「練習中」漫才師が開拓する「芸人×マネタイズ」
ひがしゆうやさん(写真右)
お笑いコンビ「漫才練習中」のツッコミ担当。東京大学経済学部を卒業後、株式会社ジュピターテレコム(J:COM)に新卒で入社。2年目の時にコーチングを生かせる株式会社フォーサムアクティブに転職。社内コーチング制度の立ち上げ、コーチングを活用した採用や人材育成に従事。2108年、仕事の傍ら、お笑いコンビ「漫才練習中」の活動を開始。2019年4月に結成1周年記念ライブを開催し、100人を動員し大成功に治める。現在は育休を取得しながら、主婦漫才師として10都市を周る全国ツアーに向けて活動中。
漫才練習中Twiitter:https://twitter.com/pakamax425?s=17
ひがしさんTwitter:https://twitter.com/higashi_manzai/
1周年記念ライブHP:http://manzailive427.strikingly.com/
漫才活動にいたるまでのキャリア
大手から中小への転職、育休取得、漫才師の活動というユニークなキャリアの変遷についてお伺いしました。
「学生時代から教育の分野に興味があって、『大規模なJ:COMのリソースを活かして、教育事業を立ち上げたらおもしろそう!』という理由でJ:COMに入社したんだよね。ただ、将来的には教育の分野で起業や独立をしようとも思ってた。」
「当たり前なんだけど、自分の好きな新規事業を立ち上げるって入社して5年、10年じゃできない。1年間、お客様対応をして、その後配属されたのが電力関係の新規部署。新規事業の企画やグループ会社の管理みたいな仕事をしてたけど、自分がやりたいこととは違ってて。
その時出会った『コーチング』が転職するきっかけになった。起業や独立に向けて、教育と組み合わせる面白いコンテンツを探してたときに、後に入ることになるコーチングスクールの説明会動画をたまたまYoutubeで見て、それがめっちゃおもしろかったんだよね。心理学とかコミュニケーションスキル、行動科学を使って、本人も気づいてない本当にやりたいことを一緒に見つけて、実現へのチャレンジを応援するっていうコーチングという仕事を知った。
それを聞いて、『これを仕事にしよう』と。スクールに通いながら、『コーチングで独立する!』っていろんな人に話してたら、『まず実績を積んだ方がいいよ』とアドバイスしてくれる人がいて、コーチングを欲しがってる企業を紹介してくれたんよ。それが今の会社。」
「今の会社に転職して、社員へのコーチング以外に採用にも携わるようになって。採用活動にもコーチングのスキルや考え方を取り入れて、学生向けのキャリアセミナーやコーチングをしてたんよ。『もっとやりたいことにチャレンジする人生を生きようよ!』って熱く語ってた(笑)。でも、あるとき『自分はやりたいことにチャレンジしてるのか…?』って疑問を持ったんだよね。一緒に仕事をしていたやつと『もっとチャレンジしよう!』という話になって、2人とも好きな『お笑い』に挑戦してみることにした。これが漫才を始めたきっかけ。」
漫才を始めて気づいたこと
相方パカさんの記事でも紹介した通り、「人のチャレンジを応援する」という価値を追求する漫才練習中。路上漫才の活動を始めたことで気づいたことがあったそうです。
「僕らは、『練習中』というコンセプトで漫才にチャレンジしてるんだよね。
実力がないうちって、『やってます』って公言したり、始めたりするって難しい。『そんなことやって意味あるの?』とか言われるしね。
僕らも、漫才をやろうと決めた時『人前でやるの恥ずかしい」って思った。
だけど、やってみたら、下手くそでも応援してくれる人が出てきてくれて。下手くそだからこそ応援したいとか、想いを持ってるから応援したいとか。チャレンジから勇気を受け取ってくれて元気になる人がいるということを体感したんだよね。
『やってます』って公言しづらくて、やろうっていう気持ちにすらなりづらい、『○○練習中の人』を後押しするために漫才にチャレンジしてる。」
↑路上漫才を始めたころ
「練習中」に価値を置くスタイルを見つけたきっかけ
フォーサムアクティブで学生にキャリアコーチングをしていた頃、彼らに恥じないよう自分たちの「やりたい」を実行しようということで始まった漫才練習中の活動。おもしろさよりチャレンジに重きを置くユニークなスタイルとビジョンを掲げる、風変わりな芸人活動。そこには差別化を図る戦略があったのでしょうか。
「漫才を始めてみたら、僕らのチャレンジ自体が周りの人に勇気を与えられるということに気づいて見つけたのが今のスタイル。だから、もともと戦略は練ってなくて。『やってみようぜ!イエィ!』で始めたのが僕らの漫才(笑)。それで、やってみたら、応援してくれる人が着実に増えていって、『こんなにレベルが低くても応援してくれる人が出てくるんだ』って。チャレンジしてる、想いを持っている、成長していく。そういうことに関わっていたいとか、僕たちという人間を好きになってくれるとか。そういう応援者が現れるってことが分かった。だから、チャレンジすることをメインの価値とした活動にしようと考えた、って感じかな。」
↑1周年記念ワンマンライブでは100人以上が来場
漫才で食べていけるとは思っていない。
6/15に芸歴5年目以内のお笑い芸人による賞レースに参加した漫才練習中。残念ながら初戦敗退。実は漫才で食べていけるとは思っていないという。センスも実力も上のライバル芸人がひしめく業界で、それでも「漫才しながら生きていく」ために編み出した構想とは。
「漫才の活動で生活するというつもりはあんまりなくて(笑)。2018年の9月にワンマンライブがあって、次は2019年の4月のワンマンライブまで半年間漫才での収入がないんよ。ワンマンライブで400人が来ても、せいぜい数十万円。半年で。生活できないよね(笑)。だから、漫才の活動だけでで食べていこうなんて思っていなくて。ほとんどの芸人さんはそれで失敗してるんじゃないかなと思う。人を笑わせたいという想いもあって、センスもあるのに、運が無くて売れない。他の芸人に実力で負けてしまう。そういう理由で、たくさんの芸人が辞めていく。で、その人たちよりもおもしろくない僕らが、どうやって漫才だけで稼ぐの?って感じじゃん?
