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短編 ままごと

 語りすぎはからだに良くないね。今朝も彼は、あたたかい畳の上で、すでに口癖になったその台詞を繰り返す。今朝とは言っても、もうかなり日が高い。障子を開け放しているので、七月のかんかん照りの太陽が、布団に寝転ぶわたしたちのだらしない格好を世界中に暴いているかのよう。この中庭に面した書斎には女中さんすら滅多に入ってこないのに、「ほらわたしたち、いま【自堕落】をやっています!羨ましいでしょう?」ってひけらかしているような気分になる。

 この場所では、何もかもがばかみたいに白い。強烈な日差しのせいで、乳白色のセロファンを透かして見たように景色全体が薄明るいのだ。神戸(ごうど)さんの秀でた額も、枕が二つ並んだ布団も、抜けるように真っ白に光っている。もし幼稚園児なんかがここに迷い込んできたとしたら、お家に帰ってお母さんに「ぼくさっき、天国みたいなところをみたんだよ。おじさんとおねえさんが、かんのんさまみたいにニコニコして、りっぱなおやしきで、ねっころがっていたんだよ」と報告するのだろう。そしてきっとお母さんは、真っ先に子どもの熱射病を疑うことだろう。


 神戸さんは、ぶつぶつと話しながら枕に肘をついて、なにやら気難しげに眉根を寄せ、かさかさ音の鳴る薄っぺらい紙を熱心に読んでいる。眼鏡をかけることすら面倒くさがって、紙を遠ざけたり引き寄せたりしてピントを合わせようとしている。 
「みいちゃん、最近の人は言葉を並べすぎるね。平等だの税金だの、恋だの革命だの……。ほんとうに言葉は危険だよ。そういう僕も、ちょっと蘊蓄を垂れすぎちまったんだな。一人の人間が語っていい言葉のキャパシティみたいなもんを軽く超えちまったんだ、要するにな。そしたらどかん、このザマさ」 

 彼はすぐ紙に書いてある内容への興味を失い、元々の折り目を無視して出鱈目に折りたたむ。赤く細かい活字でびっしりと印刷された薬の服用規定が、重なり合って光に透け、それ自体が柔らかく発光しているかのように見える。彼は折ることにすら飽きてそれをぐしゃっと丸めた。わたしはその光景に見惚れてしまい、煙草の灰がぽたり、とひとりでに灰皿へ落ちてはっとした。わたしのお気に入りの硝子の灰皿は華奢なつくりで、上から見るときれいな正円をしている。全体がエメラルドブルーで、ところどころに金魚が泳いでいるかのような朱色がさしてある。

 神戸さんは、火には気をつけなさいよとぼやき、丸めた紙くずをふわりと宙に放り投げた。わたしは彼の横でスリップ姿で仰向けに寝転んで、目だけでその紙くずを追っている。淡い影と折り重なって透ける赤い文字たちは、まるで神戸さんの腕に浮き出ている血管みたいで、すごくきれいだった。わたしはそれに触れようとして、障子の方へ手を伸ばす。紙くずは夏の日差しでぱりぱりに乾いて、手に取ると不安になるほど軽かった。

「なあ、みいちゃん。くだらないよな人生って。このぐしゃッと丸めた紙くずみたいなもんさ」 
「うん。でもこれのことなら、これはこれできれいだよ」 

 ほら、と紙くずを持ち上げてみせる。彼はすばやく口角と眉を釣り上げて、わからないよ降参だ、という表情をつくる。——この部屋に籠るようになってからというもの、神戸さんの態度はときどき感じが良すぎて不気味なくらいだ。最初のころに一度、いったいどういう風の吹きまわしですか? と無邪気に訪ねてみると、途端に以前までの仏頂面に戻ってしまい、仏頂面は実に三日間くらい続いた。神戸さんとはそういう人なのだ。——つまりは、神戸さんの感じが良すぎても、それに気がついていないふりをしなければならないのだった。

「きれい? 僕には皆目わからんね。こいつはきれいなのか?」 
「この紙も、あの吸い殻もその障子も、古い畳も、みんなきれいだよ。ここにいる限り、くだらない人生に邪魔されないんだから。ここは外の世界よりずっときれいだよ」 

 神戸さんは丸眼鏡の奥で、目尻にいっぱいシワを寄せて、くしゃっと笑った。 
「そうか。ここでの暮らしは、きれいかあ」 

 わたしは寝転んだまま、布団の外の、畳の上のどこかしらに適当に放り出されているはずの、紙煙草の箱を手探りで掴んだ。彼の視線が、わたしのたっぷりした髪の毛とか、ひらひらしたスリップから突き出た脚とか、まるい肩に向けられるのを感じる。でもだからといって、神戸さんはこれまで指の一本だってわたしに触れたことがないし、わたしの前で自分の着物の襟を寛げたことすらない。それどころか、わたしのことをじろじろ見ないようにと、固く心に誓っているようにすら見える。



