ミュージシャンとして生きていく人とは
西村晋弥さん
3Pロックバンド『シュノーケル』ボーカル。2004年1月22歳の時にシュノーケルを結成、地元オーディションでグランプリを獲得し、福岡を中心にライブ活動を開始。2005年11月にはメジャーデビューシングル「大きな水たまり」をリリースし、ライブ活動も全国区に。「波風サテライト」がTVアニメ『NARUTO』、「奇跡」がTVアニメ『銀魂』の主題歌に抜擢される。2018年6月、最新フルアルバム『NEW POP』をリリース。2019年8月ブラジルサンパウロにて開催された南米最大級のアニメイベント『Anime Friends 2019』に出演。2018年より、映画監督としてのキャリアもスタートさせ、大学生の青春を描いた映画『E干サークル』が2020年1月公開予定。
高校のときに将来メジャーデビューすると決めた
―西村さんはいつから音楽をされているんですか?
「小6からギターを父から習って、中3で初めてエレキギター買いましたね。中学がものすごい田舎の学校で、ヤンキーたちが文化祭でバンドやろうぜって言うけど俺しかギター弾けるやついなくて。で、通販で2万のエレキギター買いました(笑)」
「高校のときに将来メジャーデビューする、というのを決めてましたね。それに向けて、なにしようかなって。目標を決めないと、やることが定まらないというか。
高校では一回のJUDY AND MARYコピーバンド組んだことあります。他には、俺がオリジナル作ってやってたときもあります。当時からオーディションにはソロで参加してましたね。17歳のときにソロで賞をもらったオーディションの審査員が、4年後シュノーケルのデビューのきっかけになったソニーのオーディションの関係者と一緒だったんです。だから、今思えば、17歳のあの時に、後々関わるっていうのが、決まってたんだろうなって思いますね。」
―「将来メジャーデビューする」と決めたとおっしゃっていましたが、自分ならプロにいけるなっていう感覚は高校の時からあったのですか?
「たぶんバカなんでしょうね(笑)未来に不安を覚える人って多くいると思うんですけど、そういう人にありがちな『プロなんてなれないでしょ』っていうのが全くなかった。だから、バカのまま突き進めました(笑)こんな曲作れるんだったらもしかしたらなにかが起こるかもしれないっていうのはどっかのタイミングであったかもしれない。」
毎日最低でも一曲作り続けた高校時代
22歳のデビュー時にすでに300を超える楽曲をストックしていたという西村さん。曲はよどみなく沸いてくるそうですが、驚くことに、作曲スキルは後天的に身に着けたそうです。学生時代にどのような試みをされていたのか聞きました。
「最初から曲を作れたわけではないんです。高校生の3年間は毎日一曲以上完成させるというのをやっていました。最初は曲の作り方がわからないんで、色んな人のコピーをしながらやっていたんですけど、だんだん繰り返していく毎日のなかで、コピーしなくても浮かぶようになったんです。その積み重ねから今があります。だからギターを持って曲を作った記憶がないんです。勝手に出てくるので。」
―作曲のスキルは後天的に身に着けたということですか?
「そうです。先天性じゃないです。父が楽器好きで、家中楽器だらけみたいなところで育ったので、その影響はあると思いますが、創作に関していえば、後から身に着きましたね。
高校生のときに、初めて、ギターを持たずにパッと思いつくみたいな感覚があったときの曲は未だに残っています。そういう曲は、後々メジャーでリリースしてます。銀魂の曲『奇跡』もそうです。」
―パッと出るというのは、曲のどの部分なのですか?
「完成系ができてます。バンドとしてできた状態で。ラジオを聞いてたら、知らない曲が急に出てくるじゃないですか、あの感覚です。」
「例えば、業者の人と会って、CM曲のオーダーを頼まれたら、その人と別れる時には曲はできてます。話してるときに浮かんでくるので、相手が飲み物を飲み干す前に完成します。」
―今もすごいスピードで作曲されていますが、全曲おっしゃったようなインスピレーションが沸くような感じで作ってらっしゃるのですか?
