国民民主党 「103万の壁」撤廃はただの人気取り?財源は与党に丸投げ?法案はどうせ出さないの?

Utokaです。

国民民主党が選挙公約に掲げ、実現に取り組んでいる、いわゆる「103万の壁」撤廃。基礎控除と給与所得控除の合計額を、現状の103万円から、178万円に引き上げる案を提案しています。

これについて、不確かな情報も様々に飛び交っているようなので、少し実態を説明したいと思います。

「財源確保の責任を与党に押し付けて丸投げしている」
「どうせ選挙のための人気取りで言いはじめただけだ」

といった批判もあるそうですが、果たして実態はどうなのでしょうか?

「103万の壁」撤廃は、選挙の人気取りで急に言い出した?→以前から何回も国会質疑を重ねている

ここ数年の主な動きだけ列挙します。

2022年3月2日 川合孝典参議
第208回国会 参議院 予算委員会
「103万の壁」を含む年収の壁について国会質疑。

いわゆる百三十万円の壁と言われるものが、この制度が始まったのが一九九三年ということであります。このときの最低賃金の全国加重平均がおよそ五百八十円ぐらいということなんです。その後、所得税の配偶者控除、いわゆる百三万円の壁でありますが、これが始まったのが一九九五年であります。このときの最賃の全国加重平均、六百八円ということであります。そして、昨年の最低賃金は、政府の御努力もありまして九百三十円にまで、二十八円去年が引き上がっておりますので、九百三十円ということになります。

 これを分析しますと、そもそも百三万円、百三十万円といういわゆる控除の扶養の壁という制度ができたときと今とを比べると、おおむね六〇%ぐらい上がっているんですよね、時給が。時給が六〇%ぐらい上がっているということなんです。

 問題は、この最賃が上がっていく、お給料が増えるということ自体はとても喜ばしいことなわけでありますが、一方で、要は時給が上がるとこの百三十万円、百三万円、百三十万円の金額にいとも簡単に到達してしまうわけであります。 

https://kokkai.ndl.go.jp/txt/120815261X00620220302/303

2023年 10月25日 玉木雄一郎代表 
第212回国会 衆議院 本会議
所得税収が増えすぎており、国民から税を取りすぎていることを指摘。所得税のインフレ調整、すなわち基礎控除や給与所得控除の引上げによる減税を提案。

 税収の上振れ要因の一つは、所得税の増収です。三十年ぶりの賃上げによって、所得の増加率以上に税収が増える、いわゆるブラケットクリープ現象が生じています。  
 総理、税収増の還元というなら、非課税世帯への給付だけでなく、税金を払っている納税者にこそ税収増を還元すべきです。具体的には、所得税のインフレ調整、すなわち基礎控除や給与所得控除の引上げによる減税を提案します。基礎控除は、最低限の生活に必要な所得には課税しないという制度です。しかし、一九九五年を最後に、基礎控除と給与所得控除を足し合わせた額の引上げは行われていません。
 デフレからインフレに経済のステージが変化する中、生きるコストも上昇しています。だからこそ、定額とか時限とか表層的な議論ばかりでなく、基礎控除の引上げなど、インフレ時代に対応した筋の通った所得税改革が必要です。

https://kokkai.ndl.go.jp/txt/121205254X00420231025/11

2023年11月29日 伊藤たかえ参議
第212回国会 参議院 本会議
デフレからインフレに経済が移行する局面に合わせ、総合的な税制調整を提案。

 第一に、消費と投資を下支えし、持続的賃上げを確実にするための生活減税が足りない点です。
 デフレからインフレに経済が移行する中で必要となるのは、トリガー条項凍結解除のみならず、いわゆる暫定税率、二重課税の廃止と併せたガソリン減税、基礎控除、給与所得控除等の額を引き上げることで家計負担を軽減する所得税減税、賃金上昇率が物価上昇率を二%上回るまで、当分の間、税率を一〇%から五%に引き下げるインボイス廃止を含む消費税減税、少額減価償却資産特例の上限額を引き上げ、投資額以上の償却を認める法人税における投資減税、税額控除額の引上げや価格転嫁等への取引条件を改善し、赤字法人も対象となるよう減税項目を法人事業税、固定資産税、消費税にまで拡大した賃上げ減税です。

https://kokkai.ndl.go.jp/txt/121215254X00720231129/18

2023年11月20日 伊藤たかえ参議
第212回国会 参議院 本会議

基礎控除は「必要最低限の生活を送るために必要な所得には課税しない」という制度であることを指摘。インフレによってその「最低限必要な所得」が上昇していることを鑑みて、基礎控除の引き上げを提案。