 ここには世界のすべてが揃っている。ふかふかのお布団から手が伸びる範囲に、わたしたちの一夏の楽園がある。ぱりぱりした今朝の朝刊、爪磨き、金魚が泳ぐ硝子の灰皿、神戸さんが飲む何種類もの錠剤のシート。表紙の端が折れた大量の書籍、表面が干からびた食べかけのりんご、飴色に日焼けした百円ライター、床に落ちたハンガー(元は鴨居に掛けてあったものだが、誰も掛け直そうなんて思いもしない)。牛乳寒天を食べた後の青磁のうつわ、背が黄ばんだ文庫本、それから水が少し残ったコップ。ひとたび縁側の障子を開ければ、立派な枯山水の中庭が目の前に広がる。そして障子を閉めればすぐにつんとした古書の匂いで満ちて、ここは書斎なのだったということを思い出す。

  一ヶ月前、わたしは正式に招待されてここに来た。ただ招待されたからというだけの経緯で、つまりはなりゆきで、このきれいで怠惰な楽園で寝起きすることになった。わたしたちはたいてい昼まで寝ていて、起きてからも寝転んだままふざけ合っている。光景としてはとんでもなくだらしなく見えることだろう。しかし適当にふざけているように見えて、実はふたりとも指先まで隙なく緊張して、慎重に言葉や行為を選んでいる。
日が暮れる頃になると、神戸さんはやっと眼鏡を掛けて書き物を始める。それの姿を確認すると、わたしは隅から隅まで丁寧にお化粧をしてここを出る。彼は一歩たりとも、この楽園から外へ歩き出すことはない。明け方に帰ってきてそっと障子を開けると、彼は何冊もの分厚い本をひっくり返したまま、机でうたた寝をしているのが常である。ここでのわたしの役目はただひとつ。毎日ぼろぼろになってまで机にかじりつく彼を、やさしくなだめすかしながら、布団まで引っ張って行くこと。先方がわたしに依頼したのは、たったそれだけのことだった。

 女中さんは、意地でも無茶とわがままと、それから研究をやめないこの「旦那さま」にほとほと困り果てていたという。彼女がいくら言葉を尽くして「おからだを休めることに集中なさって」と言ったところで、一度机に向かうと梃子でも動きやしない。それどころやないんですよ、と彼女は力説した。なんやかやと屁理屈を並べて、わたくしを言い負かそうとしはるんです、旦那さまの性格はご存知でしょう。いつまで経ってもこまっしゃくれた子供のような方で……ええ、正直に申し上げますとね、えらい世話が焼けるんですわ……。
 白髪混じりの髪の毛を隙なくひっつめた彼女は、大正の趣のある喫茶店でわたしと向かい合い、事の次第を話してみせた。初夏なのに冷房が全く効いていない、気の利かない店だった。彼女の曇った顔もアイスコーヒーのグラスも、気まずそうに汗をかいていた。彼女はハンカチで額を拭い拭い、言葉を探した。

「そら困惑しはりますでしょう。ほんまに申し訳ありません。ただわたくしは旦那さまに使うていただいてる身ですから、旦那さまの伝言をお伝えするしかないんです。なにしろ、意固地なお方でしょう。なんぼこちらが質問してもえらい屁理屈こねはって、肝心の言葉が足らへんって言いますか……ええ……もう少し事情がはっきりしないことには、そうですよなぁ?…… 」

 でもわたしには、なぜ神戸さんがわたしを必要としているのかはっきりとわかっていた。むしろ女中さんの方が状況に振り回されている。そのことを気の毒にすら思った。それで、その場で二つ返事で引き受けてしまったのだ。——いいですよ、わたしが神戸さんのそばにいますから。ええ、ほんまでございますか。すみませんねえ、その、当然のことですがお手当も用意させてもらいますし……。いいえ、いただけません。何をおっしゃいますか、それはあかんですわ……——女中さんがしっかりした方だったので、結局、世話になっている間の生活費と、わたしが部屋を開けている間の家賃をいただくことになり、話はまとまった。要は世話になるあいだ、経済的にも手厚く支えていただくということになった。その代わり、約束した以上の金銭は一切受け取らないこと。状況が変わった際には、すぐに当月の家賃を日割りでいただいて即刻出て行くこと。それらの条件を取り決めて、何やら書面に押印までする羽目になった。先方の堅苦しさには面食らったけれど、わたしに迷いは一切なかった。