「そうです。歌詞も一緒に浮かぶんですけど、歌詞だけ面白いものが作れればいいな、と時間をかけるくらいですね。作詞は自分とつじつま合わせる作業です。
プロトタイプができたらギター、ボーカル、ドラム、ベース、全部僕が録音して、デモテープとしてメンバーに渡します。色んな人に頻繁に「天才」ってよく言われるんですけど、全然天才じゃないですよ。高校時代やっていたことがよかったです。」
「ミュージシャンは辞めた方がいい」
サブスクリプションや無料ツールで音楽が手ごろに聴けてしまう時代。ミュージシャンというキャリアについてのお考えをききました。
「ミュージシャンは辞めた方がいいです。『音楽』という時代が終わってしまったので。僕らがデビューしたくらいから、ネットで音楽はいくらでも聞ける時代になって、CDは売れなくなりました。ミュージシャンという職業をこれから目指す人は、やめた方がいいです。それを聞いて、「辞めた方がいいんだ」と思って辞める人は辞めて正解。「うるせえ」って思う人だけ続ければいいと思います。」
―西村さんの音楽の収入についてお伺いしてもいいですか?
「今は事務所に所属せず、自主製作でやっていて、音楽活動の売り上げは全て次の製作費に充てています。なので、音楽の収入というのはほとんどないです。趣味の方が音楽は楽しいと思います。僕らもある種、趣味に近いです。」
―普段はお仕事されていらっしゃるのですね。
「映像を作る会社で働いてます。僕らがデビューしてるときは考えられなかったけど、今じゃメジャーデビューしてるバンドもバイトしてるとか当たり前になってますね。人を感動させたいっていう思いが本当に強くないと辞めたほうがいいです。『やっていけるかなあ』って不安な人は就職した方が絶対人生豊かになります。音楽って仕事しながらでも余裕でできるんで。僕は仕事して、映画撮りながら音楽やってますから(笑)平日ほとんど音楽はやっていませんし(笑)」
―音楽だけで生計を立てている人も業界でも少ないのですか?
「名前聞いて知ってるってなるアーティストくらいです。僕らの時代よりも絶対数はすごく減ってます。」
「これからも、どんどんいなくなっていきますよ。みんな働きながら、自分で配信する時代になっているので、いつかその人たちだけになると思います。フラットになりますね。でも、そこが難しくて、才能がある人の価値がなくなってくる。分母が増えるだけ。そういうことが、みんなの中で、「できそう」ってことになってしまって、本当にすごいことができてる人の価値が小さくなってきてます。」
西村さんの初監督作品「E干サークル」は2019年1月公開予定
最も大事なのは言葉
―アーティストとして生活していける人ってどう違うのですか?
「言葉ですね。メロディーとかリズムって実はどうでもいいんです。作曲って一番どうでもいいんですよ。なんとでもなるので。ただ、作詞は恵まれていないと書けないんです。作詞家って、作詞家、作曲家、編曲家の中で一番給料高いんですよ。同じ曲でも、歌詞で大ヒットと全く売れないものに分かれてしまう。メロディーがキャッチーで売れてない曲なんてごまんとありますから。時代が変わっても残るものは言葉なんです。」
「言葉はその人が過ごしてきたものでしかなくて。メロディーはすごいロジカルなんですけど、言葉はロジカルなものと、そうじゃないものがあります。ロジカルを飛躍したものが、今でもテレビやラジオで流れ続けてます。ロジカルなものでもその場では楽しいことはできるはするんですが。僕はロジカルなものが好きなので、大ヒットみたいなタイプの人間ではないです。ロジカルを越えてこないと大ヒットは生まれません。」
―売れてる人は言葉が時代とあってるんですね。
「そう思いますね。あいみょんはすごかったです。あいみょんとはライブで一緒になったこともあるんですが、この人は絶対ヒットするって彼女がデビューする前から思いました。」
―西村さんの湯水が湧き出るように曲ができるというのは、ロジカルを越えていることではないんですか?
「やっぱり言葉のところは、そのまま出せないというところがあって。言葉は細心の注意を払ってやっていますね。」
―歌唱力というのはヒットのなかでどれくらい重要度を占めてるんですか?
