【防虫の話】カシミヤニットの保管
疑わしき犯人は我と甲虫の幼虫
毎年、製品に穴が開いたというお直しの依頼がありますが、その半数近くが虫食いです。セーターがやられたということは一緒に入っていたウールのコートやスーツなどもやられている可能性は高いです。そんなときに限ってとっても気に入ってたセーターや思い出深いコートだったりするんですよね。
被害者の殆どが『虫に食べられるなんて思いも寄らなかった』という無防備な話が多いんですが、大事なカシミヤに是非『思いを寄せて』頂いて、衣類を食い荒らす虫のことや予防の方法をお知ってください。
衣類に穴を開けるのは蛾の幼虫のイガ(衣我)とコイガ(小衣我)。カナブンの仲間のヒメカツオブシムシとヒメマルカツオブシムシ。
夏の夜の電灯に沢山の我が集まってくるけどあの中にはほとんどイガはいないそうです。
イガは自然の中にはあまりいないのでカーペットや布などに卵や幼虫の状態で入り込むらしいんです。自然界とは関係ないところに住んでいて気候などにあまり影響されないので物流の進歩に伴って大航海時代に世界中に広まったと思われます。
要注意:ヒメマル
衣類の食害の中で、犯人の多くはヒメマルカツオブシムシらしいんです。私はヒメマルと呼んでいます。
ヒメマルカツオブシムシ(姫丸鰹節虫)。成虫はいわゆるカナブン(鞘翅目 しょうしもく)の一種。カナブンといっても一般にいうコガネムシのような大きさではなくテントウムシをもっと小さくしたような体長2~3ミリの小さな甲虫です。
ヒメマルの幼虫は5ミリぐらい、全身を毛で覆ういわゆる毛虫、幼虫で越冬します。衣類はもちろん名前のごとく鰹節などの乾物から昆虫の標本や剥製までも食べてしまう雑食。イガに比べて食べる速度は遅いのですが、こいつが自然界で何をえさにしてどのようなライフサイクルを送っているのかはきちんとは解明されていないそうです。
春、マーガレットなどの白い花に沢山のヒメマルの成虫が群がっているのを見かけることがあります。私も実際に何回も見たことがあります。家庭の庭の花に来ているときもあります。成虫は花の花粉などを食べているんです。衣類や乾物を食べるのは幼虫の頃で、成虫は衣類に穴を空けたりはしません。
気持ちのよい春風、でも窓はきちんと閉めましょう
ヒメマルは日本の自然界に普通にいますので要注意です。成虫が発生する春の頃は花が咲いている周りを散策したときなど服にとまっていることもあるので家に入るときは気をつけてください。
また、外に干した洗濯物や布団に成虫がとまっていることがあるそうです。昆虫の目は白や黄色などを見分ける機能があるので白い花などによく飛来するんですが、白い洗濯物などは狙われやすく特に注意が必要です。取り込むときには気をつけて、目でチェックしたり掃ったほうがいいと思います。春の薫風は気持ちのいいものですがヒメマルも盛んに飛び回っているので窓は開けても網戸はきちんと閉めたほうがいいと思います。
未だ詳しい生態は解明されていないヒメマル
卵は20個から100個も産みつけられ1週間から10日間で幼虫に孵るそうです。
この季節は、面倒ですがヒメマルに気をつけるしかなさそうです。
紡績会社の方からこれ、『原毛の食害は地面に近い下にあるほど被害があるようです。2階に上げた原毛は全然被害が無いんですよ』。という話を聴いたことがあります。
空中から飛んでくるヒメマルもいるけど地上を這って扉の隙間などから進入する奴も多いのかも知れませんね。そんな奴の為にも床や床の隅などに毛糸くずがたまらないように掃除したり、毛製品は床などに直に置かずに必ず台の上に置くように心がけることが大事だと思います。
虫にとっても、美味しいのとまずいのがあるらしい
虫の進入に気をつけることは大事ですがやはり防虫の備えをすることのほうが断然効果があります。と言うより必ず防虫はしてください。
普段、UTOではショールームの棚にあるセーターの上にも所々に防虫剤を置いています。ウール系の素材はカシミヤを初め、羊、アンゴラ、キャメル、アルパカ、モヘヤなど色々ありますが、どういう訳か柔らかくて高価な奴が先に食べられているような気がしてなりません。高価なカシミヤは一番初めに食べられているようですので、防虫剤はかならず入れてください。
有臭系と無臭系の防虫剤がありますが専門家ではない私としては効果のほどはあまり解りませんが、臭いの無い方が使い勝手がいいので、無臭系を使っています。
防虫効果は上から下へ
防虫剤は基本的には空気より重いので衣類の一番上に置いたほうが効果が高いそうです。
イガの卵などはスチームを当てると孵化しないそうです。ニットを製造するときは工程の中で何回かスチームを当てるのでそれだけでもかなりの効果はあると思います。チャンスがあれば家でもスチームをあてるのもいいと思います。(あてる程度にしてください、抑えると毛が寝てしまって折角のふんわり感がなくなります)
蛇足ですが、ナフタリンのにおいはドライヤーを当てると臭いが早く取れるそうです。お葬式に行ったらそこかしこからナフタリンのにおいがして、みんな仕舞ってあった喪服を急いで引っ張り出してきたんだなぁと変なところで共感した思いがありますが、きっとドライヤーのことは知らなかったんですね。皆さんは急なときにやってみてください。
要注意:異なる防虫剤は絶対に一緒に使わない
防虫剤は異なる防虫剤を一緒に入れないようにということです。組み合わせによっては害があるそうです。例えば、ナフタリンと樟脳は一緒にするとしみになることもあるそうです。なぜナフタリンが入っているところに重ねて樟脳を入れる人がいるのかというほうが不思議なんですが。説明書をよく読んでください。
ちなみに、ニットメーカーであるUTOの東京のオフィスでは製品だけなので無臭タイプ一本やり。工場では糸などは有臭タイプ、製品は無臭タイプを使っています。