 ちょうど一ヶ月前、わたしはこういう経緯でこのお屋敷へやってきた。初日に案内された書斎で、彼は布団に寝転んで分厚い専門書を何冊も広げてうたた寝をしていた。眠い目をこすり、「すまんね、みいちゃん」と一言だけ挨拶して、大あくびをしながら読書に戻った。でもたったそれだけで、お互いに全てを了解してしまった。——すまんね、みいちゃん。……いいんです、わたしが神戸さんのそばにいますから。——わたしはこのこじんまりした楽園をすぐに気に入った。古書の匂いと漆を塗り重ねた木の甘い香り。子供の頃から知っている場所のような気さえした。すっかりくつろいでしまって、使い込んだボストンバッグ一個につめた小さい荷物をほどきながら『書斎のくせにやけに明るいなあ、立派な本が日焼けしないのかな』、なんて呑気に考えていた。たったそれだけで始まった、このばかみたいに白い、夏。


 語り過ぎはからだに良くないね。神戸さんがそんな座右の銘を持っているせいで、(そんなこと言いながら、つい先月まで講義とは関係ない嫌味ばっかりべらべら喋っていたくせに!)、わたしたちはあまり熱心に会話をするほうではない。並んで寝転んでいるのに肌も合わせず、ただめいめい好きなように沈黙を嗜んでいる。たまに話すとなると話題はとても限られていて、基本的にはふたりの思い出話を反芻するだけに留まっている。今朝——といってもすでに正午を回っているが——わたしは寝転んで坂口安吾を読んでいた。ちらりと彼の方を見ると、起き上がって新聞紙を広げている。身体が痛むのだろうか、固く眉根を寄せている。水が半分くらいグラスが汗をかいて、畳に濃い色の染みを作っている。中庭でミンミンゼミがけたたましく鳴いている。

「神戸さん、いい話をしませんか」
「いい話なんて、まだこの世にあったんだな」

 彼は自分で口にした皮肉に苦笑し、足の爪を切りはじめた。

「わたしはお客さんと二人で、薄暗いバーでカクテルを飲んでいたの。甘くて酸っぱくて夕暮れみたいな色の、カシスのカクテルを。そしたらやけに大きな音でドアが空いて、なんか見覚えのある着物の男の人が入ってきて、こっちを二度見するの。帰り掛けて、まごついて、それからものすごい勢いで近づいてきてね」
「おいおい、またその話か。もう勘弁してくれよ」


 彼は眼鏡を小刻みに震わせ、くつくつと笑い出した。この話をすると、体調のすぐれない日でも笑ってくれるのでわたしは幾分ほっとする。ぱち、ぱち、軽快に足の爪が飛ぶ。笑っていると手元が震えて切りにくいようなので、『切ってあげましょうか』と言おうとしてやめた。きっとあのいかにも過保護な女中さんだったら頭に浮かぶと同時に口に出していただろう。きっと、彼はそれを嫌がって、「こまっしゃくれた子どものように」なんだかんだと文句を言うのだろう。ああ、なんて厄介な「旦那さま」なんだろう。そんなのって使用人泣かせだ。

「あんな勢いで戸を開けるんだもん、寒かったですよ。わたし、適当なぺらっぺらのドレス一枚でいたんだから。すかさずお客さんが寒くないか、なんてわたしの肩を抱こうとするし。そしたら着物の男の人がわたしのすぐ左隣に座って、むっつり腕を組んで、ものすごい怖い顔で言うの。ここで何をしてるんだ松永くん、なんて」

 わたしたちは同時に吹き出してしまう。

「あっはっは、もうやめてくれ。降参だ。客の前なのに本名で呼んだりして悪かったよ。教え子が水商売してるところに出くわしたことなんてなかったんだ。そんなこと、普通あるもんか。焦っちまって、いっそ説教するべきかと思ったんだよ」

 神戸さんは、愉快そうに笑い続けている。ミンミンゼミの鳴き声と、ぱち、ぱちと爪が飛ぶ音が重なり合って小気味いい。わたしは彼の足元へ、新聞の記事に興味があるふりをしてにじり寄る。ぱち、ぱち。明るくて健康的な響きだ。でも広げた新聞紙の周りには、錠剤を出した後の、歪んだ薬のシートがいくつもいくつも散らばっている。
「……切ってあげましょうか?」
「いやだなあ、これでちょうど終わりだよ」

 小指の爪の先がぱち、と新聞紙に落ちて、爪切りは終わってしまった。彼は新聞紙を二つに折って、爪のかけらを硝子の灰皿の中に落とした。


 ここには世界のすべてが揃っている。お日様の匂いのするお布団から手が伸ばせる範囲に、わたしたちの束の間の楽園がある。おとといの朝刊、爪切り、神戸さんが丸めた薬の服用規定の紙くず。茶色い染みのある万華鏡、色あせた喫茶店のマッチ、わたしが先週お客さんにもらった野暮ったい花束(ドライフラワーにしたらどうかということで、とりあえず鴨居から吊り下げている)。使い終わった図書カード、きれいに封をしたまま飾ってあるウイスキーの瓶(神戸さんは見事なまでに下戸なのだ)、それから、よく手入れされた万年筆。

