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腐った夢

あらすじ

ある朝、僕は犬に噛まれた。
可愛がっていた通学途中にいる外飼いの犬に。

僕は腐っている。
遅刻の常連で、真面目に学校を受けない。
くだらない映画を観て、夜更かしをする。

志望校に落ち、仲間外れとなり、
学校に馴染めない不良生徒。

そんなある日、
校舎にヘリコプターが舞い落ちた。

不健全、不良、不条理インスタノベル――。


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他サイトでも重複掲載。(外部サイト)
https://shimonomori.art.blog/2023/05/06/rottenboy/

文字数:約4,000字(目安8~15分)

※読了目安は気にせず、
 ごゆるりとお読みください。

※本作は横書き基準です。
 1行20文字程度で改行しています。

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本編

ゾンビは犬に噛まれた夢を見るか?
―――――――――――――――――

右手がかゆい。
かさぶさができている。

通学途中で右手を近所の犬にまたまれた。

いつも可愛かわいがっていた
でると尻尾しっぽをふってよろこぶ、
庭先にわさきつながれた犬。

犬の名前はフレッシュという。
ぬしには会ったことないが、
いぬ小屋ごやにはそう書かれている。

犬種けんしゅはわからないがたぶん中型犬ちゅうがたけん雑種ざっしゅで、
手入ていれされておらず、わかくも見えない。

ひとなつっこい性格のせいで
番犬ばんけんにもなっていない。

高校に通うようになって、
フレッシュと友達になった。

フレッシュだけが友達だった。
そんな友達に今朝けさまれた。
所詮しょせん、犬は犬だった。

あくびを2かえす。

高校生になってからしばらくつが、
夜更よふかしをする不良ふりょうになった。

夜更よふかし程度で不良ふりょうと呼べるか微妙びみょうだけど、
ろくに勉強もせず、深夜まで起きて
荒唐無稽こうとうむけいな映画を楽しんでいる。

第一志望校に落ちたからか、
受験が終わった反動はんどうからかは
僕本人でさえわからない。

親父おやじに言わせればこんな映画は
くだらない内容なんだろうけれども、
僕にとっては楽しい逃避とうひ先だった。

高校生活は退屈たいくつの繰り返しだ。

第一志望に落ちた先の高校では、
授業は中学校のおさらいのような内容。
くだらない映画の方がよほど有意義ゆういぎだ。

僕はそうして授業を受けず、
だいたいぼんやりと聞いて、
教科書を閉じたまま微睡まどろむ。

教師に呼ばれようとも、
嫌々いやいやな生徒らに起こされようとも、
僕は無視むしを決め込み目を閉じる。

こんな見下みくだした態度たいどだから、
僕には友達ができないのだろう。

でも僕は友達を作りに、
学校に来ているわけじゃない。
友達なら犬でもりる。

こんな牢獄ろうごくのような場所で、
られるものは無い気がする。

空腹くうふく悪臭あくしゅうの中で、僕は目を覚ました。

これは毎朝かおる、
フレッシュのうんちのにおいだ。
においは記憶をます。

授業はとうに終わっているのか、
教室には誰もいない。

遠くで黄色きいろい声が聞こえる。
僕はあくびをころして席を立った。

購買部こうばいぶへ昼食の惣菜そうざいパンを買いに行く。
惣菜そうざいパンは昼休み前に売り切れるからだ。

休憩時間中に買っておけば、昼休みに
残ったアンパンで妥協だきょうせずにすむ。

どの教室も生徒が出払ではらっている。
体育館たいいくかん集会しゅうかいでもやってるんだろうか。

文化祭の準備で看板や装飾そうしょく
衣装いしょうやらいろんな物が、
教室内にっている。

そんな室内のつくえやイスは放題ほうだいで、
災害時さいがいじ緊急避難きんきゅうひなんをしたあとにも見えた。
なんせとびらまどけっぱなしだ。

みんな貴重品きちょうひんはちゃんと
持っていったんだろうか。

財布さいふを持ち歩いているからか、
僕はなんとも無駄むだな心配をする。

購買部こうばいぶにいるパートのおばちゃんも不在ふざい
財布さいふを持って途方とほうれる僕。

それとも僕が寝てる間に、
相当そうとう規模きぼ大災害だいさいがいでも発生したのか。

でも購買こうばいのショーケースには、
貴重きちょう食料しょくりょうが置きっぱなしだ。

仕方なく台に身を乗り出して腕を伸ばし、
ショーケースの裏から惣菜そうざいパンを手にした。

人気のローストビーフサンドをつかんだ。
これはいまだに食べたことがない。

フランスパンのバゲット半分はんぶんのサイズに、
上下に分割されたパンから具材ぐざいがはみ出る。

牛肉の赤身あかみ厚切あつぎりで何枚もまれ、
レタスとオニオンがもうわけ程度にはさまった
高校生男子の視覚しかくうったえる人気商品。

このローストビーフサンドは
3年生の不良ふりょうたちが授業時間など無視して
取ってしまうのだが、夜更よふかしにれた
いまの僕なら不良ふりょう匹敵ひってきするかもしれない。