漫才だけで稼ぐのは難しいから、『漫才練習中という物語』に価値を感じてくれる人に物語の購読者になってもらう、もしくはその物語を共同で制作する権利を買ってもらう。そういう人を増やそうというのが、僕らの考え方。」
「人のチャレンジを応援する」をどうマネタイズするか
「『漫才練習中という物語』を僕の人生にも広げると、『主夫をやっていても漫才に挑戦してる』っていうストーリー、『やりたいことをやり尽くす人生』というストーリーでもあるんだよね。
漫才も、子育ても、コーチングも、他のやりたいことも。人生を通してやりたいことをどうやって実現するのか。そのために、好きなことをどうやって収入に繋げるのか。その方法を僕という人間で仮説検証してるというのが『ひがしゆうや』という物語。
僕の生き方について聞きたいって言ってくれる人がいて、それが本当に嬉しいんよね。
生き方、キャリア選択、意志決定、価値観をひっくるめて、僕や漫才練習中に触れたいと思う人に、オンラインサロンとかで情報を共有したり、物語を楽しんでもらったりする。そして僕は対価をもらう。そういう価値提供と対価の形に向かって今動いてる。
この「ストーリーを見せてチャレンジを後押しする」って、まさに『漫才練習中』の活動コンセプトと同じなんだよね。
色んな人が関わる『漫才練習中』という大きなストーリー。そこに、登場人物のそれぞれのエピソードがあれば、常に見ていたい、関わりたいという人がどんどん増えていく。
漫才練習中に触れられるコミュニティでそういう価値提供が成り立ったら、もう漫才師としてお金もらってるのかあいまい(笑)。でも、そこが主たる収入源になるようにチャレンジしてるよ。」
主夫をしながら漫才師
「ひがしゆうや」という人生が誰かの人生の道を照らす。そんな存在でありたいと語るひがしさん。事実「主夫」という選択肢は合理的な夫婦の関係性を示す大きなロールモデルでした。
「うちの夫婦は去年娘が生まれた時に二人で育休を取って、その後、奥さんは仕事に復帰。今は僕が家で娘を世話してる。
一般的な『男は仕事、女は家庭』と真逆のキャリア選択が実現しているのは、以前から奥さんと『人生やキャリアにおいて奥さんはなにを大事にしているのか?僕はなにを大事にしているか?』を何度も話し合ってきたからなんだよね。」
「奥さんは、組織の中で立場を上げていきたい。僕は組織に興味がない(笑)。育休の時間をどっちが長く、どっちが短くしたらいいか一目瞭然だよね。当面は、家計の主たる収入源は、組織を活かしながら仕事をしたい奥さんが担う。代わりに子育ては僕が担う。それに加えて仕事への復帰も視野に入れながら、すぐに収入になるかは分からない活動にもチャレンジしながら、長期的には子育ても、やりたいことでの価値提供も、それを収入にすることも実現しようと思っている。欲張りだけどね(笑)」
「夫婦でお互いがやりたいことを伝え合いながら、世間の声を気にしないで、自分たちの形を実現しようとするのが大事なんだと思う。」
「もうおもしろい」と思われちゃいけない芸人
漫才練習中は磨き上げた芸ではなく、そこまでのチャレンジというストーリーを価値に変えていきます。
「ロールモデルとして人の挑戦を後押しする。」
この価値観が、他の芸人とのスタンスの違いにも関わっているようです。
「漫才師って、みんな『おもしろい』っていうブランディングをしたいけど、僕らは、そのブランディングをもっと後にした方がいいんだよね。『おもしろくなっていく』というブランディングが必要で、『おもしろい』っていうブランディングは必要ない。
僕らは唯一、漫才師としての成長を遅らせることができる漫才師。普通だったら、早くアルバイトを辞めるために最速でおもしろくならないといけないけど、僕らは逆に最速でおもしろくなってはいけなくて。単純に上手くなるんじゃなくて、色んなチャレンジを人を巻き込んでやっていって、作りたい世界観をみんなで体感していく成長じゃないとダメ。みんなと冒険しながらやっていく。みんなで漫画ONE PIECEを読んでる、描いてるみたいな感じ(笑)
今年もまたM-1に出るんだけど、おそらく、また一回戦で負ける(笑)。けど、その後、自分たちの漫才でできてないところを言語化して、そこを直すための新たなチャレンジを、みんなを巻き込んでやってく。『みんなでボケ出し合い企画』とか。それで、M-1をみんなで勝ちあがれたらおもしろくない?」
