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ドイツ歌曲の楽しみ Freude am Lied㊽

生のコンサートでは“今まさにここで生まれる音楽”を共有していただける喜びがあります。その時間を1曲1曲切り取って“今まさに”のひとかけらでもお届けできたら!とお送りするドイツ歌曲の楽しみ Freude am Lied…

48曲目はプフィッツナー♬…ひとかけら、届くかな?

ハンス・プフィッツナーHans Ptitzner(1869-1949)作曲
だから春の空はそんなに青いの?Ist der Himmel darum im Lenz so blau? Op.2-2

                 ソプラノ 川田亜希子 ピアノ 松井 理恵

春の空がそんなに青いのは
花咲く大地を見下ろしているから?
それとも 春の大地が花いっぱいになるのは
ばら色の空が大地の上で青むから?

僕があなたをそんなに好きなのは
あなたがとても可愛らしくて魅力的だから?
それともあなたがそんなに魅力的なのは
あなたの心に愛が生まれたから?

 ドイツの詩人レアンダー Richard Leander(1830-1889) の詩による。

 たまごが先かニワトリが先か…の問いのようですよね。単純に美しいものを“問い”という形で愛でている曲です。
 ゆったりとした上行形で始まる前奏は大きなクエスチョンマークを描いているよう。同じメロディで始まる歌声部のラインも骨太で、墨をたっぷり含ませた筆で描く大きな一筆書きの書のようです。第一節では、花が先か「それともoder」空が先かという“問い”が歌われ、その「それともoder」の箇所で音楽の温度が一瞬にして温かくなるのがなんともキュート。ピアノパートもそれまでの左手の上行形に、右手のひらひらと舞い降りるような下降形が加わり、温か味を増しています。第二節の“問い”は、美が先か「それともoder」愛が先か。第一節同様にキュートに進むかと思いきや、ピアノパートの確信に満ちた響きの和音の展開にのって「愛が先か?」歌われます。それはまるで、「問うまでもない!すべては愛の仕業なのです!」といった力強さです。これでは疑問形の文体と矛盾が生じてしまう!と最後の一行を“問い”の上行形で歌い直して結ばれます。
 …我が家には猫ちゃんがいるのですが、私はしょっちゅう「なんでお前はそんなにかわいいの?」といってぎゅうっとしては引掻かれています。この「なんでそんなに○○なの?」はこの曲の“問い”で愛でる感情に似ていると思うのです…皆さんはどう思われますか?


 以前プフィッツナーの歌曲を歌ったときの解説から少し抜き出してみました↓ 鑑賞の参考になさってくださいませ。

ハンス・プフィッツナー Hans Pfitzner (1869-1949)

 ドイツの作曲家(モスクワ生まれだが1872年にはドイツに家族で移住)。“20世紀のロマン主義”の代表とされるプフィッツナーは、モダニズムを徹底して嫌い、政治的にも文化的にも保守主義者を押し通そうとした。そのあまりに反動的な言動から、プフィッツナーはボイコット運動をおこされるなど、生涯にわたってアウトサイダーとしての人生を送った。その一方で、ワーグ ナーの流れを汲み、戦前においては非常に高く評価され、彼の音楽協会が設立され、彼のための音楽週間が開催され、また各種の勲章を受けるなど、非常に高い評価を受けてもいた。
 ドイツの作家トーマス・マンはプフィッツナーの作品について「私が昔から知りつくして深い親しみを感じているもの」と述べているが、これこそ、プフィッツナーが創作の中で求めて止まなかったロマン主義にほかならなかった。彼の歌曲は穏やかで淡々とした、聴くほどに味わいが増す渋い作品ぞろいである。
 人間プフィッツナーの真ん中を貫いていた「ドイツ精神」について語るとき、ともするとナチスとの関係に焦点をあてられてしまう。しかし彼が第一にしていたものは、ベートーヴェンに始まりワーグナーへと至るドイツ音楽の歴史であって、ナチズムとは無縁であったことは明らかだ。こうして純粋な音楽に、様々な歴史的事情が上塗りされてしまうことが何よりも悲しい。



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