ぴあサポマガジンvol.4「文学部学生の卒論体験記」
多くの学生にとって夏休みは楽しい季節ですが、卒業を控えた学生にとってはそうではないかもしれません。私は昨年文学部を卒業し、現在人文社会系研究科修士課程に所属していますが、昨年の夏は卒論のことで頭がいっぱいでした。今回の記事では、卒論のスケジュール感、反省点など、私の体験をお話します。なお、他学部では卒論の提出時期や体裁等大きく異なると思いますが、一例として参考にしていただければと思います。
体裁とスケジュール
まずは私の専門分野の卒論の要項についてご説明します。私の専門は美術史学で、卒論は大学院進学希望者の場合、4万字ほどのものが求められました。このあたりは同じ文学部においても専修課程ごとに様々だと思います。(必要字数が2万字のところもあると聞きました。)ただし、字数が多いから大変であるわけでも、少ないから楽であるというわけでもないと思います。文学部生の場合、たいてい学期末に4000字ほどのレポートを書いていると思いますので、4万字といってもレポート10本相当の量だと考えると、分量は確かに多いけれど、途方もない量ではないと感じるのではないでしょうか。実際に執筆される場合も、おそらく制限字数自体はすぐクリアできると思います。むしろ、決められた字数の中でいかに良い内容のものを書くかということが大事です。
まず、卒論のテーマ決めについてです。3年生の春休みから4年生の4月までに卒論のテーマを決めるのが普通だと思います。私はテーマ決めが比較的遅く、4年の7月に行われた卒論構想発表会までしっかりとしたテーマを決めていませんでした。というのも、私の所属する美術史学研究室の場合、学生は日本美術、東洋美術、西洋美術と幅広い地域の美術を学ぶことができるのですが、3年生の時点では日本美術に関心が高く、日本美術を専門にしようとしていたのです。しかし、3年生のSセメスター(夏学期)にゼミの発表で日本美術を勉強した結果、逆に西洋美術のことはあまり勉強できず、3年のAセメスター(秋学期)に徐々に西洋美術に関心を持ち始め、3年の終わり頃に、卒業論文では自分の関心の高い西洋の近代美術に取りくむことを決めました。もちろん研究室に所属する学生は、初めから日本美術、あるいは西洋美術をやりたいと決めている人も多いです。私の場合3年末での方針転換のために、4月から関心のある画家の画集や研究書をぱらぱらとめくりながらテーマを考え、7月にようやくテーマが決まりました。私の場合、卒論では20世紀スイスの画家、パウル・クレーについて書こうと思っていました。卒論構想発表会時点では19世紀末から20世紀初頭の様式である「ユーゲントシュティール」とクレーとの関係について書こうと思っていたのですが、卒論構想発表会で先生方からそのテーマは少し難しいとの指摘を受け、クレーの制作した「インヴェンション」という連作について考察することにしました。
夏休みから12月にかけていよいよ本格的に卒論を執筆しました。まずアドバイスを元にテーマを絞り、改めて文献を収集します。夏休み中は日本語の文献を多く読んでいたのですが、それでは情報量が足りないことに気づき、秋からは外国語、特にドイツ語の文献をよく読んでいました。このときまでに外国語論文をあまり読んできていなかったので、この作業がかなり大変でした。11月頃に、このままだと必要な文献が読み切れないと思い、読む範囲をかなり削りました。必要な文献を読み終わった12月頃から卒論の本文を本格的に書き始め、12月末にようやく執筆が終わりました。文学部の場合、卒業論文は製本して提出しなければいけません。私は先輩からのおすすめで、上野のキンコーズというお店で製本してもらいました。私は印刷、製本すべてをお店におまかせし、1月に無事卒論を提出しました。製本の他の方法として、キンコーズでは印刷を店舗設置のコピー機で行い、製本のみを依頼することも可能のようです。この場合は印刷、製本の全てをお店におまかせするよりも値段が抑えられるみたいです。また、東大生協の本郷第一購買部には仮製本機があるので、そこで自分で製本する人もいると聞きました。
反省点など
私の卒論の反省点としては、先行研究や1次文献の読解をさくさくと進めることができず、私自身の考察や、文章の校正に時間を割けなかった事が挙げられます。人文社会系研究科の院試では卒業論文をもとに2次試験が行われるのですが、文献読解に分量を割きすぎているという指摘を受けました。このことから、自分の能力や残された時間を見極めてスケジュールを組むことが大切だと感じています。
また、慣れない外国語文献の読解には時間がかかると同時にストレスも多くありました。もちろん卒論を執筆しながら外国語の勉強はしていたのですが、先述のとおり、私は3年の終わりに西洋美術へと専門を変えたので、語学の研鑽が足りていませんでした。もっと早く勉強していればストレスなく、スムーズに勉強ができたのではないかと思います。もし、これから卒論を書こうとしている皆さんで、外国語文献を読むことが必要な方は、語学の勉強にも早くから時間を割いたほうがいいと思います。とりわけ私の場合は参考文献にドイツ語論文を多く用いたので、ドイツ語での書誌情報の書き方の習得には苦労しました(cf.など一部の略語が英語と異なります)。
逆に、自身の卒論の進め方について評価できる点もあります。例えば友達と卒論についての勉強会を定期的に開催して、お互いの進捗を確認し合ったことです。私は文学部の別の専門の友人と1ヶ月に1回ほどお互いの卒論の進捗を報告する回を設けていたのですが、自分以外の進捗を目にすることで自分に発破をかけることもできますし、定期的に自分の論文の内容をプレゼンにまとめることで、自分の進捗を振り返ることができました。前節で、卒論執筆中に文献読解が間に合わないと気づいたと書きましたが、この勉強会がなければスケジュールを見直せず、論文がまとまっていなかった可能性もあります。また、別の専門分野の人と勉強会ができた点も非常に良かったです。自分と同じ専門の人だとどうしても自分と感覚が近くなってしまうため、論文の改善点に気づかないことがあります。論文を通じて新鮮な目で批評してもらったことは私にとってプラスになりました。
まとめ
以上述べてきた私の体験から、卒論執筆において重要な点は、1.自分を冷静に見つめること、2.他者とコミュニケーションを取ること、の2点にまとめることができると思います。とりわけ人文系の卒論執筆は個人での戦いになりがちなので、自分のスケジュール、執筆に必要な作業などを把握しながら、先生や友達を初めとした様々な人からアドバイスを受けることが大切だと思っています。私の卒論体験がこれから卒論を執筆しようとする方の役に立てば幸いです。
【筆者紹介】
人文社会系研究科修士1年。ドイツ語をマスターしたい。
【参考文献】
キンコーズ/【学生向け】卒業論文・研究論文などの論文製本
(当日お渡しも可能)
https://www.kinkos.co.jp/service/thesis-binding/#cover
東京大学消費生活協同組合/名刺・製本・印刷・翻訳校正・総合デザイン(WEB・イラスト・CG)制作
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