 一ヶ月前、わたしはこの楽園に正式に招待された。大正の趣のある喫茶店で、白髪混じりの女中さんは、何度も何度もハンカチで目頭をおさえた。冷房が壊れているので、汗と涙と口紅とアイシャドウとが、シルクの薄いハンカチの上で混ざり合って血液のような赤茶色の染みになっていた。その染みは毅然として隙のない彼女の態度と見事なまでに対照的で、胸に迫るものがあった。

「なんや雲を掴むような話で、申し訳ありません。ですが、お医者様もはっきりしはらないんですわ。つまり、すぐなのかもしれないんです。一体あとどのくらい、旦那さまが、その、生きてはるのか……」

 六月の夕日は何もかも飲み込んでしまうように巨大で、窓を突き抜けてわたしたちを激しく急き立てた。なりふり構っていられない。わたしはいいですよ、と即答した。いいですよ、わたしが神戸さんのそばにいますから。女中さんは目に涙をためながらも強い眼差しを崩さず、どんなに西日が強くなっても、決して着物の襟を緩めなかった。対するわたしはお店の出勤前で、すでにぬのっきれみたいなドレスを着ていたので、そのコントラストがなんだか安っぽい喜劇のようだった。基本的にはわたしの受け答えは彼女の満足するものだったようだが、服装に関してだけはどうしても気になるようで、ピンクのワンピースに施された下着みたいなレースやスパンコールを終始ちらちらと盗み見ていた。そして席を立つとき、どうしても言及しておかないと気がすまないといった様子で、躊躇いがちに付け加えた。

「あのう……どんな仕事をされていても、まったく構いませんですからね。ただ旦那さまをどうか、やさしく叱ってやってください」

 初日に彼は「すまんね、みいちゃん」と一言だけ挨拶した。その声色は、出欠を取るときの声——無愛想に怒鳴るような声で、しかも返事が小さい学生にはいちいち嫌味ったらしくもう一度返事をさせるのだ!——の二十倍くらいやさしくて、なんだか泣きそうになってしまった。そのたった一言で、わたしは全てが腑に落ちてしまった。彼がわたしを「松永くん」と呼ぶことはもうないのだということ。教壇に復帰することは到底不可能であるということ。だからお客さんたちがするみたいに、これからはわたしをみいちゃんと呼ぶことにしたのだということ。——すまんね、みいちゃん。……いいんです、わたしが神戸さんのそばにいますから。——たったそれだけで始まった、このままごとのような夏。



 語りすぎはからだによくないね。その口癖を免罪符に、わたしたちはいつも同じ話ばかり繰り返す。これまでの人生——わたしのそれはまだ、神戸さんのたった半分くらいの長さだけれど——わたしたちはそれぞれの世界で、めいめい言葉の海に溺れて十分苦しんできた。もう十分ではないか、せめてこの張りぼての楽園の中では、傷つけあいたくないのだ。

 丁寧に丁寧に会話を紡ぐこと。それ以上は踏み込まないこと。それがわたしたちの間の暗黙の了解となった。しかし、『抑圧された感情は必ずいつか爆発する』、神戸さん自身がいつも講義でそう言っていたように、無理に堰き止めた感情は、どうやら流れ出てしまうものらしい。コップに水を注ぎ続けると簡単に溢れてしまうのと全く、同じ自然の摂理として。
 
 ある八月の長い夜に、小雨が降っていたせいか客足がぴたりと止んだので、早上がりすることになった。わたしはその夜、自分でもわかるほど浮き足立っていた。夏の夜の気候が、あらゆる気候の中で一番好きなのだ。だけどいつもは——同伴でもない限り——お店のカウンターという檻の中でじっとしていないといけないからもったいないと感じていた。お店からお屋敷までの間にある淋しげな畦道の、重低音で唸る街灯や、ヒールに跳ねる泥にさえやさしい親密さのようなものを覚えた。あたたかい夏の夜の、湿った空気を肺いっぱいに吸い込むだけで、自分というちっぽけな存在が、何か巨大なものに祝福されているような気分になった。『お医者さまに止められていないんだから、神戸さんだってお散歩くらいすればいいのに。せめてこの外の空気を、神戸さんに持って帰ってあげられたらなあ』なんて、へらへらと考えていた。

 書斎の襖を開けた途端、まず強烈に洋酒が香った。明らかに異様な空気だった。神戸さんは机に突っ伏して眠っていたのをわたしに起こされたと見えて、うめき声を上げながらガバッと顔を上げた。そのまますくっと勢いよく立ち上がる、そのときの、顔が蒼白なことといったら! 彼はひどく切迫した様相で、こめかみに青筋を走らせ、もともと白い腕を一層白くして、わたしの肩を両手で掴んだ。ぎりぎり、と肩の関節が音を立てるんじゃないかと思うくらい強い力だった。