パートのおばちゃんも居ないので、
吟味台ぎんみだいにお金を置いて残しておく。

不良ふりょうとは思えない善良ぜんりょうな行動。
不良ふりょうであっても僕は悪人あくにんではない。

無敵むてきの小さな優越感ゆうえつかんにひたり、
誰もいないしずかな廊下ろうかを歩く。

女子と遭遇そうぐうした。

知らない2年生の女生徒で、
僕に気づくなりおどろあわててくちふさぎ、
近くのトイレに戻ってしまった。

女子って大変だな。
たぶん、事情があるんだろう。

男子にも不意ふい生理現象せいりげんしょうきるから、
お互い様だと思いたい。

だからつまり、僕の顔を見て
失礼な反応をしたのではないと信じた。

外がさわがしい。
バタバタとヘリコプターの羽の音がする。
遠くの空を飛んでいる程度の音量ではない。

向かいの校舎こうしゃを見ると、
屋上に朱色しゅいろのヘリコプターが
人影ひとかげげている。

この学校にはヘリポートはない。
普通はないし、駐機ちゅうきできるところは
校庭こうていくらいしかない。

それから、ヘリコプターがげている
人影ひとかげはひとつではなかった。

人影ひとかげがアリの群体ぐんたいのような山となり、
巻き上げ機ホイストから伸びるワイヤーを
無理矢理むりやりによじのぼろうとしていた。

大量の群衆ぐんしゅうに引っ張られ、
ヘリコプターの高度はみるみるうちに下がって
やがて機体は群体ぐんたいの山にしがみつかれた。

まるで映画のワンシーンのような光景に、
僕はローストビーフサンドを持ったまま
呆然ぼうぜん見上みあげた。

ヘリコプターは屋上から
バランスをくずして中庭に墜落ついらくし、
燃料を爆発ばくはつさせ、その風圧と破片はへん
校舎の窓ガラスが盛大せいだいれた。

耳をつんざく爆音ばくおんと共に、
廊下に散乱さんらんしたガラスへんを見つめる。

現実感のなさに恐怖はかず、
興奮こうふ鼓動こどう高鳴たかなった。

僕は声もなく笑っている。

爆音ばくおんろうしているから、
自分の笑い声など聞こえないのだ。

だってこんな光景、
誰だって笑うしかない。

それからして、女子生徒の悲鳴ひめいひびく。

風通かぜとおしが良くなったからか、
さけごえやら物音が聞こえはじめた。

その音に引き寄せられるかのように、
どこからともなく生徒たちが集まる。

野次馬やじうまたちかと思えば、
上体じょうたいをふらふらさせながら歩いている。

顔中かおじゅう痛々いたいたしい怪我けがをして血を流している。
爆風ばくふうとガラスへんによるものではない。

血色が悪く、目はうつろで、
口を開けっ放しにしている。
そのうえ、ひどい腐敗ふはいしゅうながす。

「ゾンビだっ!」

僕は心の中でさけんだ。

映画で見た、ゾンビの格好かっこうの生徒がいる。
えりの、セーラー服の、メイド服の。
メイド服?

