『桜の園』は誰が買ったのか?

京都で発行されている雑誌Apiedに掲載された文章です。

 戯曲『桜の園』がチェーホフの残した最後の作品だとご存知の方は多いだろう。しかし、彼がこの作品を上演したモスクワ芸術座の稽古にまで立ち会い、さらには女優である妻が出演しているにもかかわらず、初演を通して見ることもなく死んだことをご存じだろうか。

誤解に始まり誤解に終わる――それが私の戯曲の運命さ
 (一九〇三年十一月)

彼ら(桜の園を演出したスタニスラフスキーとダンチェンコ)は一度も注意深く作品を読まなかったと言い切れる
 (一九〇四年四月十日)

 こうした怒りの言葉を、ラネーフスカヤを演じた妻クニッペルに宛てた手紙のなかでチェーホフは漏らしている。つまりチェーホフは最後の戯曲が理解されなかったという想いを抱えたまま亡くなったのだ。
 さて、それでは皆さんは『桜の園』をちゃんと読めただろうか。もし「私は『桜の園』が理解できた」と自信を持って言えるのならば、この作品の演出をした演劇界の伝説であるスタニスラフスキーや、チェーホフの劇作家の才能を『かもめ』で見抜いたダンチェンコよりも戯曲が読めるということだ。誇りに思っていただきたい。
 そこで皆さんに一つお尋ねしたい。桜の園は誰が買ったのか? 劇中、同じ質問を桜の園の主人であるラネーフスカヤが言っているので、読んだ人ならば答えられるはずだ。

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