「なんでっっ……なんっ……?みいちゃん、松永くん? 君、君、溺れなかったのか。なんで、生きているんだ。なんで俺も……うああぁぁあっっ!」

 彼はわたしをがばっと強く抱きしめて、その格好のまま膝から崩れ落ちた。一瞬のたっぷりとした静寂ののち、彼は子どものように大声を上げて泣き出した。遠くの方でかた、さらさら、と女中さんが摺り足で廊下をやってくる物音がする。縁側からこちらを見ると間の障子がスクリーンの役目をして、わたしたちのシルエットをくっきりと映しているはずだ。彼女は障子の前で足を止め、開けようか開けまいか案じているようだった。そのせいで彼女までもが、神戸さんの嗚咽まじりの独白を聞くことになった。

 曰く、彼の夢の中でわたしたちふたりは夜の海にいた。海と言ってもあたたかい砂浜じゃなくて、断崖絶壁の、ひどく荒れた冬の海だった。神戸さんはいつものようにびしっと柿色の着物を着込み、目の前にいるわたしは紅と辛子の格子模様の派手な晴れ着姿で、髪には朱い金魚の硝子細工が揺れていた。わたしたちは外套の一枚も持っておらず、肌がしびれるほど寒かったが、神戸さんはこれまででこんなに安らいだ気持ちになったことはなかった。つまり彼は頭のてっぺんから爪先まで少しの隙間もなく幸福だった。わたしは物を言わず、ただ強風の中で微笑みあっていた。ときどきわたしの髪の間を金魚がちらちらと泳いだ。神戸さんはわたしの手を取る。彼はなんてあたたかい手なんだろう、といたく感動する。これでいいのだ、初めて手を繋ぐのは、一緒に死のうというその瞬間であるべきなんだ。神戸さんは自分の死に際のあまりの美しさに心酔して、目に涙を浮かべた。涙を拭おうと、ほんの一瞬だけ繋いだ手を離した。するとそのまばたきするような一瞬の間に、青黒くてらてらと光る霧のような、何かとてもいやなかんじのするものが立ち込めて、彼の視界を完璧に奪った。いくら探しても、そこにあるはずのわたしの手はそこになかった。彼は心底ぞっとした。みいちゃんは、誤って先に崖から落ちてしまったのだろうか。神戸さんは焦りに任せて海に飛び込んだ。冬だというのに、海はわたしの手のようにあたたかくて、なぜだろうと訝った。海水の色もおかしかった。口の中の粘膜のような、あるいは朝焼けのような濁った薄桃色をしている。おまけに磯の香ではなく、なぜかむせるような金木犀の香りがした。彼はそのぬるくて重い水を掻き分け掻き分け、わたしの姿を探した。しだいに息が持たなくなり、意識が遠のいて、どんどん手足がしびれてゆく。なすすべもなく、薄桃色のぬるい水が麻酔のように全身にまわるのを感じた。それは、不思議といやな気分ではなかった。ああそうか、これはみいちゃんのつけている香水の香りだ。みいちゃんは海そのものになったのか……。彼はこれが宗教体験というやつか、と思い、また少し泣いた。すると、頭上で雲が割れて、書斎の風景が垣間見えた。天の上に自分たちの楽園だった場所があって、そこにわたしがいつものように平然と、そっとふすまを開けて帰宅しているのである。彼はこのシーンで、騙された!と反射的に跳ね起きたのだ。彼はまだ、このストーリーのどこまでが夢で、どこからが現実なのか理解することができないのだった。

「あぁ、なぁ……俺をからかってたのかっ! 畜生、畜生、一緒に死んでくれるって言ッたよなあ。病気のために死ぬんなら……いっそ……いやだ、死にたくない。ほんとうは死にたくない! ……いや、みいちゃん、あれは夢か……? んん……いや、違うよみいちゃん……僕は怒ってるんじゃあない……、はは、酒なんて飲んだせいだね、でも、からかってたのか?……それだけ教えてくれよ、嘘だって幻だって構いやしないんだ、一緒に死んでくれたってよかったじゃないか……!」

 障子の向こうからは、女中さんの静かな息づかいが聞こえる。神戸さんは興奮しているだけで乱暴な様子はかけらもなく、声色はむしろ悲痛で憔悴さえ伝わってくる。最初こそ強く抱きしめられたと勘違いしたが、実際のところ、自分のからだの重さを支えることができなくて、ぐったりとわたしにもたれかかっているという格好だった。机の上には、昨日まで封をして書棚に飾ってあったウイスキーの、中身が半量になった小瓶が投げ出してある。彼は話しながら、ときどき意識が遠のいたり、逆に覚醒したりするようだった。わたしも最初こそ、何とかして机の上の水をとって飲ませようと四肢をもぞもぞしたが、脱力しきった男の人のからだの、なんと重いことだろう!
 やがて彼は布団の上にごむのようにぐにゃりとのびて、大きないびきをかきはじめた。障子がそっと薄く開かれて、女中さんとわたしは目配せをした。障子の隙間から覗く空は、すでに白み始めていた。そこから小指の先ほどの大きさの蛾が入り込んできて、灰皿の淵に止まった。