どこかのクラスが文化祭で、ゾンビ衣装の
屋敷やしきとメイド喫茶きっさでもやるのだろう。

提供する食事は納豆なっとう、チーズ、ヨーグルトに、
くさやにキムチと発酵はっこう食品がメイン。
菌類きんるい同士でケンカになるメニュー。

当然ながら酒類さけるいの販売はないが、目玉は
世界一くさ缶詰かんづめのシュールストレミング。

そりゃ悲鳴ひめいがるし、
逃げ出す生徒も居るだろう。

なお、うじ虫チーズカース・マルツゥ
食品安全しょくひんあんぜん上の理由で、残念だが
出入でい禁止きんしとなった。

などと勝手な妄想もうそうふくらませていたが、
ゾンビたちは目の前の僕など無視して
ほかの生徒を追いかけている。

そのゾンビの群衆ぐんしゅうの中には、
僕が嫌悪けんおしている女教師の
草丈くさたけの姿もあった。

草丈くさたけは僕のクラスの副担任で、
学校嫌いにさせた張本人ちょうほんにんの中年女だ。

忌々いまいましいゾンビメイクの草丈くさたけにらんだ。

 ◆

入学して早々そうそうのことだ。

クラスの男子どもはどいつも馬鹿なので、
体育の時間の前に、女子更衣室見学しようぜ!
と笑えないことを言い出すやつがいた。

夷山えびすやまという、同じ中学の男子生徒だ。
俺も夷山えびすやまに見学に誘われたが無視をした。

本人にとっては冗談じょうだんのつもりでも、
周囲にとって笑えない話を繰り返す
迷惑めいわくな存在がこの馬鹿、夷山えびすやまだ。

相手にされないと馬鹿は…夷山えびすやまは、
あぁ、お前ホモか…。と言い出すのである。

そのくらいは別にいい。
こいつは、自分にとって気にわない相手に、
レッテルをらなければきられないやつだ。

夷山えびすやまなど相手をしないのが正解せいかいで、
中学時代も徹底てっていしてこいつを無視むしをした。

しかしそんな他愛たあいのないやり取りを、
こともあろうに副担任の草丈くさたけ
烈火れっかごとおこった。

おこっただけではおさまらず、
生徒全員を集めて体育の授業を中止にした。
もちろん、女子更衣室見学も中止だ。

暴走ぼうそうした正義感で草丈くさたけ夷山えびすやま叱責しっせきした。

夷山えびすやましかられているにもかかわらず、
みんなに注目されることを
よろこんで笑っている。

一体なにがこの教師の逆鱗げきりんふれれたか
といえば、アウティングだった。

つまり、秘密ひみつ暴露ばくろした、というのである。

アウティングもなにも事実無根じじつむこんだが、
草丈くさたけ迷惑行為めいわくこういが原因で、僕はクラスの
全員からゲイ認定にんていけたのである。

否定ひていむなしいが、うそでも肯定こうていはできない。

夷山えびすやまのくだらない冗談じょうだんによって
草丈くさたけのヒステリックな説教せっきょうで授業がつぶれ、
俺は教室内のものあつかいになった。

無視むしを決め込んだ俺が悪いのか?

ゾンビのよそおいで化粧けしょう香水こうすいの中に、
フレッシュのうんちが混ざった
においをらす草丈くさたけ

よろよろと歩き、迫真はくしん演技えんぎ立派りっぱだが、
夷山えびすやまのゾンビはくさっても元気に走っている。
知力ちりょくか、演技力えんぎりょくか、年齢ねんれいがあるのだろう。

