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名のないオバケ

掌篇シリーズ『今夜12時、誰かが眠る。』
https://shimonomori.art.blog/2020/10/01/haox/

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私はオバケである。

妖怪などと忌まわしく扱われる場合があれば、
妖精として貴重がられる場合もある。

地域によっては呼び名は様々だが幽霊、
ゴースト、ファントムなどとも呼ばれる。

歴史は長く種類は豊富ではあるものの、
個別の名前、固有名詞はまず無いのである。

中には生霊と呼ばれるものもあるが、
生物学として扱われることもない。

見間違い、勘違いから生まれたに過ぎない
想像の産物に尾ひれが付いたりもしたものだが、
印刷の普及や機材の発展で18世紀から20世紀に
地域ごとに爆発的に広まりを見せると、
さらに情報通信技術によって世界中に広まった。

それがブームの終わりであった。

デジタル機器が広まった現代において
オバケの信憑性はまたたく間に薄れ、
『オバケめだか』や『オバケ野菜』など
ほとんどが変異を示す形容詞に化けた。

化け物の正体見たり枯れ尾花。
オバケ業界も栄枯盛衰である。

夏場の旬を過ぎたオバケたちは、
どうやって生きていけば良いのか。
生き辛い世の中になったものだ。

さて21世紀にもなって名前も無いのでは、
遅まきながらSNSデビューさえままならない。

オバケはヒトに観測されてこそ
オバケ足りうるものであるが、
SNSは名のあるヒトしか使えない。

こうして承認欲求を満たせずさまよう
オバケにとって、匿名掲示板こそ
お似合いの場所かもしれない。

なんせ私はオバケである。