 ここには世界のすべてが揃っている。油性マジックで大きく「37」と書かれた今朝の朝刊。新品でまだ糊の効いた、新雪のように真っ白なお布団。硝子の灰皿が梱包されていた桐の箱は、薬箱代わりになっている(注文してくれた神戸さんが、いまどき桐の箱だなんて感心だな、とやけにはしゃぐものだから捨てそびれてしまったのだ)。簡易書棚はまだニスの香りが飛び切っていなくて、組み立ての際に余ったネジが畳の隙間に挟まっている。その書棚には使い込まれたいくつかの書籍と、それから「1」から「36」までの数字を振られた朝刊が、きれいに端を揃えて収められているだけで、四分の三は空っぽである。机の上にはラップトップと一冊のノートと銀縁眼鏡、それからよく手入れされた万年筆がたった一本。

 神戸さんはよく、溜まった朝刊を数えてはため息をつく。床に散らばった錠剤のシートを数えてはため息をつく。わたしは聴こえなかったふりをして、背表紙の黄ばんだ「堕落論」を読んでいる。新雪のようなお布団の上に寝転んで。
新聞が「30」を数える頃には、わたしは自然に煙草を吸わなくなった。彼は『灰皿買ってやったんだから使いなさい、肺は頑丈なんだから病人扱いしてくれるなよ』なんて軽口叩いて笑ったけれど、わたしはどうしてもうまく笑えなかった。だから硝子の灰皿には、神戸さんの足の爪だけが入っている。陽が傾く頃、灰皿の金魚のような朱色の模様に、爪のかけらが長い影を落とす。



 二ヶ月前の三限目終わり、わたしはわざと愚図愚図と教室に居残っていた。神戸先生は普段、講義が終わっても何やらいつまでも出席簿に細々と書き込みをしていて、いつまでも椅子から立ち上がらない。その日は、バーで出くわして以来はじめて学校で顔をあわせたのだった。先生は今日の講義でも教壇の椅子にどっかり座り、生徒の居眠りに大声で嫌味を言ったり、その生徒が起きないことを確認してから抜き打ちテストを行なって「これは単位に影響する」と平気な顔で言ってみせたりした。要するに、平常と全く変わらない様子であった。

 教室に残っているのは、先生とわたしのふたりだけになった。五月らしい驟雨のせいで、窓が曇っている。昨日のことは、自分から切り出すべきなんだろう。とは言え一体どんな調子で、どんなことを言ったらいいのか決めかねて数分のあいだ途方に暮れていた。ふと先生が出席簿から顔を上げて、わたしの机の上にある「堕落論」に目を留めた。それからわたしの顔を見て、「堕落論」を見て、松永くん、と独り言のように呟いた。
「……きみは、自分が堕落していると思うのか? 」
それは嫌味ではない、純粋な問いかけだった。
「はい。堕落していると思います」
彼は何か思案するような顔つきで、出席簿に向かってさらさらと鉛筆を走らせる。
「じゃあ僕は、堕落していると思う? 」
「はい」、これを聞いて彼は、視線を上げてにやりと笑った。
「すみません、でも先生だけじゃありません。人はみな等しく堕落していくんだと思います。何をしていようが何を考えていようが、誰だって時間が経てば堕落して擦り切れていくんです。でもそれは赤ちゃんが尊いとか、老いることがが醜いとかそういうことじゃないんです。みんないつかは堕落する運命なのだから、もう堕落しきっているのと全く同じです。だから人間は、ある意味では完璧に平等だと思うんです。そう考えてみると全員、なんだか可愛いなって」
「可愛い?」、さらさら言う鉛筆が止まった。
「じゃあ、昨日のきみの客のおやじとか、僕も可愛いってのかい? 」
それは明らかに冗談の響きを持っていた。でもわたしは、なぜか滔々と自分の気質について語っていた。
「可愛いです。わたしにとって男の人って——もちろん女の人もなんですけど——全員可愛くてしょうがないです。でも逆に言うと、わたしは誰かを特別に、この人が一番可愛い、みたいに思うことはできないんです。全員が可愛いから、誰がなにをしていようと、きっとどうだっていいんだと思います。嫉妬とか、憎しみとかって感情がよくわかりません。なんかまるでいつでも、わたしだけひとりでままごとをしているみたいな感覚なんです」
 彼を見ると、眼鏡を外して顔に手を当て、こみ上げる笑いを噛み殺しているような、何やら複雑な表情を浮かべていた。そのあと頭を振って、平常の真面目くさった顔を拵えてからこう言った。
「なるほど、ままごとか。じゃあ天職ってわけだな」
 わたしはくすくす笑った。彼はまた出席簿に向かい、鉛筆をさらさら言わせながら、ときどき口の端だけで笑った。小さな笑いの振動が、曇った窓ガラスに反響して増幅して、空気中の幸福の粒子みたいなものが響き合っているように感じた。その二週間後、神戸先生は大学から姿を消した。生徒へはなんの説明もなしに、講義は助手さんが代わりに受け持つことになった。みんな神戸さんにはうんざりしていたので、誰もいなくなった理由なんて気にもしていないようだった。

