映画「his」
大ヒット御礼トークイベントに参加しました。
「his」を2回観て、発見も多く
完璧じゃないのがこの作品というか
今泉監督作品の魅力なのかな。
どこか引っ掛かりがある。それは映像的にもだし、内容的にもだし。
今回は脚本のアサダさんとの組み合わせもあるだろうし。
余白であり、作品が受け取り手によって
広がっていくような伸びしろみたいな。
私はそもそも、この作品をラブストーリーであり、
ヒューマンドラマだと思っていて。
それ以外に余計な説明はいらないなと改めて感じました。
なんか何を言っても嘘になるもん。
質疑応答にありがたくも参加させていただいて
すべてのインタビューをさらっていないので
重複していたら大変申し訳ないと思いつつも
撮影に入るにあたって、ドラマ版を見てから挑んだのか
質問させていただきました。
昨年ドラマを見ていて、記憶に残る高校時代の二人が
映画ではそのまま成長した姿に見えて
時折二人と重なることに本当に驚いたんです。
実際はドラマは見ておらず、脚本だけ読んでいたとのこと。
宮沢さんは自分だったらどう演じたかなと想像しながら
読んでいたそうで、それが藤原さんも同じだったのは
つい最近判明したそう。
現場ではスタッフがドラマ版と同じで
ドラマ版の二人にとても愛をもっていて
宮沢さん曰く「俺たちじゃダメってこと?(苦笑)」
と思ったとのこと。
高校時代を脚本から疑似体験して
記憶として落とし込んで、あの8年後の二人が
出来上がったのかと思うと、納得できるような
不思議な感じだった。
成長してキャストが変わると
やはり別物というか剥離してしまうことが多いから。
藤原季節さんの持つ熱さは
演技やインタビューからも感じていたけれど
宮沢氷魚さんも同じ熱さを持っていて、
それが内側からじわじわ漏れているのが
印象的でした。
藤原さんは渚を自分で演じていて
そのうえで一番理解しようとしていて
最初に賛否ある作品や渚に対してのいろんな言葉に
すごく傷ついていて素直な方なんだなと
涙ながらに話す姿を見て思った。
まっすぐ受け止めてたらもたないよ
しんどくなるよと思うんだけど
それが強さでもあるのかな。
演者から、彼らは今も生活してるという
続きの話をしていただくと
とっても嬉しくなるんです。
結局は彼らの人生の一部分を切り取っただけなんですよね。
宮沢さんは、公開して映画を観て
こういった感情を持てている藤原さんと観客を
羨ましいと言葉にされていて
藤原さんと表現の仕方は違うけど素直な方だなと。
公開までの間、常にプレッシャーを抱えて過ごしてきて
わかっていたけど賛否を受けて
それでももっと話してほしいと求めるのは
強さだなあと。それほど「his」という作品が
大切なのが伝わりました。
「his」で海外に行きたいって言えるのも素敵。
お二人の人柄は最後の今泉監督からの手紙で
とてもよく表れていて、
宮沢さんは恵まれた環境のもと純粋に育ったことが魅力だけど
もっと怒ったり自分を解放してみてもいい。
藤原さんは距離感の近さが魅力だけど、怯えからきているように
思うから、もっと人と距離をとっても愛される人ですよ。
最後の一言を自ら先に言うといっても
なかなか言葉にならず、結局宮沢さんが先に言ったり
お二人のバランスも空気感も心地よくてよかったです。
「迅が氷魚くんでよかった!」と腕を広げる藤原さんに
「なんだよ!(照)」と言いつつハグする姿は
微笑ましかったです。
作品も、お二人のこれからも
見守っていきたいと思えました。
素敵な時間を過ごさせていただいて
本当にありがとうございました。
以下個人的内容考察(ネタバレ)
渚は死のうと思うくらいの限界のなか
迅に会いたいと白川町にやってきたと思っているという
藤原さんの話を入れて観ると
身勝手に思える渚の言動は、自分を受け入れてほしいけど
迅にまで拒絶されたら本当に終わりであるというギリギリのラインで
あったため、すべてを素直に打ち明けることもできず
ごまかしながら、迅の優しさに甘えるしかないという
渚の誰も頼ることのできない心細さや弱さを感じて
一言で「身勝手で嫌い」とシャッターを閉めるには
もったいない魅力的な人だと思う。
玲奈も迅もそういうところに惹かれたのだろうし。
そういった危うい魅力は高校生の頃から変わっていないように思う。
すぐに白川町の人たちと打ち解けていることからも
人間的にとても引力のある色気のある人。
「迅がいないと生きていけない」も本音なんだろう。
これまでの8年は結局自分のようで自分ではない渚を生きていた。
迅は、揺らいでいた自分を引きずり込んで
(この言い方は微妙かもしれない)
きっとあのときのすべてであったろう渚を失い
その後、両親も失い、居場所をなくし
自分の世界に閉じこもっている。
信用して自分のことを話せば、結局自分の居場所を失ってしまう。
もう傷つきたくないから人とかかわることを拒んでいる。
渚の影響で読み始めた本は緒方さんほどではなくとも
かなりの量だ。
審判を愛読し、ずっと自分に問い続けていたように思う。
忘れたいと思っても、忘れられないどころか
セーターや手紙や写真も大事にしまって
ずっと渚との思い出で生きてきて
本当は忘れるつもりなんて全くなかったことがわかる。
そんななかやってきた渚と空。
渚に会えて嬉しい以上にものすごく傷ついただろうし
空を見るたび絶望したんじゃないかとも思う。
でも、一緒に卵を割ることで変わっていく。
今まで一人で食べていた食卓で
自分のつくったものをおいしいと喜ぶ空に
自然に微笑む迅は、すごく救われたんじゃないのかな。
「大切だった人の子供」から、一人の「空」と認識して
だんだん愛情が沸いていくさまが
グラデーションのようでよかった。
はじめて「迅くんも!」と名前を呼んでもらったときも
嬉しかったんじゃなかろうか。住む場所に、渚との思い出のある海のない
山と川がある町を選んでいるのも、
いじらしいというか、愛ゆえ。
二人は白川町で小さくも大きな出会いや関りを持って
成長していく。
人は環境や関わる人間ででいくらでも変わっていける。
自分に優しくすれば世界も優しくなる。
確かに離婚協議中のなか
パートナーの下で子供をみているというのは
普通ではないと個人的には思う。
でもそれぞれの生活に、それぞれの普通があるのだ。
法の下にさらされると、白か黒かつけなくてはならない。
本来は外部がどうこういう権利なんてないと思う。
しっかり対話し、素直に謝ることで玲奈と渚は
和解する。争いとは対話でお互いの気持ちを
本音でぶつければ和解できるのではないのだろうか。
この作品にはたくさんの「ごめんなさい」が出てくる。
「ありがとう」はこれからたくさん出てくるのだろう。
今も彼らはどこかで生きている。
大きな愛をもって、傷つきながらも
でもちょっと転んだくらいでは倒れない。
強くなったのだから。
「物議を醸してください」という鈴木慶一さんの言葉は
すごいなあ。