tacica 20th anniversary tour “AFTER GOLD” at 岡山YEBISU YA PRO
2024年から2025年にかけて行われる17公演のワンマンツアー5日目。
いわば前半戦の折り返し地点。
感想① スタートからフルスロットル
前回の東京は2階席で座りながら見たが、今回はいつものスタンディングスタイル。前から2列目を確保。珍しくぼっちではなく鹿の仔の方々と一緒だったので話しながら開演を待っていた。
定刻通りにステージの照明が暗くなり、遊戯のSEが流れる中でメンバーが登場。小西さんは相変わらずオーバーオール着用。
まず一曲目は倒木。アコースティックギターで静かに弾き語る楽曲。
歳をとること、老いることを止めることは出来ない。だけどそれからがまだある。どこか始まりを感じられる曲から幕を開けた。
猪狩さんがギター交換した後に中畑さんの力強いドラムからの日進月歩。
ドラムが刻むリズムがまるで心臓の鼓動のように響かせる。それはまさに日々を生きる人たちを鼓舞させるような少しの勇気をくれる。そしてラスサビでは小西さんのコーラスも入り、一人ではないと思わせてくれる。
小西さんの歪んだベースが会場を包むミカラデタサビでは3曲目とは思えないほどの熱量が会場に溢れていた。tacicaにしては珍しい曲調で、でも歌詞はとてもtacicaらしいフレーズに溢れている。
中畑さんのドラムも相変わらずキレキレで、前列だったこともあり音の攻撃を受けているかのようだった。
体内に脈々と〜の部分で赤いライトが照らし出されているのがまさしく血を表している気がした。
猪「アルバム作ってきたので、アルバムの曲をこれからいっぱいやります。最後でよろしく」
猪狩さんの宣言後はまぼろしからリスタート。
この曲は猪狩さんの歌が非常に聴きどころになると思っている。妖艶な歌声はまさにまぼろしのようで、非現実的な雰囲気を纏っている気がする。
そんな夢うつつな状態の後はEmpty Dumpty。
こちらもなんというか不思議な曲。御伽話のような世界観を持っているような。イントロのドラムのダンダンダンというリズムは卵を割っているように感じられるし、間奏の猪狩さんは取り憑かれたかのように頭を振りながらギタープレイするし、小西さんのベースがそれらを邪魔しないように支える。今回のアルバムに収録されていないのに入ってないのが不思議なくらいに溶け込んでいた。
再びアルバム曲へと戻って、メリーゴーランドそして続けてSOUPへ繋がる。
メリーゴーランドは東京と同じでカラフルな照明が印象的だった。タイトルからは楽しいアトラクションかのように感じるが、歌い方やメロディはダークな感じが強い。終わりのないメリーゴーランドを降りることもできず、グルグルと回っているかのよう。
SOUPも雰囲気的には似ていて、こちらは加えて怒りが表現されているような曲。だからといって暗いと言うわけではなく、2番初めには奇妙な音のファズが鳴るなど遊び心も詰め込まれたまさしく色んな具材を煮込んだスープのよう。
溜め息の中に、で締めくくる猪狩さんの声にはどこか寂しさや諦めのようなものを感じた。
感想② 小西は裏表のない奴
猪「今回もグッズ作ってきたので、小西が紹介します」
小「今日はいつもTシャツから紹介するんですけど、ちょっと変えてオススメから紹介していきたいと思います」
そう前置きしてから紹介したのはクッションとポーチ。2点は現物を持って紹介。
小「今回クッションを作りまして、卵形のクッションです。IKEAとかにもないようなデザインかなと思います。今回一番……売れるかなと思っています。……それ以上は言わないです」
中「ちゃんと説明して」
小「すいません」
(クッションの件は鹿の仔会員ならぜひ喋る鹿49.5回を聞いて欲しい。言い淀んでいる小西さんと説明を求める中畑さんの意味がなんとなく分かると思う)
小「あと……」とポーチを持ちながら、グッズ紹介のパネルで商品名を確認。
「ポーチを作りました。元々はメガネケースです。ただ使い道は色々とあるかなと。ペンケースとか。こんな風に開きます」
パカっと開けて観客に見せつけるのは物凄くシュールだった。
「メガネケースなんで、クロスもついてきます。メガネ持ってない方は……まあ色々使えるので」
中「小西くんなら何に使うの?」
小「パソコン拭きます」
中「あぁ、汚れてるもんね」
小「汚れません?」
グッズ2点を置いて今度はパネルを持ちながらの説明。
小「Tシャツは今回後ろにツアー日程が入っているものです。パーカーは久しぶりにジップアップ式のものを作りました。ようやく使える時期になったのかなと思ってます。個人的に今日は寒くなると思うのでここから上がるまでに羽織れるので是非」
「トレーは鍵置きとか小物置きとか色々な用途で使えます。色とかも可愛くて。
スマホストラップも今回作りまして、こういうのって調整できないのが多いんですけどこれは調整できるようになってます。なので背の高い人でも低い人でも使えます。