 それから程なくして、わたしはこの急ごしらえの楽園に招待された。
彼は「すまんね、みいちゃん」と一言だけ挨拶した。それは教室で聴く声よりも二十倍くらいやさしく耳に響いた。彼はそれからわざとらしい大あくびをして、ごろりと向こう側に寝返りを打ち、顔の前に本を持ち上げた。しかし、いつまでたっても同じページを穴があくほど眺めているようだった。

 わたしは、それですべてを了解してしまった。胸の奥の、冷たく苔むした洞窟のような場所から——その瞬間までは、自分の中にそんな場所があることさえ知らなかったのだけれど——温泉のようなあたたかい水が噴き出して、涙腺にまでものすごい勢いで上ってきて、ひどく戸惑った。必死で何か別のことに意識を向けようとした。こんな本が日焼けするような場所にわざわざあたらしく書斎をこしらえるなんて、どれだけ世を拗ねているんだろう、なんて考えてみた。それで、余計に悲しくなった。



 語りすぎはからだに良くないね。そう繰り返すときの神戸さんは、仲間内だけに通じる合言葉を口にする少年みたいに無邪気だ。しかしこの頃——おそらくはあの夢を見てからというもの、彼はとりとめもない思考の断片のようなものをよく口にするようになった。張り詰めていたものがぷつんと切れてしまったのだろうか、平等だの税金だの、恋だの革命だの、彼が今まで頑なに拒絶していた物事について四六時中たのしそうに語っている。神戸さんは、まるでダムが決壊したみたいに淀みなく喋った。彼の瞳の余白は、どんどん透明になって、どんどん剥き出しになって、着物から覗く肌はいっそう白さを増してゆく。「厄介な旦那さま」の仮面が、八月の日差しで溶けてゆくようだ。

 今朝の彼はいつになく静かで、いつになく気軽な口調で、いつになくやさしく語っている。
「講義室で、自分自身に捲し立てるみたいにして喋っているとね、渦に、巻き込まれていくんだよ」 
 彼は仰向けになって目を瞑り、胸をゆっくりと上下させている。夏も盛りになったので、わたしたちは昼のあいだも障子を開けなくなった。真っ白な障子にろ過された透明な光が、彼の薄い瞼を、鉤鼻を、骨ばった手をいやに神聖に見せている。 

 ——渦。彼がこういう調子のとき、わたしは少し戸惑ってしまう。自分以外の誰かの内的世界に触れることなんて、今までの人生で一度もなかった。見てはいけない、何か根源的な、彼が生まれて初めて目撃したこの世界というものの原風景を、覗き見てしまっているような居心地の悪さがある。 
「大きな渦に、落ちていくんだ。論拠を集めて、それの反論を想定して。それをまた論破して……。どこまでいっても一人相撲なんだよ、講義って。いくら情熱を傾けてもね、いくらしがみついても、落ちていくんだよ。その、渦の中に。だから語りすぎて、夢中になっちゃいけないね。言葉はね、使いすぎちゃいけないよ。畜生、僕は蘊蓄を垂れ過ぎちまった。学者先生なんて持ち上げられてさ、畜生。馬鹿みたいだろう」 
 ここからだと彼の顔はおろか、部屋全体がよく見えない。わたしも彼の隣に並んで寝そべっているせいだ。彼の話と相まって、部屋が細長いパノラマのように歪んで見えてなんだか不気味だ。ほんとうに夢の中に迷い込んでしまったような気がしてくる。
「その点みいちゃんは、いいなあ」
 彼は天井を向いたまま、ふっと微笑んだ。
「みいちゃんは、特別な教え子だよ。僕がどんなに意地悪言って熱弁振るっても、後ろの席でニコニコしてんだもんなあ。バーで出くわした時分にも、こんばんは、なんてすましてる。ままごとだもんなあ、そうだよなあ。笑っちゃったよ、安らかで。みいちゃんは、いいなあ」
 彼はいかにも満足そうに胸を上下させて笑い、そのうち寝息を立て始めた。枕元には薬のシートと、水が残ったグラスが放置してある。わたしはそれに手を伸ばして、何とはなしに飲んでみた。ぬるい。薄いサテンのスリップが、布団に擦れてかさかさと音を立てる。彼の呼吸はすう、と乱れて、うっすらと瞼が開いた。その目は野生の栗鼠とか鹿のように強く純粋で、ぎくりとした。
「……まったく、暑いからっていつもそんな格好して」