物価高に加え、賃金上昇を上回る所得増税が家計の著しい負担になっている事実に着目し、物価上昇率及び名目賃金上昇率などを鑑み、基礎控除や給与所得控除を引き上げて減税効果をまみえるという立て付けです。
 基礎控除は、そもそも必要最低限の生活を送るために必要な所得には課税しないという理念に基づく制度であり、インフレによって生きていくためのコストが上がっている今こそ基礎控除の引上げによる家計負担の軽減が必要です。
 日本では、三十年間に及ぶ長いデフレを背景に、一九九五年以降、基礎控除プラス給与所得控除の水準は据え置かれています。これがいわゆる百三万円の壁です。
 基礎控除とは何たるかについての総理の御認識とともに、二十八年間変わらない壁に対する今後の対応策を伺います。

https://kokkai.ndl.go.jp/txt/121215254X00620231120/19

2023年11月22日 玉木雄一郎代表
第212回国会 衆議院 予算委員会 第6号
総雇用者報酬の伸びよりも税収の伸びのほうが大きく、そのギャップが国民の実質負担の増加になっている「ブラケットクリープ現象」を、具体的な数値を出して指摘。諸外国でも行われている措置と同様に、所得税のインフレ調整の必要性を提示する。

総雇用者報酬の伸びが、この間、例えば二年間で、二〇二〇年を一〇〇としたときに一〇四に伸びているんですね、プラス。でも、税収はそれ以上の率で伸びているので、このギャップが実質負担の増加なんです。だから、所得税の減税というよりも、所得税のインフレ調整をしないと手取りが減る一方なんですよ。

 このことは実はアメリカでもオーストラリアでもやっていまして、このギャップが生じる現象をブラケットクリープ現象といいます。これを、例えば先週、アメリカの歳入庁、IRSは、インフレ調整で標準控除、日本でいう基礎控除、これを引き上げる、そしてブラケットを少しずらしていく、そういう所得税の調整を発表しています。これは、来年度こうします、二〇二五年度こうしますということを今年、今発表しているんですよ。だから、別に来年のことを今言ってもおかしくないんです。

https://kokkai.ndl.go.jp/txt/121205261X00620231122/286

2024年3月18日 竹詰仁 参議
第213回国会 参議院 予算委員会

政府日銀が「安定的な物価上昇」を目指していることを鑑み、安定的に物価が上がるのであれば、生きるコストも安定的に上昇するため、基礎控除あるいは給与所得控除の見直しが必要であると論述。

 一九五五年の以前は、物価上昇に合わせて控除額、一九九五年より以前ですね、基礎控除あるいは給与所得控除を引き上げて、所得税の課税最低限を引き上げてきたということなんです。ただ、この一九九五年以降、所得税の課税最低限は百三万円のまま約三十年間変わっていないということであります。  
 政府あるいは日銀も、安定的な物価上昇を主張しておられます。賃金も物価も安定的に上がっていくべきということでありますので、こうした生きるコストが上昇している中で、この基礎控除あるいは給与所得控除の見直しが必要だと思いますが、総理にお伺いをいたします。

https://kokkai.ndl.go.jp/txt/121315261X01120240318/289

岸田総理は答弁にて一回限りの定額減税を主張。しかし、「減税が必要である」という見解は示す。

所得税、住民税のこの減税を組み合わせる、こういった形で官民挙げて物価高を上回る所得を確実に実現する、これが今年において重要な課題であると考えます。

https://kokkai.ndl.go.jp/txt/121315261X01120240318/290


追記:ブラケットクリープ現象って?

