Utokaです。
国民民主党が選挙公約に掲げ、実現に取り組んでいる、いわゆる「103万の壁」撤廃。基礎控除と給与所得控除の合計額を、現状の103万円から、178万円に引き上げる案を提案しています。
これについて、不確かな情報も様々に飛び交っているようなので、少し実態を説明したいと思います。
「財源確保の責任を与党に押し付けて丸投げしている」
「どうせ選挙のための人気取りで言いはじめただけだ」
といった批判もあるそうですが、果たして実態はどうなのでしょうか?
「103万の壁」撤廃は、選挙の人気取りで急に言い出した?→以前から何回も国会質疑を重ねている
ここ数年の主な動きだけ列挙します。
2022年3月2日 川合孝典参議
第208回国会 参議院 予算委員会
「103万の壁」を含む年収の壁について国会質疑。
2023年 10月25日 玉木雄一郎代表
第212回国会 衆議院 本会議
所得税収が増えすぎており、国民から税を取りすぎていることを指摘。所得税のインフレ調整、すなわち基礎控除や給与所得控除の引上げによる減税を提案。
2023年11月29日 伊藤たかえ参議
第212回国会 参議院 本会議
デフレからインフレに経済が移行する局面に合わせ、総合的な税制調整を提案。
2023年11月20日 伊藤たかえ参議
第212回国会 参議院 本会議
基礎控除は「必要最低限の生活を送るために必要な所得には課税しない」という制度であることを指摘。インフレによってその「最低限必要な所得」が上昇していることを鑑みて、基礎控除の引き上げを提案。
2023年11月22日 玉木雄一郎代表
第212回国会 衆議院 予算委員会 第6号
総雇用者報酬の伸びよりも税収の伸びのほうが大きく、そのギャップが国民の実質負担の増加になっている「ブラケットクリープ現象」を、具体的な数値を出して指摘。諸外国でも行われている措置と同様に、所得税のインフレ調整の必要性を提示する。
2024年3月18日 竹詰仁 参議
第213回国会 参議院 予算委員会
政府日銀が「安定的な物価上昇」を目指していることを鑑み、安定的に物価が上がるのであれば、生きるコストも安定的に上昇するため、基礎控除あるいは給与所得控除の見直しが必要であると論述。
岸田総理は答弁にて一回限りの定額減税を主張。しかし、「減税が必要である」という見解は示す。
追記:ブラケットクリープ現象って?
たぶん、おそらく、わかりやすいであろう解説記事を用意したので、こちらをご覧ください。
「インフレで税収が増えたというけど、インフレなら物価も上がるから歳出も増えて、結局は財政状況は変わらないんじゃないの?」と思えますが、実はそうではないのです。
「口だけじゃなくて法案出せよ!」→1年前に提出済
たぶん再提出すると思うけど。
2023年11月1日 所得税減税法案を提出
基礎控除、給与所得控除等の額を引き上げる等、所得税に関し講ずべき措置について定めた所得税減税法案を提出。
全文はこちら。
https://new-kokumin.jp/wp-content/uploads/2023/11/be2d39c23691e145b5611de8d3f548c4.pdf
減税の”財源”は?「裏付けがない!」「与党に丸投げで国民民主は無責任!」→そもそも”財源”で測るべきなのか?
紹介した国会質疑の中にもありますが、まず、これは「減税」というより「調整」です。
そして、そもそも所得税収が民間の賃金以上に伸びており、「税金を取りすぎている」ことが問題なので、その取りすぎた税金を返そうというのが趣旨です。
「生きるために必要な所得を守る」ために
また、インフレによって「生きるためのコスト」が上がっているため、「生きるために必要な所得には課税しない」という基礎控除の考え方に立って、これを引き上げようと提案しています。
所得控除は、いわば憲法25条に定める「生存権」の一つです。
このことは、国税庁サイトにも記載されています。
私見:なぜ現役世代の生存権だけが、財政との天秤にかけられるのですか?
「生存権を守る」ことを「財源が無いから」というのは、個人的にはシックリ来ません。
たとえば…極端な例ですが…大災害が起きたときに、「災害救助と復興に巨額の予算が掛かる」「財源がないから救助せず見捨てよう」という人はいませんよね。
約13兆円規模の国庫負担が生じている年金に関しても、「財源がないからやめよう」という主張は、国会では各党各派いずれからも聞かれません。
党派を問わず、「生存権と財政を天秤にかける」という姿勢は見られない印象ですが、なぜ現役世代の生存権の話になると、途端に天秤にかけられてしまうのでしょうか?
そこがどうも、個人的にはシックリ来ないんですよね。
そもそも「税収が増えすぎている」から「返す」という話
この話もこれまで国会で議論してきた内容ですが、改めて玉木代表がわかりやすく説明していたので、動画をご紹介します。
簡単に言うと、
「予定より多く税金を取ってしまっている分(税収の上振れ)」
「使うと言って計上したけれど、結局使わなかったぶん(予算の使い残し)」
だけで数兆円規模。
さらに、財務省が管理している外国為替資金「外為特会」の剰余金が3.5~4兆円規模。
円安とインフレで国が儲けすぎてしまっているので、国民の皆さんにお返ししましょうよ!というのが趣旨なんですね。
「財源が無い」とは真逆で、「取りすぎて余っている」から返そうと。
「外為特会は使えない」という議論は2年前に済んでいる
多少詳しい人なら、「外為特会はドル建てだから使えない」という意見も聞いたことがあるかと思いますが、その議論は2年前に終わっています。
その後、外為特会剰余金の一部(1兆円ぐらい)を防衛費増加の財源に充てることとなり、当面の防衛増税の回避につながりました。
政府日銀は「安定して物価を上げていく」のだから、それに応じた合理的なインフレ調整が必要
政府日銀が安定した物価上昇を目標に舵を取っていくのですから、物価は安定してさらに上がっていくわけです。
安定的な物価上昇へと舵を取っていくのですから、それに応じて税収も増えていくでしょう。したがって、所得控除を引き上げても税収は困らないはずです。
むしろ、所得控除を引き上げるインフレ調整をしなければ、かえって経済の好循環が滞り、デフレに逆戻りしてしまう恐れもあるのではないかと思います。
まとめに変えて:今起きていることを時代劇風に説明すると
悪代官:「そのほう!年貢の納め時ぞ!」
村人:「お代官様、今年は不作で、ほとんど米が取れませなんだ…。どうかお慈悲を…せめてこの子らの口に食べさせる分だけは…。」
悪代官:「何をぬかすか、この愚か者が!不作だろうと飢えようと、年貢は年貢、法を守るのが民の務めよ。」
村人:「お願いです、お代官様…。子どもたちはもう数日まともに食べておりませぬ…。どうか情けを…。」
悪代官:「ええい!者共!こいつらの貧しい小屋から持てるものすべて持っていけ!米でも雑穀でも、わずかな銭でも構わん。」
役人:「はっ!」
村人:「ああ…何とご無体な…。」
こういうことが現に今、起きてしまっているので、これを改めようという話です。
オーケー?