あとキーホルダーも作って、ポコっとしているデザインでアフターゴールドな感じになっています」
「今回の目玉なんですけど、会場限定のCD販売しています」
ありがとうございますと締めて観客からは暖かい拍手が。
猪「ありがとう。小西、CD紹介した?」
小「うん。最後に」
猪「目玉って言った?」
小「うん。言った」
猪「昨日紹介する時にも目玉って言ってて、感触良さそうにしてて。
こういうのってやり続けて行く内になんとなく掴んできたり、これは取っておこうとかなるじゃないですか。でも小西は取っておくことが出来なくて、"とっておき"が出来なくて。すぐに出しちゃう。俺だったらファイナルまで取っておくんだけどね。だから小西は裏表のない奴なんですよ」
猪狩さんの照れ隠しに、当の小西さんも同じようにただ微笑んでいた。本当に仲の良い2人だなと思わせてくれる。
感想③ じゃあまたねなんて言わない
アルバムに入っているネバーランドと言う曲を、と猪狩さんが宣言してからまた演奏に戻る。
優しい音色と優しい声が会場に響く。前半戦は割とロックテイストの曲が多いという反動もあり、もちろん歌詞も素晴らしいのでいつも以上に胸に染みた。
アコギのまま続いたのはSilent Frog。東京ではordinary dayだったのでここの変更には驚いた。(変わるとしてもアンコールの曲が変わるのかなーくらいに思っていた)
前の曲のネバーランドとの繋がりもあるように思える。というか書いた人間は同じなのだから当たり前なのではあるが。だから猪狩さんが考えていることは15年近く前に書いたモノから根幹は変わっていないのだなということに気付かされる。
優しい音色の余韻が残る中、それを吹き飛ばすかのように始まるロックチューンの花束と音楽隊。赤い照明で照らされるステージはさらに格好よさをマシマシにしてくれる。終盤とは思えないほどの力強い演奏。あっという間に曲が終わった気がした。
2人のメンバーと1人のサポートが奏でるこの音楽隊は観客である私たちに生きる糧という花束をいつだってくれる。
ここからは既存曲が続いた。
群青からスタートして人鳥哀歌、LEOそしてアロンという流れは東京と同じ。ただ同じ曲だけど、その日ごとに違って聞こえるのはライブならではの、生演奏ならではの特権。
LEOで爪先立ちしながら歌う猪狩さんが特に今回は印象に残っていた。彼等は本当にいつも全身全霊、魂を削りながら演奏していると思わせてくれる。
アロンでは中畑さんがマイクをどけたあの瞬間からカッコよかった。コーラスなんかしないで、演奏だけに集中するぞという意思表示のような気がして、その期待に応えるようなドラム捌きは見惚れる。
中畑さんのカウントから再びアルバム曲の夢中に続く。
ベースが割と際立っていると思う楽曲。猪狩さんの歌とギターだけでずっと聴いていた曲ということもあるのだろうが、ベースの主張しすぎない音色がこの曲を担っている気がする。
猪狩さんの声の伸びには終盤の疲れを全く感じさせない。そんな猪狩さんの声と小西さんのベース、そしてもちろん中畑さんのドラムにも夢中になって聴いていた。
猪「また音源作って、また来ます。
来たいと思ったらまた来てください。
最後に一曲やって帰ります。」
次もまた絶対来てくれ! なんて彼等はmcでは言わない。行きたい人が行きたい時に行きたいと思う場所に聴きにくればいい。そういうスタンスをとれるのが彼等の強みだと思う。
そうして本編ラストは物云わぬ物怪。
猪狩さんの優しくも力強い歌声から始まる。
やるしかない。
決意のように、あるいは諦めのようにも思える歌詞がこの頭を目掛けて貫いてくる。好きなものがあれば何とかなるような日々。tacicaが存在しているからこそ日々の生活をそこそこに過ごせている。そうやってきっとこれからも生きていく。
そんなことを思い馳せながらしっとりと演奏が止んだ。
それぞれが観客に向かって軽く頭を下げる。それを感謝の拍手で見送った。
感想④ 幸せとは幸せを求めないこと
再びステージに戻ってくると猪狩さんの手にはCDとなにやら資料が握られていた。
猪「岡山が個人的に好きなので来られて嬉しいです。ありがとう」
素直にこんな事を言ってくれることは地元の方にとっては大変嬉しいことだと思う。
猪狩さんが持っていたCDを触りながら改めてCDの説明。
猪「さっきも言ってたんですけど、CDを販売していて。今回高崎のTAGO STUDIOで録音して、現時点の僕らが満足できる音を録れたかなと思っています。あの別にサブスクの音が悪いとか言っているわけではなくて。
この間知り合いのバンドマンとも話してたんだけど、良い曲があったなって思っても覚えていられなくて。すぐに忘れちゃう。やっぱりそれって情報が多過ぎて追いついてないのかなとか思ったりしてて……。
このあと、物販に立つのでCD手渡しするのでお願いします」
猪狩さんはSNSの運用についても同じようなことを以前話していた。情報量が多過ぎてどうすればいいか分からないということを語っていて、なのでX(Twitter)はinfoという名前で個人でやっている弾き語りの情報を流すだけにしている。猪狩さんの中で色々と思うところがあるようだ。
