オンライン教育プラットフォームの運営と教員の教育力向上サポート
多様な教育機会の提供と教え方改革
大総センターは、東大全体における教育改革の支援や推進を目的に活動をしています。活動内容は大きく2つの柱があり、1つはオンライン講座などを学内外に発信するためのオンライン教育プラットフォームの構築・運営です。プラットフォームとしては、東大の授業映像を配信するUTokyo OCW、グローバルに大規模公開オンライン講座を提供するMOOC、イベントでの公開講座やセミナーを配信する東大TVなどがあります(表)。もう1つは、教員や大学院生の教育力を高めるFDおよびプレFDの推進です。授業設計や教え方に関するプログラムを提供し、教える側の能力向上や資質開発を行っています。
オンライン教育プラットフォームに関しては、教育コンテンツのオンライン化により、さまざまな人が大学の教育を受けられるようになっています。こうした教育機会の多様化は、ICT利用の大きなメリットの1つです。例えば、社会人の学び直しであるリカレント教育や、大学の授業を受けるために必要な学力が不足している場合に学力を補うリメディアル教育では、「オンライン教材でここを学んでおいてくださいね」というふうに指導することができます。オンライン教育プラットフォームは、教育の機会を提供するための基盤になるものなので、コンテンツの充実や活用促進を図っています。
一方、教育のあり方が大きく変わってきている中、教員の教え方もそれに対応していく必要があります。このため、FDの活動では、ICTの活用をサポートしたり、新たな教育環境に対応した授業設計や評価の仕方をプログラム化して提供したりしています。教員のサポートも私たちの重要な役割です。
双方向で世界トップレベルの講義が受けられるMOOC
オンライン教育プラットフォームのうち、MOOC(Massive Open Online Course:大規模公開オンライン講座)をご説明しましょう。MOOCは、オンライン環境があれば、時間や場所を問わず誰でも無料でさまざまなコースを受講できる仕組みのことで、世界トップレベルの大学や企業も開講しています(図)。希望する人には有料で修了証が与えられる他、単位や学位が取れるコースを提供する大学もあります。また、優秀な留学生を獲得するための場にもなっています。
MOOCのプラットフォームは、アメリカの大学などが中心となっていくつか開設されており、東大はこれらのうち「Coursera」と「edX」に参画しています。各分野における一流の研究者が講師を務め、日本の建築や文化、先端科学など、日本の独自性を生かしたコースを提供しています。
先述のUTokyo OCWや東大TVは動画や資料を公開するのみですが、UTokyo MOOC(東大のMOOC)では、学習効果を高めるため、集中しやすい10分程度の動画と、理解を確認するためのクイズやレポートを組み合わせた構成をとっています。受講者同士がテキストベースでディスカッションできる場もあり、TA(ティーチングアシスタント)が質問に答えたり、有益なディスカッションをサマリーにして共有するなど、双方向性の学習ができるのも特徴です。私自身、教え方について学べるFDのコースを開講したところ、多様な人が受講して活発な議論が行われ、充実したコースになりました。時と場所を越えて教員と受講生、受講生同士が議論できる新たな教育の形を提供できたと思っています。大総センターでは、学内の教員がUTokyo MOOCのコースを準備するときの支援も行っており、今後はさらにコースを増やしていく予定です。
新たな教育システムをいかに使ってもらうか
新たなシステムの開発も始めています。2022年度から、学生が学習情報を一元的に管理できる環境「UTokyo ONE(UTONE)」の導入を教養学部が進めてきましたが、2024年度からは全学に展開され、大総センターが管理運営を担う予定です。UTONEは学生が大学生活で必要な情報を得るためのポータルサイトのような役割を果たすだけでなく、ここに蓄積されていくLMS(p. 5参照)や課外活動などのデータをもとにAIが学生の履修科目選択などの学修支援を行う、匿名化したデータを用いて大学側が新たな教育プログラムを開発する、学生が卒業後もこのシステムを通して東大とのつながりを維持していくなど、さまざまな活用場面を想定しています。
このように、教育DXを進めていくためのシステムの充実や開発を進める一方で、教員のマインドセットをいかに変化させるかが1つの課題だと感じています。研究に時間を割きたい大学教員には、従来の授業のやり方を変えることに抵抗感をもたれてしまうのです。システムができても、それを使ってもらうための仕組みがなければ、教育DXは進みません。2020年にコロナ禍に突入したときは、情報基盤センターと情報システム本部がZoomやモバイルWi-Fiルーターなどのツールや通信環境面の整備を行い、私たちはその使い方などを教員や学生に発信することで、オンラインへの切り替えがスムーズにできました。今後も、他部局と緊密な連携をとることで、ハードとソフトをうまく融合させ、先進的な教育の実現に向けた教育DXを推進していきたいと考えています。
(取材・構成 秦 千里)
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