をし続けるのではと恐れ、大学に残って勉強を続けたいと考えていました。ただ、この時は「勉強」と「研究」の区別がついておらず、卒論や修論を執筆する際にさまざまな苦労を経験しました。
 もう1つは、研究者に漠然とした憧れがあったからです。当時、私は研究者とは自分の関心のあるテーマを自由に論じたり、学生に教えたりしながら生活している職業だと思っていて、そのような生活を私も送ってみたいと考えていました。今思えば、研究者の生活の実態の一部しかとらえていない狭い見方でした。
 最後の1つに、身体について人文学的に論じてみたいと思っていたからです。当時私は武道をしていて、その中で身体の使い方や感じ方、考え方が文化と密接に関わっていると感じていました。このことを人文学的に論じたいと思い、このテーマを研究できる大学院に進学したいと思っていました。

〇進学への準備はどのように進めましたか?

 4年生になってから本格的に準備として2つのことに取り組みました。一番力を入れていたのが卒論のための研究です。当時所属していた研究室は学部生の数も少なく、先生が積極的に学生を指導するのが特徴でした。また、後述しますが、人文学系の大学院の冬期入試では卒業論文の評価が合格に大きく影響します。そのため院試も見据えて、納得のいく卒論を書きたいと思い、6月以降本格的に卒論のための研究を始めました。
 もう1つ行ったのは進学先の情報収集です。これは私が外部の大学院への進学を視野に入れていたからです。当時私が所属していたのは学部生・院生あわせて数名の小さな研究室でした。先生が熱心に学生を指導してくださるのですが、先生と軋轢をおこしたり、研究がうまくいかず大学に来られなくなる先輩が在籍していました。当時の研究室に在籍し研究を続けることに非常に不安を覚えていました。そのため、外部の大学院を進学先として検討しました。ただ、先生は私の積極性を評価してよく相談に乗ってくださっていたし、私も毎週の授業がとても勉強になっていたので研究室に残ることも考えました。さらに、当時私がいた学部は大学院に進学する際に他大学ではなくその大学に残ることが一般的でした。だからロールモデルも相談できる相手もおらず、心細く感じていました。このため、当時の研究室への進学も視野に入れつつ、外部で自分の関心のあるテーマを研究できそうな機関を検討しました。7月から他大学の大学院入試の説明会に参加するようになり、実際に足を運び自分に合いそうな進学先を探しました。

〇進学先はどのように決定しましたか?
 当時の研究室、現在の所属先のどちらかに進むことにしました。現在の所属先は1つの研究室に多くの教員と大学院生が在籍し、風通しがよさそうだなと感じていました。また自分が関心のあるテーマを専門にしている先生が2人在籍していました。そのため外部に進学する場合は現在の進学先にすると決めていました。一方で当時の指導教員は強く私を進学に誘ってくださっていました。ただ、研究室の雰囲気に対する不安は最後まで消えず迷い続けました。また卒論もうまくいっておらず、研究室のコミュニティーに居続けなければならなかったので、秋以降は精神的にかなり追い詰められていました。その状態のなか11月に院試のための願書の締め切りを迎えることになります。なんと私は当時の所属先の願書を提出できなかったのです!皆さんも必着と消印有効の区別にはしっかり注意しましょうね。私の進学先の決定は、意志によってではなく不注意によって決まりました。ただ今思えば、やはり当時の研究室にそのまま進学することは無理で、あるのか知りませんが、深層心理か何かが働いて願書を出さなかったのかなと思います。

〇院試はどのようなものでしたか?