猪「今回久しぶりに17公演も周るからポスターを作ってきました。ここに来るまでにもいっぱい貼ってあったと思うんだけど」
会場の通路にはたくさんのポスターがこれでもかと思うほどに貼られていた。
猪「出来が良いなと思ったので販売してます。
貼る壁がないとか……。貼る壁がないは無いか」
自ら笑ってしまうような発言。どこか小西味を感じられる。
猪「鹿の仔っていうFCサイトをやっていて、その会員じゃないと買えなくて……。すいません。
鹿の仔の内容っていい意味で酷くて」
中「酷い?」
猪「いい意味でラフで。陶芸したり、ラグ作ったり、神社行ったり。なので……ね。
鹿の仔に入ろうかなって思っている人のあとひと押しになればいいかなって思ってて。このポスターが」
鹿の仔、楽しいコンテンツ盛りだくさんなので、少しでもtacicaに興味があるならぜひ。
猪「昨日食べたラーメン美味しかったです。燈っていうラーメン屋で、燈か燈以外かってローランドみたいなことが書いてあった。最後にお見送りまでしてくれた。
岡山って食べる物全部美味しいですよね?」
観客の反応は薄かった。
猪「あれ?」と苦笑い。
小「美味しくないラーメンってある?」
中「西の方の」
猪「あー、あそこは確かに。3人ともダメでしたよね」
中「うん。でもみんながみんな満足できるラーメンなんてなくない?」
猪「前に高校生に"幸せとは何か"っていうインタビューをした記事があってそれの答えで幸せとは幸せを求めないことっていうのがあって、渋い!と思って」
中「何があったんだろうね。その子」
猪「だから俺らもラーメンを求めるには美味しいラーメンを求めないことなんですよね」
ラーメンの事が一気に哲学のように深く考えさせられる事になって、笑えたし、凄く良い言葉だなと思えた。(本当にその高校生は何者なのだろうか)
中「今日は猪狩くんが物販立ってお見送りするんだね」
猪「そうですね」
猪狩さんはアンコール終わりに物販に立って手売りをしていた。見届けたい気持ちが強くあるのだろう。作品への愛情がそれだけでも伝わる。
感想⑤ アンコール
猪「じゃあ曲やります! ポスターを貼る壁がない曲を」
きっとこの先もないだろうという紹介で観客から笑い声も漏れる中で始まったCo.star。
とぼけたMCからは180度変わったゴリゴリのロックサウンドを掻き鳴らす。以前も話していたが、猪狩さんはスイッチの切り替えが早い。MCモードと演奏モードの二面性を持っている。
2番のサビあたりで小西さんがベースを突き上げるようにしていたのも印象的だった。
そんなこんなであっという間にCo.starが終わって、じゃあ最後に一曲と始まったのはHERO。
東京ではアースコードだったが変更。
初期も初期の曲がこうして今でも歌い続けられて盛り上がることは長くやっているバンドならではだと思う。
だんだんとボルテージを上げて、たどり着いたラストサビでの爆発するような盛り上がり。アンコールだとは思えないような熱がこもった演奏にこちらも勝手に身体が動いていた。
最後はギターが鳴っているままそれを放置して、その轟音がまだ鳴り響く中で、3人は舞台を降りて行った。
セットリスト
倒木
日進月歩
ミカラデタサビ
まぼろし
Empty Dumpty
メリーゴーランド
SOUP
ネバーランド
Silent Frog 東京(ordinary day)
花束と音楽隊
群青
人鳥哀歌
LEO
アロン
夢中
物云わぬ物怪
en. Co.star
en.HERO 東京(アースコード)
東京公演ではordinary dayだったのがSilent Frogに、アンコールのアースコードがHEROになるという変化。他の公演の感想を見ていないので分からないが少しずつセトリは変わっているようだ……。
おわりに
東京以来3週間ぶりとなったライブ。AFTER GOLDがデジタルリリースされてもう一ヶ月がたったタイミングでの公演。この一ヶ月毎日聴いていたので馴染んでしまっているが、とはいえまだ一ヶ月しか経っていないのにもう何年も前から存在しているように思わせる。
既存曲は若干セトリが変わるというこれからのツアーでの楽しみもあり、何が入ってくるのか考えるのもまた良い。
次は年内ラストの仙台。なんだかんだでもうあと3週間後。いつも思うけど一年あっという間。
(追加) 鹿の仔の集い in岡山
また今回も鹿の仔たちとお会いして岡山を堪能するとても充実した休日になった。現実に帰るという実感が湧かないくらいに最高な2日間だった。
また明日! と別れる。
2日目。
12月とは思えないほどの暖かさと穏やかさで心が浄化されたような気がする。
鹿の仔と一緒にライブ行って、飲んで、次の日もまた会うなんて(しかもライブ抜きで)もう一生無い機会かもしれない。鹿の仔が発足されてからいろんな景色を様々な人から見させてもらっている気がする。
とりあえず生きてさえいれば、そんなに必死で求めているわけではないのに、こうやって幸せな日はやってくるらしい。