12 アンの部屋に
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マガジン
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毛玉がタブレットを覗きながら、
リビングで熱心におかしを撮影しています。
「ねえ、あの本読んだ?」
その最中、ビビが自室からアンのいる
リビングに降りてきました。
「読んだぞ。部屋にある。」
「これから図書館に返しにいくから、
持ってきて。」
「わがはいはいま忙しい。
部屋に置いてあるから持って行っていいぞ。」
「おかし撮ってるだけなのに?」
アンのおかしな行動は、
今日に限ったことではありません。
タブレットに写真をいくつか収め、
アンはその出来栄えを確認します。
「終わった?」
「まだある。」
プラスチックコンテナに入った
おかしの山を見せます。
「これも地球の調査だからな。」
「そんなに撮るの?」
「撮る。だから忙しい。」
「…それなら、あとでいいから
本取ってきてよ。」
交渉のすえに妥協したビビを、
アンはじっと見つめます。
アンは気づきました。
「オバケ?」
アンのそのひと言にビビは肩を驚かせました。
ビビの姉、エリカが言っていたことを
アンはふと思い出したのです。
「わがはいの部屋に出るのか?」
小さく2度、うなずきます。
「一緒にベッド組み立てたのに?」
アンが来た日に届いたベッドは、
ビビと母のティナとで屋根裏部屋に運び、
3人で組み立てました。
「違うの。あたしひとりの時に、出たの!」
「ビビはオバケが苦手。」
ビビの顔がみるみるうちに青ざめていきます。
アンの部屋になっている屋根裏はむかし、
外で遊ぶことを嫌ったビビが秘密基地にして
ひっそりと本を読んでいた場所でした。
しかしある秋の日の、月の明るい夜のこと、
ビビがいつものように屋根裏に侵入すると、
目の前に白い影が現れました。
それ以来ずっとひとりの入室を避けていたのです。
「オバケ、撮影しよう。
これも大事な地球調査だ。」
「しなくていいよっ!」
ビビの抵抗むなしく、
晩ごはんを食べ終えたアンによって力ずくで、
屋根裏部屋へと向かう階段へと引きずられました。
「楽しみね。」
「楽しくない。」
好奇心旺盛な姉のエリカも
オバケ調査に付き添います。
真っ暗な階段を3人は足音を立たずに上ります。
今日に限って電気も点けず、
部屋の扉を開けました。
元の倉庫同然の屋根裏部屋は
プラスチックコンテナがあふれていて、
不気味なほどの静けさが支配し、
ビビはエリカの後ろに隠れて中を覗き込みます。
天窓から差し込む月明かりが、
あの日の出来事を思い出させます。
すると、部屋の隅から
白い影が浮かび上がりました。
「デター!」
「ほらっ! ほら! ほらぁ!」
嬉しそうなエリカとは対称に、
ビビの悲鳴は泣き声に変わります。
タブレットを持って撮影に望んだアンでしたが、
暗すぎてなにも映りません。
アンが部屋の電気を付けると、
そこにはギザギザの口に大きく丸い目が、
黒紙で貼り付けられた布のオモチャがありました。
「ふへぇ…。」
涙目でオモチャを見て、
ビビは思わず変な声を漏らします。
「このてるてる坊主は、
わがはいの部屋にずっとあるやつだぞ。」
「てるてる坊主じゃないよ。
アンちゃんにサプライズで
わたしが用意しておいたオバケ。」
「エーちゃん?」
「これ箱部分に光センサと赤外線センサがあって、
暗い部屋に人が入ると回路が閉じて、
モーターで白いのが上に動く仕組みだぞ。」
アンが解説します。
「なんで…そんなの…。」
「たしか中学のときのハロウィンで、
授業で作ったんだったかな。
まだ小さかったビビが
屋根裏部屋に入らないようにって。
可愛いでしょ?」
エリカに満面の笑みを向けられたビビですが、
しがみついたまま腰を抜かしてへたり込みます。
「もぉー! バカー!」
アンはといえばタブレットをオバケに向け、
熱心に写真を撮っていました。