化けネコ
掌篇シリーズ『今夜12時、誰かが眠る。』
https://shimonomori.art.blog/2020/10/01/haox/
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「バレてしまいましたか。」
我が家のネコである『たま』がそう喋った。
テレビを見ていた。
普段与えている高齢ネコ用の(不評な)
キャットフードではなく、
戸棚に入れていた高い缶詰を開け
(堂々と)隠れて食べている現場の最中だった。
誰が見ても疑いの余地は無い。
たま自身も白状したところだ。
「あれ? 驚きませんか?」
後頭部を掻いて目を背け、
人間臭く取り繕う。
元号ふたつ前の、昭和の仕草。
たまを飼い始めたのは、
かれこれ10年ほど前になる。
道路脇の低木の影から尻尾を出して
死にかけている三毛猫を拾い、
近所の動物病院へ連れて行った。
せめて最期を看取ろうと思っていたが、
食事はするし、よく寝て思いの外しぶとい。
明日には生命が尽きるものと、
毎日のように覚悟を決めていた。
しかし食欲旺盛で、みるみる内に太る
たまを見て、大丈夫だと確信した。
ノミが酷かったのでシャンプーをしたら
弱々しくなり死に損なったので、これが最後と
高い缶詰を買い与えた。
これもガツガツ食うので弱ったフリだった。
朝起きると、テーブルの上で後ろ足で
立っているところを見かけた。
何か虫を見つけたのか
前足を振って戯れはじめたが、
これもフリだった。
来客用に出しっぱなしになっていた
湿気ったせんべいを隠れて食べていたのだ。
以来、せんべいの咀嚼音が
時折、誰も居ない居間から響くようになった。
ソファに背もたれ大股を開いて座る
珍しい姿をスマホで撮ろうとしたところ、
カメラレンズに気づいて逃げられた。
たまはカメラが苦手な割に
タブレットのインカメラを気にせず、
ネットで動物の動画を器用に(勝手に)見ている。
それに寝言をよく言う。
ネコの鳴き声でミャオミャオ鳴く程度なら
可愛げもあるのだが、たまは
高いペットフードのCMを夢見て口ずさむ。
隣で寝ている飼い主を洗脳する気なのだろうか。
そんな訳で立って喋る程度のことで、
いまさら驚くわけがないのだ。
三毛のオスという珍しいネコだが
より特徴的なのは、根元から
ふたつに分かれた尻尾である。
名前の由来が『猫又』なので、
「自分が化けネコだとはバレていない。」
と、今まで思っていたことの方が驚きだった。
たまはネコに化けるのが下手だった。