tacica TOUR 2023 “物云わぬ物怪” 感想 東京キネマ倶楽部
10月終わりからおよそ3週間に渡って行ってきたtacicaのワンマンツアー"物云わぬ物怪“のファイナル。
ワンマンツアーでは久しぶりに配信なし。その為に生で浴びる音、演奏、雰囲気を感じられるのを噛み締めた。
感想① ファイナルはミッキーの誕生日
16時30分開場と他の公演よりも早め。待機場所からエレベーターで6階まで上がる。今回は2回席も限定ではあったが販売されていた。
17時30分ちょうどに遊戯のSEが鳴り始めると中畑さんのドラムから猪狩さんのギター、小西さんのベースが合わさる。まさに遊戯。
遊戯から切り替えるようにギターが奏でられると、力強い声が発せられて始まるデッドエンド。
この曲には何度も勇気づけられた。CD音源ももちろんだが、生演奏を聴くと何かが駆り立てられ、タイトルこそデッドエンドではあるけれど、どうにか進まなくては、と思わされる。
小西さんと中畑さんがアイコンタクトを行うのが見えると、そこから間髪入れずに冒険衝動へ。
職人芸のような小西さんのベース捌きが光る。
初日の横浜公演は冒険衝動からデッドエンドという順番だったが、その後の公演ではデッドエンドから冒険衝動という順番だった。
猪「今日ってミッキー、ミニーの誕生日だって」
小「調べたの?」
猪「いや、そういうわけじゃないけど……。
ファイナルです。張り切っていきます」
感想② これがあの"帽子パージ"か……
金糸雀。思えば、この曲は結成日の4月5日にリリースされ、後に出てくる曲を引っ張ってくれるであろう曲と評されていた。まさにその通りに盛り上げてくれる。演奏はもちろん、ストロボの演出もあり、序盤だというのにクライマックスのような雰囲気に会場は湧く。
小西さんがステージギリギリまで近づいて煽るようにベースを演奏していた。だいぶノリノリだなぁと思っていると、ラストのサビ部分で大きく頭を振り、帽子を落とした。
以前、FCサイトのラジオで話題に上がっていたあの帽子パージである。普段は纏めて隠している髪の毛が顕になり、激しく動くその様はまさに、ツアータイトルの物云わぬ物怪のようだった。
ツアーファイナルにしてタイトル回収というなんと乙なことをしてくれたのか……という気持ちの悪い妄想に浸る。……。……。
その後、落とした帽子をなんとステージ袖まで蹴ったのだった。次の夜明け前はそのまま帽子を被らずに演奏するという中々にレアな光景を見ることが出来た。
個人的に今ツアーの中で一番印象的な曲は夜明け前だ。久しぶりに演奏されたという意味合いでももちろんだが、短い時間を駆け抜けていく疾走感とサビの盛り上がり。金糸雀からの流れもあり、序盤のキラーチューンとなっていた。
猪「ミニアルバムを作りました。良いのが出来たと思っています。音源作ったり、歌詞作ったり、ミックスしたり……。そういう過程、過程でいいなと思っています。聴いて欲しいっていうのは勿論なんだけど、自分の為に作っているという節もある。物販で見るだけでは分からないと思うので、興味ある方は是非」
その1曲目をやります、からのディスコード。中畑さんのカウントから始まる。
というフレーズで締められるこの曲。
“完成なんて望まない、だからこれからも未完成で模索しながら活動を続けていく“という意気込みにも思える。
間を置かずにナニユエのサウンドへと移る。森田さんの生コーラスはないものの、それを補うような小西さん、中畑さんのコーラスはまた別の楽曲のような雰囲気を醸し出す。ちなみに今回、
森田さんが観に来ていたようだ。どうせなら参加してくれても良かったのに……と思ってしまう。
YUGEの曲が続いた後には既存曲のJADITE。
ディスコードとどこか被るような歌詞。
カレンダーという言葉も出てきて、今回のグッズにも関連しているのかと勝手に深読みする。
感想③ グッズ紹介と物販について
猪「小西が、ベースの小西がグッズ紹介をします。何か最近、グッズ紹介やらせてくれって感じをだしてくる」
小「グッズ紹介さてていただきます」甘噛みする小西さん。
中「え?何て?」
小「あれ、何か変でした?」
噛んだとは気づかない小西さんに、中畑さんは無言で手を差し出してどうぞ続けて、と合図。
小「グッズ紹介します。
今回TシャツにはYUGEのジャケットをプリントしました。あと、長袖の方なんですが……」と自ら着ているロンTを見せようとするも上に着ていたオーバーオールで見えない。
「まあ、見えないですよね。肩から袖にかけて文字がプリントされてます」
「サコッシュを何度目か分からないですけど、今回も作りました。水や汚れを弾くようになっていて、衝撃に強いです。なのでオールシーズン使えます。リップストップという技法らしくて……」
中「らしい?」
