You Suffer/Napalm Death
お気づきの方もいるかもしれないが、時折、「曲名/アーティスト名」のタイトルで記事を書いている。この記事がまさにそうだ。しかしこのタイトルには理由がある。我々は、「愛すべきおバカ曲」というテーマの下にこの記事を書いている。そこには、愛情とおバカさの両方が等しく揃っていなければならない。どちらに肩入れすることもできない。だから、客観的なタイトルを付けざるを得ない。ということにしておこう。
Chikarumが、「1秒の曲」を取り上げてクールな記事を書いた。まぁクールさの8割くらいはホワイト・ストライプスのおかげなのでそこはくれぐれも注意されたいが、ともかく触発されたので、同じテーマで書きたいと思う。
ギネスブックによれば、世界一短い曲は、ナパーム・デスのYou Sufferである。演奏時間は1秒。トリビアの泉でも取り上げられたことがあるので、ご存知の方も多いかもしれない(著作権的にアレな感じなのでリンクは貼らないが、YouTubeに転がっている)。
まぁとにかく、聞いていただこう。
この魂の叫びをお聞きいただけただろうか。もし、「ドゥーヴォァ!!!」と叫んでいるだけに聞こえたのであれば、あなたの英語のリスニング能力は、率直に言って、かなりまずい。いますぐ、その足で駅前留学するのをお勧めする。
一応、念のために書いておくと、この曲の歌詞は以下の通りである。
"You suffer, but why?"
(君は苦しむ。しかしなぜ?)
なんと奥深い歌詞であろうか。たった1秒に、深遠なる悲嘆と怒りが込められている。彼らの言葉を借りれば、この曲は、「苦しむことに意味はあるのか。何に苦しむために、俺たちは作られたのだろうか。」という、不条理な世界に対するアンチテーゼである。
この彼らの言葉は、真実であると思う。決してシュール系のギャグなどではないし、話題作りの一発ネタでもない。そう言い切れるのは、彼らが、You Sufferの1年後に、Deadという曲を発表しているからである。Deadの演奏時間は2秒くらいで、You Sufferより長い。しかも、「デェーーーーッッッド!!!」と叫ぶだけの曲だ。You Sufferがネタであると仮定すると、この曲を作ることの説明がつかないのだ。ネタとして明らかに劣化している。そんなものを、わずか1年後に発表する意味があるだろうか?
もうお分かりいただけたと思う。そう、彼らは、大真面目に、この世の不条理を嘆いているのだ。
ただ、悲しいかな、そんな彼らの叫びは、人々には届かない。ひとしきり笑って、それでおしまいである。しかしよく考えてみてほしい。ナパーム・デスは、そのような人々の反応すら見越しているのだ。彼らのアンチテーゼは、「訴えがとどかない」という不条理さえも、その射程に捉えている。
もし、ナパーム・デスが4分33秒の無音を録って「これは曲だ」と言い張ったとしても、失笑を買うだけだろう。ナパーム・デスが「ティンパニの中に演奏者が飛び込む」という曲を作ったところで、やはり、笑われるのがオチだ。ナパーム・デスはジョン・ケージではないし、マウリシオ・カーゲルでもないからだ。
魂の叫びが、単なるジョークとして消費されてしまう。この不条理には、いろいろな説明の仕方があり得る。心理学的にはレッテル貼りによるヒューリスティクスと説明されるのだろうし、あるいは、発信主体の構造化による情報管理の省力化とかいった脳科学的な説明もできるのかもしれない。
でも、これはただの僕の直感なのだけれど、もしかすると、答えは、案外簡単なところに隠れているのかもしれない。例えば、彼らが、「『トリビアの泉』をご覧の皆さま、こんばんは。ナパーム・デス です。」と真顔で言いのけてしまうところとかに。