 ここには世界のすべてが揃っている。寝乱れたお布団から手が伸びる範囲に、わたしたちのたった今だけの楽園がある。朝刊、爪磨き、華奢なガラスの灰皿、神戸さんが飲む何種類もの錠剤。表面が干からびた食べかけのりんご、黄色い百円ライター、床に落ちたハンガー(元は鴨居にかけてあったものだ)。牛乳寒天を食べた後の青磁のうつわ、黄ばんだ文庫本、それから水が少し残ったコップ。

 神戸さんがお酒を飲んだあの晩、わたしの世界はまるごとひっくり返ってしまった。彼の独白の途中から、わたしまですすり泣き始めた。ごめんなさい、神戸さん。ごめんなさい、一緒に死ねなくて、ごめんなさい……。妙な話だけれど、そのときわたしは心の底から自分を責めていた。なんで一緒に死んであげなかったのだろう? 彼の剣幕に圧倒されて、わたしがほんとうにその場に、彼の夢の中に居合わせたような錯覚に陥っていた。いや錯覚だとわかっていたのだが、それでもその錯覚の中にわたしも帰属していたいと心の底から願った。今からでも間に合うなら、彼の夢の中に入っていって、一緒に死んであげたいと、奥歯を噛みしめながら思った。
 そのときわたしはあることに気づいて、愕然とした。この人と一緒に死ねるのは、あの夢の中のわたしなのであって、このわたしではないのだ。このわたしではなくて、夢の中の「彼女」が神戸さんを苦しめている。わたしは「彼女」に激しく嫉妬した。「彼女」の狡猾さや残酷さをなんとか暴き出して白昼堂々裁いてやりたいと思った。こんな風に、嫉妬と羨望を抱くあまり誰かを糾弾したいなんて思うのは、生まれて初めてのことだった。

 訳のわからない怒りがからだの中で発火して、わたしも大声で泣き始めた。

 ——みいちゃんっ、なんで、なんで一緒に死んでくれなかったんだよお! ……なによ、嘘つき! 神戸さんの嘘つきい、どうせひとりで行っちゃうくせに!——キャミソールのドレスの上に羽織ったカーディガンの肩が、臙脂色の着物の合わせの部分が、酒の匂いと塩辛い涙でぐちゃぐちゃに湿っていた。

 神戸さんが泣き疲れて眠ってしまうと、そっと障子が開き、女中さんが書斎の中に入ってきた。髪もぼさぼさになって泣き腫らしたわたしを見て、彼女も眉根をぎゅっと寄せ、畳に一粒だけ涙を落とした。障子の隙間から入ってきた蛾は、一度わたしの灰皿の上に泊まり、その後卓上の蛍光灯の表面としばらく戯れていたが、やがてその熱のせいで机の上にぽたりと落下した。しばらく節足を音もなくじたばたと動かしていたが、徐々にそのスピードは落ち、たっぷりと時間をかけて動かなくなった。明るくなった空には、いつまで経っても白い三日月が浮かんでいた。


 ふたりで黙ったままこの楽園に寝転んで、一時間ばかり経っただろうか。障子は部屋全体を淡い影で包み込んでいる。彼は目を瞑ったまま、ぴくりとも動かない。骨張ってぴんと張った横顔は、石膏像のように硬質で、なんだか作り物のようだ。起きているんだろうか、寝ているんだろうか。それとも、まさかもう——そう考えるだけで、背中の皮膚が粟立つのがわかった。耳をそっと喉元に寄せてみると、微かにひゅう、ひゅうと規則正しい呼吸の音がした。わたしの長い髪が着物の上に落ち、神戸さんがゆっくりと瞼を開ける。

 「旦那さま」は口の端だけでほんの少し微笑んで、すぐに視線を逸らした。やはり、わたしをじろじろ見ないと心に誓っているようである。『いつまでこうしていられますか』、そう言いかけて、やめた。近頃饒舌になった神戸さんとは反対に、わたしは日に日に口に出せることが限られてゆく。頭の中は辺り一面、言ってはいけない言葉たちが、雪のように降り積もっている。堆積した雪は夏の湿気を吸ってひどく重い。この部屋も、わたしの頭の中も、何もかもがばかみたいに白くなってゆく。

 枯山水の立派な中庭で、ミンミンゼミがけたたましく鳴いている。ときどき鉄製の風鈴が、思い出したようにちりん、と合いの手を入れる。ここにはままごと遊びに必要な全てのものが揃っていて、わたしのお気に入りの硝子の灰皿の中には、ぱりぱりに乾いた爪のかけらが入っている。


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