小「リップストップです! この紐は取り替え出来るようになっているので、お気に入りの紐があったら、それ使ってもいいです」
「ハンドタオルは25cm×25cmなので、ハンカチくらいの大きさです。なのでこの時期にちょうど……いや、オールシーズンいけます。
万年カレンダーを作りまして、これあれば他のカレンダーはいらないです。もう俺らも作らなくていいね、って」
「あと今回からミニアルバムYUGEを持ってきてます。猪狩が物販に立ってて、自分も一回だけ立ったんですけど……。
どっちの方が売れたのかなって気になるんですけど」
中「そんなことないよ!」
小「結果は聞いてないです。野暮かなと思ったので。ファイナルなので最後は2人で立とうかなと思っています」
ありがとうございます、と締めると観客からは大喝采が起きる。猪狩さん、中畑さんも小西さんへ拍手を贈る。当の小西さんは恥ずかしそうに耳を塞いでいた。
そんな大喝采の後に我に帰ったかのように、猪狩さんが語り出す。
猪「何これ? どうすればいいの? そんな大したことないよ」
小「やっちゃったね。衝撃に強いとか言っちゃった」
猪「あれ、詐欺だよ。当たったら中身ぐちゃぐちゃになるよ」
中「お菓子とかね」
猪「あとね、2人で立とうかなって上から言ってるのが気に食わなかった。売り子の人が可哀想。普段なら、お客さんにお金を用意してもらっているその間に、商品を渡す準備とかしてるんだろうけど、ただ渡すだけの奴がいるから」
小「しかも今日は2人っていうね」
猪「売り子の人はプロだけど可哀想」
小「すいません、ってもう低姿勢でいるしかない」
猪「ミッキーマウスの誕生日で、メタリカのカーク・ハメットも同じなんですよ」
小「誕生日とかあるんだね。ミッキーって」
猪「誕生日占いとかって難しいよね。ミッキーとカーク・ハメットが同じとか……。
ドラム中畑大樹!」
中「よろしくお願いしまーす。誕生日の話題の後で自己紹介するの恥ずかしい」
猪「今日、ディズニーランド混んでるのかな?ここに来ている時点で皆さんはそこまで興味ないのかな」
感想④ 終わりだけど終わりじゃない
幽霊のいない街という曲を。グッズ紹介終わりにそう切り出して、演奏へ。しかし、ドラムの出だしを間違えたのか、失礼、と中畑さんが謝って、仕切り直し。
一音、一語はっきりと聴こえて伝わる。"終わりは昨日より近い事"の後のuh ah ah と猪狩さんの美しいハーモニーに魅了される。そしてその後の転調からの盛り上がりは何となく夜を思わせる。
次もアコースティックセットでordinary day。
初めはマレットの球体部分で叩き、柔らかい優しい音を奏でていたが、サビになると持ち替えて、力強いドラムサウンドを響かせてくれる。
また、最後の3人でのハモリからの猪狩さんソロの"生きていくだけ"にはグッとくる何かがある。
エレキに再び持ち替えて猪狩さんのカウントから諦める喉の隙間に新しい僕の声が吹く。明るい緑色のライトが当てられ、収録アルバムの新しい森を思い浮かべる。今までのセトリを知っていた為、終わりが近づいていることが分かり、もっと続けと願っていた。
aranamiからの一連の流れは荒波というよりも濁流のようだった。
aranamiのサビのリズム隊に合わせて思わず頭が揺れる。"今日より明日がどうとか言ってる内に"
ではなく、今日のこの瞬間こそ最高だと思っているといつの間にか曲が終わっていた。まさに荒波。
そんな荒波が会場を掻っ攫っていったと思うと今度はアロンという物怪、いや怪物が登場する。
紫色のライトと音が、妖しげなおどろおどろしさを演出する。中畑さんのドラム、小西さんのベースとコーラス、猪狩さんのギターと声。と次々と移り変わり、目が足りない。
アロンが終わるとすぐさま人鳥哀歌のギターが先行する。十二分に熱くなった会場からは歓声が大きく上がった。それに応えるようにステージ上のメンバーも暴れ出す。猪狩さんから発せられるがなり声、小西さんは観客を煽るようにステージギリギリまで前に近づき、中畑さんが会場奥まで轟かせるかのように激しいドラム捌き。ボルテージはマックスのまま終了し、暗転する。
猪「今までの公演中にも言ってきたことなんだけど好きで音楽をやっているので。新曲作って、ライブがしたいからやっています。だから、またやると思います。次の音源じゃなくても、次の次の音源を気に入ってくれるなら、その時に来てもいいし。まだまだやっていると思うので良かったらまた来てください。どうもありがとうございました」
本編最後は荒野を行く。
"踊り疲れても"→"踊り疲れたよ"に変えて歌っていた。その後の"思い知らせて眠れるまで"をスタッカートに歌う猪狩さんに魅入られる。
アウトロにアレンジを加えて3人でのセッションにて終了。まさしく荒野を行くかのようにステージ上を去っていった。
感想⑤ ブロッコリーは過保護?
