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ドイツ歌曲の楽しみFreude am Lied*58*

生のコンサートでは“今まさにここで生まれる音楽”を共有していただける喜びがあります。その時間を1曲1曲切り取って“今まさに”のひとかけらでもお届けできたら!とお送りするドイツ歌曲の楽しみ Freude am Lied…

58曲目もプフィッツナー♬…ひとかけら、届くかな?

ハンス・プフィッツナーHans Ptitzner(1869-1949)作曲
孤独な女Die Einsame op.9-2

                 ソプラノ 川田亜希子 ピアノ 松井 理恵

暗くなったら、森に横たわろう
森はそっとざわめくだろう
夜が星のマントで
私を覆ってくれるだろう
すると小川の水音が尋ねるだろう
もう眠っているの?と
私は眠ってはおらず、ただ耳を澄ませて聴いている
ナイチンゲールの歌声を
樹々の梢が頭上で揺れ
それは一晩中鳴り響く
それは私の心の中の想い
すべてが寝静まると、その想いが歌い始めるのだ


ドイツの詩人アイヒェンドルフJoseph von Eichendorff(1788-1857)による。

 日本語の「孤独」はネガティブ一辺倒ですが、ドイツ語の“einsam”はときにポジティブなニュアンスを持っています。この曲もまた然り。登場する女性は、一人森に横たわり、想像の翼を広げ、美しい時間を楽しむ夜のひとときを待ちわびているのです。
 8分の6拍子ですが発想標語は“Äußerst langsam und zartことのほかゆっくり、そして繊細に”と、時をピアノパートの16分音符でゆったりと埋め尽くす音運びになっています。前奏冒頭は裏拍から始まり、ふわりと軽やかな印象です。その上に滑りのるように歌声部は言葉を横たわらせ始まります。詩は全12行で、その8行目までの(6行目を除く)各行が2度の下降形で始まります。優しいため息の音型です。ピアノの右手は星のきらめき、左手のアルペジオは優しい夜風…。5行目の“Da kommen die Bächlein gegangenすると小川の水音が尋ねるだろう”で、ピアノも歌も動きを抑え、さらさらと行く小川の音に耳を澄ませます。ピアノパートの不協和音は風の音と小川の音の重なり。そこにナイチンゲールが現れることで霧が晴れるように穏やかに和音が整って行きます。ピアノパートに聴こえる2度の下降のメロディーがナイチンゲールの歌声ですね。その歌声がなだらかな上行形に変わって現れる9,10行目の雄大なパートは突然森が開け夜空が頭上に広がるかのようです。ピアノの左手のアルペジオは3オクターブにもわたり、右手の幅広い和音はespressivo表情豊かにという指示で一つ一つが深呼吸のように鳴り響きます。歌声部はそのピアノパート挟まれた音域で、広い夜の世界を見渡すよう朗々と歌われます。ふと我に返るように始まる10行目「それは私の心の中の想い」は、1小節だけ転調し、リズムも8分の9拍子に拡大して横たわります。そして最終行は満足気にシンプルな音型を当てられて、全てをピアノに託します。その後奏は9、10行目で登場した雄大パートが再び現れるのですが、スピード感はアップし、まるで夜空を見上げる女性をドローンで撮影している映像のようです。女性の想いは翼をはためかせ、どこまでも遠く旅立っていくのです。

 私の生まれ育った町には立派な桜並木があります。春は桜、夏の緑と毛虫(!?)、秋は紅葉、冬は黒々とした立派な枝ぶり…。夏の毛虫以外は本当に大好きな場所で、若い頃一人でよく訪れていました。特に悩み事があるときは夜中にぶんっと車で乗り付けて、並木道を歩き回るのです。物凄く立派な流れ星を見たこともあります。寒い季節は自動販売機で缶コーヒーを買ってポッケにしのばせて…。しばらくすると気持ちはスッキリし、身体に夜の空気を纏って家路につきます。この曲は、あのキリリとした夜の空気を思い出させてくれて、あれこれ心配ばかりのネガティブ思考をポジティブに変えてくれる、私にとって精神安定剤のような曲です。…特に今、一週間後にコンサートを控えている現在の私にとって、救いのような曲です。ありがとう、アイヒェンドルフ!ありがとう、プフィッツナー!

このDie Einsame はコンサートの前半の最後の曲です。以下にコンサートのご案内をさせてくださいませ!ご都合がつくようでしたら是非お運びくださいませ!生で是非お聴きいただけたらと思っています、何卒よろしくお願い申し上げます!!!

このチラシ、ピアノの松井理恵さんの小学生の息子さんがデザインしてくれました♪

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