 外国語の試験(母語以外指定されたものから2つ)と論述試験が1次試験で、研究計画書と卒業論文の審査が2次試験でした。外国語試験に関しては、当時私はある言語を中心に勉強していたのですが、なぜかその言語ではなくイタリア語を英語とともに選択してしまいました。外国語の試験で院試に失敗するのは不本意だと思い、卒論の提出が終わってから院試までの1か月間ひたすらイタリア語を勉強しました。おそらく、大学入試の時よりも勉強していた感じがあります。その甲斐もあって何とか1次試験は合格しました。ただ、2次試験では更なる試練が待ち受けていました。なんと私が送った論文に誤字が多く含まれていたうえに論文の書式を間違っていたのです。卒論を提出し心身が疲弊しきった状態で完成させたものだったし、何より私が不注意でした。その結果、院試では論文の内容ではなく形式について厳しく問われました。ただ、その中でも複数人いる面接官のうちのある先生が、今までに経験したことのないような鋭い角度から私に質問を投げかけました。その先生は私が院試の際に指導教員として希望した方でした。私はたじろぐと同時にこんな質問に受け答えするのは楽しいなと思いました。その一幕で大学院で研究することの楽しさと厳しさを知ったような気がします。院試終了後、私は絶対に不合格だなと思っていました。来年1年間は所属先がなくなるのかとか悲観的になって過ごしました。ところが、何の風の吹き回しか、私は合格していました。後日聞いたところによると、多くの教授陣が私の不合格を主張していたのに、指導教員希望だった先生が私を合格にするよう主張してくれたらしいのです。私は文字通り今の先生に拾われました。

〇入学後はどのような経験をしましたか?
 まず、研究について、指導教員の先生が面談の時間をたくさんとってくださったり、研究のしかたを一から教えて頂いたりしました。学部時代に研究の方法論をきちんと学んでいなかったので、とても貴重な経験でした。ただ、研究には非常に苦労しました。研究計画が非常に不十分でかつ分野を変えて大学院に入ったので、一から勉強の必要に迫られ、どのように研究を進めるかわからなくなり立ち往生したこともしばしばありました。他の院生から専門を聞かれたときに答えに窮することが結構ありました。修士のうちは基本的にそのような状態で、色々なことに追われていたと思います。しかし、研究とは別に先生がご自身が携わっているさまざまな実践活動に連れて行ってくださったことがよかったです。これは自分の学問や研究に対する視野を大きく開いてくれました。知識を産出する場所は大学だけではなく、社会の色々なところで創造的な営みが行われているのだと思いました。自分が考えるよりも多くの場所で毎日色々な問題が発生していて、さまざまな人が知恵を絞ったり相談しながら対処している姿を目にしたのです。そしてそれはある意味でとても知的な営みだと感じました。この経験のために私は博士課程を中退して就職するという決断を前向きにできました。

〇終わりに
 大学院進学や大学院生活で私が必ず思い出すシーンがあります。入学してすぐのオリエンテーションの日、会場に一人座っていたとき、ふと気づいたら指導教員の先生が隣に座っていました。休憩時間になると私はとても緊張しながら恐る恐る先生にあいさつしました。怒られたり厳しい言葉を言われると思っていました。そしたら先生はとても明るく、「君が○○くんか、よろしく!」といって握手をしてくれました。あの光景を私は絶対忘れないと思います。なんだか私という存在が受け止められ、新しい何かが始まるという感覚がありました。そしてその通りになりました。私は先生から色々なことを学んでいき、入学の時点では想像もつかなかったような経験を積んでいくことになりました。
 結局私は思い描いたような研究者にもなれなかったし、先生のような優れた論文も書けませんでした。でも大学院生活が終わろうとしている今、別の目標ができました。困っている人や将来前向きな展望が描けず暗く沈んでいる人が目の前にいたときに明るく愉快に手を差し伸べられるような、そんな大人でありたいと思います。
 大学院では学会や研究会、勉強会などを通じて学部の頃よりも多くの人と出会うと思います。時に素敵な出会いによって自分の未来が開かれることもあるでしょう。研究は大変なものですが、助けを求めて手を伸ばせば、必ず救いの手を差し伸べ導いてくれる人がいると思います。この文章を読んだ皆さまが素敵な出会いと共にいい院生生活を送れますように。

〇執筆日
2021年12月11日

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