ドイツ歌曲の楽しみ Freude am Lied⑳
生のコンサートでは“今まさにここで生まれる音楽”を共有していただける喜びがあります。その時間を1曲1曲切り取って“今まさに”のひとかけらでもお届けできたら!とお送りするドイツ歌曲の楽しみ Freude am Lied…
20曲目もメンデルスゾーン♪ …ひとかけら、届くかな?
メンデルスゾーンMendelssohn : 月 Der Mond Op.86-5
ソプラノ 川田亜希子 ピアノ 松井 理恵
私の心は暗い夜のよう
すべての梢がざわめくと
そこに満月が雲の合間から
光を放ち ゆっくり現れる
ごらん 森は押し黙り 耳を澄ます
月よ おまえは明るい月だ
愛に満ちて
私に眼差しを投げかける
その天の安らぎに溢れた一瞥で
ごらん ざわめく心が静まっていく
ドイツの詩人ガイベル (Franz Emanuel August Geibel 1815-1884)による詩。
月が照ると暗かった心が明るくなり、月が照るとざわざわしていた気持ちが静まる… 月を讃えている詩ですね。心地よい“揺らぎ”で始まるピアノパートは気持ちのいい夜風のようです。歌は引き寄せられて、控えめなメロディラインでつぶやくように始まります。雲間から満月が徐々に姿を現すとともに、メロディラインは膨らんでいきます。第2節では“おまえ”と月を親し気に呼び、月光に全身を浸すようなフェルマータで“天の安らぎ”という歌詞が引き伸ばされます。最後の1行はアリアのようにドラマチックに展開して繰り返されます。全2節のシンプルな造りですが、まるで大きな2つのため息のようです。
…若かったころ(!)、私はしばしば夜中に家を抜け出して近所の桜並木を散歩していました、月とお話しするために。冬はポッケに缶コーヒーを忍ばせて。そんなに長い時間ではないのですが、月を見上げて首が痛くなるまで、ぶつぶつ話しかけていました。月には本当に助けてもらいました。この曲にはあの頃の自分の姿がくっきり重なります。生きていたら誰しも月に語りかけたくなることの一つや二つ、三つや四つ、五つや六つありますよね。ね?
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