たぶん、おそらく、わかりやすいであろう解説記事を用意したので、こちらをご覧ください。

「インフレで税収が増えたというけど、インフレなら物価も上がるから歳出も増えて、結局は財政状況は変わらないんじゃないの?」と思えますが、実はそうではないのです。

「口だけじゃなくて法案出せよ!」→1年前に提出済

たぶん再提出すると思うけど。

2023年11月1日 所得税減税法案を提出
基礎控除、給与所得控除等の額を引き上げる等、所得税に関し講ずべき措置について定めた所得税減税法案を提出。

 国民民主党は1日、国民民主党議員立法「所得税減税法案」(名目賃金の水準の上昇を上回る国民の所得税の負担の増加に対処するために所得税に関し講ずべき措置に関する法律案)を参議院に提出した。
 昨今の物価高騰に加え、賃金上昇を上回る所得税の負担増加が国民生活に多大な悪影響を与えている。こうした事態に対処するために、本法案は令和6年以後の所得税について物価上昇率、名目賃金上昇率等を考慮して、基礎控除、給与所得控除等の額を引き上げる等、所得税に関し講ずべき措置について定めるもの。

https://new-kokumin.jp/news/diet/20231101_1

全文はこちら。
https://new-kokumin.jp/wp-content/uploads/2023/11/be2d39c23691e145b5611de8d3f548c4.pdf

減税の”財源”は?「裏付けがない!」「与党に丸投げで国民民主は無責任!」→そもそも”財源”で測るべきなのか?

紹介した国会質疑の中にもありますが、まず、これは「減税」というより「調整」です。

総雇用者報酬の伸びが、この間、例えば二年間で、二〇二〇年を一〇〇としたときに一〇四に伸びているんですね、プラス。でも、税収はそれ以上の率で伸びているので、このギャップが実質負担の増加なんです。だから、所得税の減税というよりも、所得税のインフレ調整をしないと手取りが減る一方なんですよ。

2023年11月22日 衆院予算委員会 玉木雄一郎代表

そして、そもそも所得税収が民間の賃金以上に伸びており、「税金を取りすぎている」ことが問題なので、その取りすぎた税金を返そうというのが趣旨です。

「生きるために必要な所得を守る」ために

また、インフレによって「生きるためのコスト」が上がっているため、「生きるために必要な所得には課税しない」という基礎控除の考え方に立って、これを引き上げようと提案しています。

基礎控除は、そもそも必要最低限の生活を送るために必要な所得には課税しないという理念に基づく制度であり、インフレによって生きていくためのコストが上がっている今こそ基礎控除の引上げによる家計負担の軽減が必要です。

2023年11月20日 参院本会議 伊藤たかえ参議

所得控除は、いわば憲法25条に定める「生存権」の一つです。
このことは、国税庁サイトにも記載されています。

憲法25条の生存権すなわち「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保障する水準が担税力の有無を判断する基準として有意であることに、おそらく異論はないであろう。このため、所得税の負担のあり方を考えるに当たっては、最低限度の生活を維持するために必要な部分(以下「最低生活費」という。)を除いた残余に対して課されるべきであるということとなる。

所得控除は、最低生活費を課税対象から除くことによって、担税力無きところに課税せず、という所得税のあるべき姿を実現するための重要な手段であると考えることができる。

https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kenkyu/ronsou/48/tanaka/hajimeni.htm

私見:なぜ現役世代の生存権だけが、財政との天秤にかけられるのですか?

「生存権を守る」ことを「財源が無いから」というのは、個人的にはシックリ来ません。

たとえば…極端な例ですが…大災害が起きたときに、「災害救助と復興に巨額の予算が掛かる」「財源がないから救助せず見捨てよう」という人はいませんよね。

約13兆円規模の国庫負担が生じている年金に関しても、「財源がないからやめよう」という主張は、国会では各党各派いずれからも聞かれません。

党派を問わず、「生存権と財政を天秤にかける」という姿勢は見られない印象ですが、なぜ現役世代の生存権の話になると、途端に天秤にかけられてしまうのでしょうか?

