座敷わらし
掌篇シリーズ『今夜12時、誰かが眠る。』
https://shimonomori.art.blog/2020/10/01/haox/
――――――――――――――――――――
この家には座敷わらしが居る。
いつの間にやら住み着いたのだ。
わたしはこのことを誰かに話しても、
誰にも信じては貰えなかった。
わたしの居た家は商家で、
当時は世界中で恐慌の真っ只中だった。
例に漏れずわたしの居た家も、
経営難で既に傾きかけていた。
先代が急死して結婚間もない夫婦が、
二人三脚で家業を盛り返そうと
試行錯誤を繰り返していた。
経営の悪化した日々の中、
太鼓腹の耳たぶの大きな男が店に現れた。
新しい物好きな風変わりな男だった。
ただ男は買い物をしたに過ぎなかったが、
その日からわたしはひどく体調を崩した。
私が臥せってしばらくすると、
この家に座敷わらしが現れたのだ。
座敷わらしの出現に商家の夫婦は大層喜んだ。
このわらしは両親から
家の宝として大切に扱われることとなる。
わらしに専用の部屋を設け、
家具を揃え、おもちゃを買い与えた。
この家で嫌われ者のわたしとは正反対の対応だ。
座敷わらしの評判に客足は伸び、
店の経営はみるみるうちに回復したが、
わたしはいたたまれなくなり家を離れた。
世の中が好景気にわき始めた空気に馴染めず、
わたしはあちこちを転々と移り住むことになった。
それから何年か経ったか、
わたしはいつの間にか商家に再び戻ってきた。
あのわらしは大人になって結婚式を挙げた。
幸せそうな顔をしたわらしは、
座敷わらしでは無くなっていた。
それから式にはあの耳たぶの福の神も来ていた。
この神と相性の悪い貧乏神のわたしには、
あの商家にもう居場所はなかった。