先程さきほどトイレにかくれた2年の女生徒が、
ゾンビたちに見つかったらしく
べたをって誰にでもなく、
助けを求めて廊下ろうかさけんだ。

ゾンビたちは彼女を取り押さえ、
り、おおかくすようにむらがった。
若いゾンビの中に、草丈くさたけゾンビまでもが混じる。

やがて群衆ぐんしゅうにそっぽを向かれた女生徒は、
かれた制服と血だらけの
ゾンビのよそおいとなり仲間入りをたし、
んで元気に廊下を徘徊はいかいした。

 ◆

ゾンビはどうして食べ残しをするんだろうか。

深夜にくだらない映画を見ている
僕の疑問は、常にそこにある。

人間がきんかウイルスに感染かんせんすると、
代謝たいしゃいちじるしくがり、のう脊髄せきずい
命令系統めいれいけいとううばわれる。これがゾンビ化。

運動機能うんどうきのうは映画などの作品で左右するが、
食欲に支配されて人間をおそい、みつく。
みつかれた人間はゾンビになる。

ゾンビは人間を食べきるわけでもなく、
感染を拡大させるために皮膚ひふやぶる。

唾液だえきふくまれる成分を血管けっかんない侵入しんにゅうさせ、
神経系しんけいけい壊死えし、筋肉の腐敗ふはい促進そくしんさせる。

こうして新たなゾンビの感染者かんせんしゃ
つまり子供を作る仕組みだ。
宿主やどぬし性差せいさは関係はない。

しかしそんな宿主やどぬしは、
死んでいて、腐敗ふはい影響えいきょうで動けなくなる。

墓場はかばからよみがえるタイプなら、
骨だけでも動けるのだろうか。

それに食欲しょくよく暴走ぼうそうして
咬合力こうごうりょくがついたところで、
生肉なまにくおうとなるかは微妙びみょうだ。

必要なビタミンなら、
野菜でおぎなったほうがばやい。

異性いせいみつけるからだろうか?
そういえば、吸血鬼きゅうけつきはそんな設定だ。

他人にけば違法いほうだ。
遵法精神じゅんぽうせいしんすらなくなるわけだ。

昼夜ちゅうや関係かんけいなく活動するゾンビは、
繁殖力はんしょくりょく旺盛おうせい不良ふりょうといえるだろう。

僕も最近は夜更よふかしが原因げんいんで、
まともな食事をってない気がする。

獲物えものを見つけて、元気に走り回る
ゾンビたちのほうが健康かもしれない。

かれる思いで、ゾンビの居なくなった
トイレに行き、かがみで自分の顔を見た。

そこにうつされたのは、
血の気のないうすら白い顔。

ちくぼんだ目は生気せいきうしない、
だらしのない口元からよだれがれ、
あぶらぎったかみ親父おやじそっくりだった。

 ◆

そんな悪夢あくむで目を覚ました。

ヘリコプターといい、
ちからはいった文化祭のもよおししの夢だ。

教室はお化け屋敷の衣装の準備で
盛り上がっていたが、寝ていた僕は
そんな空気に馴染なじめず、こみげる
気持ち悪さに胃液いえきした。

嘔吐おうとした先が夷山えびすやまだった。
僕のつくえの前でそべってサボっていたのだ。

ヒリヒリとくようなのどいたみと、
羞恥しゅうちによって体温たいおんが高まるのを感じた。

僕は聞こえるような小声ですまんとあやまって、
カバンを肩にかけてだま早退そうたいしようとした。

まくらにしていたうでがしびれ、
カバンのベルトから手がすっぽぬけると
右手のこう夷山えびすやま顔面がんめんにヒットした。

中指なかゆびこぶし丁度ちょうどはなしたたり、
彼の唾液だえきが手についた。

厄日やくびだな。僕にとって。

胃液いえきにまみれ、激痛げきつうもだえる夷山もだえる
ほうっておき、僕は教室をろうとしたが、
廊下で副担任の草丈くさたけつかまった。

両手をつかまれ、ちゃんとあやまりなさい!
と、金切かなきごえげられてろうする。

その不快ふかいな声よりも化粧けしょう香水こうすい
刺激臭しげきしゅうはないたくなって、
僕は盛大せいだいなくしゃみをした。

僕から飛び出た黄緑きみどり色をした鼻水はなみずが、
草丈くさたけ厚化粧あつげしょう上塗うわぬりする。
斬新ざんしんなメイクの完成。

発情期はつじょうきいぬみたいに興奮こうふんしていた草丈くさたけ

急にしずかになったと思えば、
手で顔をぬぐって大声おおごえした。

病院をこわがる犬かな?

情緒不安定じょうちょふあんてい年頃としごろなんだとさっし、
僕は廊下ろうか足早あしばやった。

さわぎを聞きつけ、ほかの教室の生徒たちが
ゾンビのように集まる。

トイレから出てくる2年の女生徒と遭遇そうぐうした。

夢で見た生徒に似ている気がするが、
彼女はセーラー服姿すがたではなく、
メイド服を着ていた。

夢の中の彼女とはちがい、学校に馴染なじめている。
そんな彼女に僕などが視界しかいはいるはずもない。

真逆まぎゃくの僕は玄関げんかんを出て、帰路きろにつく。

 ◆

犬のフレッシュに会おうと思ったが、
かいぬしの家の周囲はなんだかさわがしい。

警察車両けいさつしゃりょう交通整理こうつうせいりをしていて、救急車きゅうきゅうしゃやら
防護服ぼうごふく役人やくにんらしい姿も遠目とおめに見えた。

そういえば、フレッシュのうんちは
散乱さんらんしっぱなしで、掃除そうじ様子ようすもなかった。

友達にも会えないさびしさと、
いた直後ちょくご空腹感くうふくかんのう支配しはいされる。

カバンから購買部こうばいぶった
ローストビーフサンドを手にする。

掴んだ右手はフレッシュのあとがあった。
そうだ。犬は友達でもなかった。

もう学校に行くのはやめよう。

夷山えびすやまにゲロをして不可抗力ふかこうりょくとはいえなぐり、
草丈くさたけ鼻水はなみずまみれにしてかせてしまった。

ゲイあつかいしてくれた
夷山えびすやま草丈くさたけならどうでもいいか…。

なんせ、僕は不良ふりょうだ。

朱色しゅいろのヘリコプターが
けたたましく低空飛行ていくうひこうしている。

僕は犬にまれた右手をかるいて、
いつのにか買っていた生肉なまにくのような
ローストビーフサンドをくちにした。

(了)

あとがき

こちらの作品もいかがでしょうか?
掌編『腐った血』

小説家になろう
https://ncode.syosetu.com/n1465hc/

ハーメルン
https://syosetu.org/novel/263559/

ノベルアップ+
https://novelup.plus/story/454980321

来週も別の作品を投稿予定です。
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