そこがどうも、個人的にはシックリ来ないんですよね。

そもそも「税収が増えすぎている」から「返す」という話

この話もこれまで国会で議論してきた内容ですが、改めて玉木代表がわかりやすく説明していたので、動画をご紹介します。

簡単に言うと、

「予定より多く税金を取ってしまっている分(税収の上振れ)」
「使うと言って計上したけれど、結局使わなかったぶん(予算の使い残し)」

だけで数兆円規模。

さらに、財務省が管理している外国為替資金「外為特会」の剰余金が3.5~4兆円規模。

https://www.youtube.com/watch?v=zqh8ymGbys4

円安とインフレで国が儲けすぎてしまっているので、国民の皆さんにお返ししましょうよ!というのが趣旨なんですね。

「財源が無い」とは真逆で、「取りすぎて余っている」から返そうと。

「外為特会は使えない」という議論は2年前に済んでいる

多少詳しい人なら、「外為特会はドル建てだから使えない」という意見も聞いたことがあるかと思いますが、その議論は2年前に終わっています。

ちょっとパネル一を見てもらいたいんですが、外為特会から一般会計に繰り入れるのはおかしいという議論があるんですが、これを一番やってきているのが財務省です。毎年数兆円規模の運用益が出て、そのうち、一兆、二兆、ずっといろいろな繰入れを行っていて、平成に入ってからでもトータル五十兆円ぐらい繰り入れているんですよ。これはまさに、FBを発行してやっていますから。

例えば、一ドル百円のときに一万ドル外貨預金したと思ってください。そうすると、百万円だったんですね。それが、ドルが強くなって円が安くなって一ドル百五十円になったら、その一万ドルは百五十万円になるんです。五十万円増えているんですね。だから、この五十万円を使っていろいろな財源に使ったらいいんじゃないですか。

私が与党だったときの平成二十二年に、全部繰り入れるのはちょっとリスクもあるから、七割だけ入れて三割は残そうというルールを決めました。それを破ったのが、二〇一五年、麻生財務大臣です。全額入れました。つまり、私も一定のリスクの下で繰り入れろということを言っているんですが、調子が悪くなるとというか、財源が足りなくなると全額入れたりしたのが麻生大臣ですよ。
 今回は歴史的な円安で、さっき言ったように、かなり為替差益が出ているので、それをうまく利用しましょうということを提案しているんです。

衆院予算委 令和4年11月28日 玉木雄一郎代表

その後、外為特会剰余金の一部(1兆円ぐらい)を防衛費増加の財源に充てることとなり、当面の防衛増税の回避につながりました。

政府日銀は「安定して物価を上げていく」のだから、それに応じた合理的なインフレ調整が必要

政府日銀が安定した物価上昇を目標に舵を取っていくのですから、物価は安定してさらに上がっていくわけです。

政府あるいは日銀も、安定的な物価上昇を主張しておられます。賃金も物価も安定的に上がっていくべきということでありますので、こうした生きるコストが上昇している中で、この基礎控除あるいは給与所得控除の見直しが必要だと思います

2024年3月18日 竹詰仁 参議
第213回国会 参議院 予算委員会

安定的な物価上昇へと舵を取っていくのですから、それに応じて税収も増えていくでしょう。したがって、所得控除を引き上げても税収は困らないはずです。

むしろ、所得控除を引き上げるインフレ調整をしなければ、かえって経済の好循環が滞り、デフレに逆戻りしてしまう恐れもあるのではないかと思います。

まとめに変えて:今起きていることを時代劇風に説明すると

悪代官:「そのほう!年貢の納め時ぞ!」

村人:「お代官様、今年は不作で、ほとんど米が取れませなんだ…。どうかお慈悲を…せめてこの子らの口に食べさせる分だけは…。」

悪代官:「何をぬかすか、この愚か者が!不作だろうと飢えようと、年貢は年貢、法を守るのが民の務めよ。」

村人:「お願いです、お代官様…。子どもたちはもう数日まともに食べておりませぬ…。どうか情けを…。」

悪代官:「ええい!者共!こいつらの貧しい小屋から持てるものすべて持っていけ!米でも雑穀でも、わずかな銭でも構わん。」

役人:「はっ!」

村人:「ああ…何とご無体な…。」


こういうことが現に今、起きてしまっているので、これを改めようという話です。

オーケー?