アンコールで登場するなり、猪狩さんがYUGEの実物を手に取る。
猪「今回、紙ジャケで手触りとかもこだわってます。文字のところだけUVシルクっていう浮き出るような加工がしてあったり……。何か手触りに拘るって良くないですか?」
大きく頷く観客の方々。
「すごい、みんな頷いてる。あとリーフレットもこだわってるので、ぜひ。サブスクもあの……。
いや、これ以上は言いません。でも、僕はサブスクって音ちょっとあんまりだと思っていて」
中「猪狩くんはそう思っていると」
猪「……tacicaチームはみんなそう思っていて」
「でも確かにサブスクで触れる音楽は増えたなって気はする。この間、QUEENの曲歌って歩いているおじいちゃんがいた。gold rushってプリントされてる服着てたから、金脈探しに行くんだろうなって。
多分その人もサブスクで聴いてるんだろうね」
散歩エピソードで思い出したのか、唐突にブロッコリーの話を始める。
猪「散歩してたらさ、ブロッコリー栽培しているのを見かけた。ブロッコリーのなり方って知ってる? 何かレタスみたいに周りに葉が覆われててさ、その中心にいるんだよね」
中心にいるときを猪狩さんはぼーっとした立ち方と表情で表現する。
「何かすごい過保護だよね」
小「知ってる知ってる」
猪「すごい待遇良いよね。大事に包まれているから大切に食べなきゃね」
曲やりますと宣言すると、先ほどまでの雰囲気とはガラッと変わる。細胞からやり直して〜と始まるぼくら。猪狩さんと小西さんに照明が当たるその姿はまさしくぼくら。ギター、ベース、ドラムという当たり前なバンドサウンドではなく、ギターとベースだけというある種の常識を壊したこの曲。こういった形になったのは弾き語りで長いことやっていたからアレンジがなかなか受け入れられなかったということと、先行試聴会や「音楽と人」で小西のベースが良かったからと猪狩さんは語っていた。20年近く一緒にやってきたからこそ作れた"現在"のtacicaといえるだろう。
そんなtacicaを見せられた後に、最後の最後はDAN。爪先立ちでマイクに近づいて、"残り全部の命を使う"かのように歌い、演奏する。ラストでは猪狩さんがステージギリギリまで前に出て、音を観客に浴びせる。
サヨナラなんて言葉はなく、ありがとう、ありがとうとマイクを通さずに猪狩さんが客席に向かって言葉を放つ。合わせて小西さんは深々と頭を下げる。それに応えるようにこちらは拍手で彼らを送り出した。まさしく大団円。
"盛大なフィナーレは見られた"
セットリスト
遊戯
デッドエンド
冒険衝動
金糸雀
夜明け前
ディスコード
ナニユエ
JADITE
幽霊のいない街
ordinary day
諦める喉の隙間に新しい僕の声が吹く
aranami
アロン
人鳥哀歌
荒野を行く
en.ぼくら
en.DAN
セトリ自体は名古屋と同じ。今ツアーは毎回セトリが何かしら変化していた。
相変わらず、panta rheiの曲はordinary day以外やらず……。
おわりに
ミニアルバム「YUGE」のリリースツアーと銘打っていたものの、ツアーと同時にCD発売、配信はファイナル後。私自身はツアーの5日前に行われた先行視聴会で聴いていたが、このツアーで初聴きという方の方が多かっただろう。だからこそ、驚くような声、感極まってしまうなどなど。様々な方がいらっしゃるなと見てて思った。
残念ながら2023年のtacicaとしてのライブは最後ということだけれど、弾き語りがあり、2024年にはアルバム発売が決定しており、2025年には結成20周年という記念すべきイベントが待ち構えている。
「好きだから曲を作って、またライブに来ます」と語る彼らの活動が好きだから、これからもまだまだついていく。