「意外とバンドとかだと、すげえ歌下手なやつはいっぱいいるので(笑)
キャラクターなので、歌唱力ははまり方ですよね。下手な方が響く曲もありますし。その人とかみ合ってるかどうかが大事ですから。」
売れる人が持つ貫く強さ
デビューされてから、一番辛かった時期はいつ頃なのですか?
「デビューしてる間はずっと辛かったっすね。自分が出したいものが世に出ていかないので。色んな人が関わってくると作品が中和されて世に出ていってしまうんです。その中で、芯が強い人たちだけが生き残るんだろうなっていうのは思いますね。」
「僕の場合は当時そこまで貫けるほどの力を持っていなかったというのが大きいです。バンドで売れてる人は貫けるだけの強さがあります。僕らのバンドってあまり特色がないので、逆になんにでもなれるんですけど。RADWINPSやチャットモンチーとかは、動かせないじゃないですか。歌詞とかメロディーもあそこまでされると、大人たちもなにかを動かそうってならない。僕らは、いまだに、自分がこれっていうのはないですね。未だにわからないです。それがわかっちゃうと怖いなって思う部分もあるし、それがわかっちゃったときにどういう風な曲が浮かぶのか。
色んな曲が浮かぶので、どれが自分の核なのか、いまだによく分からないです。」
音楽をやる大学生へ
最後に、音楽やっていきたいという学生にアドバイスをいただけませんか?
「絶対就職した方がいいです。スガシカオさんもサラリーマンしながら音楽をされていたので、あれが現代の理想の形だと思います。バイトしながら音楽すると、すっごいズルズルと30代を迎えてしまうので、それは本当におススメしない。本気だったら、就職してても全然できるし。バイトしないと音楽できないって思ってる人はやめた方がいいです。大成しないです。その時点で人に伝わらないと思いますね。『バイトしながら、30歳になったけどまだ音楽続けるぜ』みたいなことではなくて、自分の地盤があったうえで、そこで得たものから生み出されたもの世に出した方が絶対良い。」
―成功してる人って、不遇な生活から抜け出して、その辛い記憶を音楽に載せて感動を与えてる印象があるのですが、それとは異なるのでしょうか。
「それは18歳~大学までですね。確かに、そこまでで育ってきた環境のなかで得たことが言葉の強さにつながります。極端に裕福、貧乏とか、いじめとか、強烈な体験で得たものでしか、人に響く言葉って難しい。
でも、そこから先は、自分で自分の生活を守れるようになってから、+αでやってる音楽に光るものがあれば、必ず輝きます。」
「M-1ってあるじゃないですか。あれをどうして島田紳助さんが作ったかというと、10年目になっても準決勝に残れないやつは周りのために辞めろっていう意味で作ったんですよ。それだと思うんですよね、音楽も。それ以上続けても同じだよっていう。でも音楽は自分の人生をふるいにかける機会がない。その人が、どんなに信じてもどうしたって叶わないものってあります。それを精査する機会は必要。そうすると、最初から就職したうえでやりながら、そこで勝負した方がいいと思う。どっかで的絞って自分の人生を決めていかないと、周りの人を不幸にしてしまいます。それは音楽と一番遠いことです。」
―西村さん、ありがとうございました!
編集後記
学生キャリアというテーマでの取材だったため、少し物質主義的な野暮ったい質問をしてしまいましたが、とても丁寧にお答えいただきました。西村さん、本当にありがとうございました。
夢と現実を冷静に俯瞰する西村さんの観点、西村さんがされてきたことを自分と照らし合わせながら、学生の皆さんが自分なりの答えを見つけることができれば幸いです。「音楽は、夢を追うことを人生の中でふるいにかける機会がない」という言葉が印象に残っています。今回の記事が精査する機会になればと思います。
(取材・編集 工藤一将(UTIC))
西村さんの初監督作品『E干サークル』が2020年1月に公開予定!ぜひ劇場に足をお運びください!詳細はこちら!
E干サークル特設サイト:
https://weeklyeveryday.com/event/eeboshicircleofficial/
E干サークル予告動画:
https://www.youtube.com/watch?v=9T7hg5__JVI
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