「もっと言うと、M-1一回戦敗退なのに、2000人の会場がいっぱいになるライブができる方がおもろいよね。漫才はおもしろくないのに、2000人も集まって…何やってんの?って(笑)。一緒に作り上げるとそれができる。そこを目指してるんだよね。」
自分も「漫才練習中」の一味になれる。
漫才開始1周年で100人を動員した2019年4月のワンマンライブ。漫才練習中のチャレンジは全国ツアーへと飛躍しています。
「今は、漫才師としての成長のフェーズの前のチャレンジすることへの共感集めのフェーズの段階なのかなって思ってる。
漫才練習中のコンセプトに共感してくれた飲食店の店長が、僕らに単独ライブの場所を貸してくれたり。一周年記念として100人を集めてワンマンライブができたり。次は全国ツアー。練習中なのに(笑)。
『全国ツアーをやります』って言ったら、すぐに名古屋の人が手を上げてくれて7月に一緒にやることになって。チャレンジする姿を見せて、それに応えてくれる人が増えてきてる。
成長フェーズのストーリーはまだ描きながらの状態。成長を遅らせるってそういう話で、おもしろくなくても人が集まる仕組みが作れれば、漫才を続けられる。『漫才のネタ』だけで見ると、ネタのおもしろさしか楽しめるところがないけど、例えば漫才ライブの制作に参加できれば自分が携わったことが形になるおもしろさもあるし、漫才練習中という『物語』を楽しんでもらうんだったらもっと大きな範囲で人を巻き込める。純粋に漫才が好きな人以外、例えば全国ツアーというプロジェクトの一味になりたいっていう人の想いも活動に乗っけることができる。
成長を遅らせながらチャレンジを続ける。そうすれば、成長を一緒に楽しめるし、チャレンジが大きくなっていくことも楽しめる。そんな物語に関わってくれると嬉しいなっていうのが『漫才練習中』。」
ファンが作ってくれたポスター。色んな○○練習中と作り上げる漫才練習中のライブ。
実績のない人間のドラマ
最後に、ひがしさんの想いの根底には、何者でもない人たちが自分らしく楽しい人生を送ってほしいというメッセージがありました。
「漫才練習中という生き方を見せると言っても、実績はなにもない。みんなが見たがるような人間ドラマはないんだよね。例えばホリエモン。時代の寵児から牢屋に入って、色んな制約があるなかで、やりたいことを実現して、ロケットまで成功させました、みたいな。ニュースや本やネットで見聞きするような人の人生。
そういう人を真似てみたいと思っても『無理じゃん、それは』って思う(笑)。無理でしょ、そんな人生にするのは。こんな人がいるからみんなもチャレンジできるよねって言われても、『いや、ちょっと、、』と思う人も多いんじゃないかな。可能性はあるけど、自分のとこにはない可能性な感じがする。
リクルート出身ですごい営業成績残して、自分で事業立ち上げました、とかさ。難しいなって。そもそも、僕はそこに興味がないんだよね。そういう風にビッグになることにはあまり興味はないけど、自分の人生の物語を描きたい人はたくさんいる。
僕らが周りから批判されるような漫才の挑戦をしながらアマチュアの活動で100人を集めた、とか聞くと『私には真似できません』っていう人がいると思うんだけど、僕はビジネス的な実績はほとんどない。ビジネス的な実績がなくても、色んな活動ができるのは僕を見てもらえばわかると思う。東大卒なんて、関係ないのよ。学歴は全く活かされてないし(笑)。持ってるものを使いながら、世の中一般が認める実績とか成功とかの枠の外で、物語を描ける。みんなの中にある、『あんな派手に成功する人生は無理だし、没落する人生も嫌。』『そんな人生じゃないけど、もっと深みのある、おもしろい人生にしたい』っていう気持ちに対して、なにかヒントを伝えらえるといいな。自分の生き方を通して。」
編集後記
取材班の脳がキャパオーバーするほど本当に色んな話をしてくれたひがしさん。取材時間なんと2時間超え。文字数の関係上、記事で取り上げることができたのはほんの僅かでした。見せきれなかったひがしさんの生き方。「漫才練習中」という船に乗り込んで、ぜひ体感してみてください。
(取材:工藤(UTIC)・高橋(UTIC)・猪熊(UTIC) / 編集:工藤(UTIC))
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