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曲紹介『In the light』
2023年9月に完成した曲です。
松田和希さんのGt.インスト曲『光の中で』をオマージュさせていただきました。
※この記事は、ぜひ途中の動画や歌詞を順に観ながら読んでいただけたらと思います。
In the light
詩/曲:大塚雄哉
夜空の隙間に数えた昴
偶然そこにあった星と星
横顔だけ見つめた彦星
いっそ隔てて欲しかった ひとりごと
──息を抑えて飲み込んだ秘密
いま一番輝いてたはずの夕星(ゆうづつ)
夜に隠れてしまうの
In the light 心を照らして
消えてしまいそうな私を連れ出して
あぁ どうして 気づいてしまったんだろう
朝が迎えにくる
"ほら" 声に出した時には、
もう消えてしまった流れ星
言葉にはなれない物語
それでも良かった、はずだった
──白紙のノート 書いて消した名前
届かないと思っては見上げ探した
このまま飛んでいけたなら
In the light 心を照らして
消えてしまいそうな私を連れ出して
あぁ どうして 目を閉じても眩しいんだろう
夜を待っているのに
"夜空がすべて降り注ぐなら迷わず声に出せるのに"
なんてたとえ話はもうやめて
言葉は言葉にしかなれないでしょう
偶然だからこそ、それは一瞬の光の中で
In the light 心を照らして
消えてしまいそうな私を連れ出して
あぁ どうして 叶わないと分かっていたとしても──
In the light 心を照らして
消えてしまいそうな私を連れ出して
あぁ どうして ──目を逸らせないんだろう
ひとすじ、光
ひとりごと
もう、迷わない
■おおまかな話
松田和希さんというギター奏者の『光の中で』というインスト曲があります。僕はこの曲がとても好きなんです。ひとまず聴いてほしい。
いい曲や。
『光の中で』を紹介できたのでもうこの記事はハイッオワリィで良いくらいに思っています。
さて、当時 音楽理論のさわりを理解したり、作詞の"型"が出来上がりつつあり、こだわり始めたのが「誰かのために」「誰かだったとしたら」といった自分の曲に誰かとのつながりを作ることでした。
目的を明確にして曲を作りたいと思ったんですね。機械的もしくは内向的にじゃなく、「他者とつながりたい」っていう。ほら、もともと、陰キャなので。
そんな時、インスト曲である『光の中で』にメロディと詞をつけることができれば、と思いました。
自分がリスペクトするものに自分でさらに手を加えるというのはものすごいプレッシャーです。けどそうやって熱を持って、悩んで、やり遂げるのが人と関わることだよなと思い、心を決めました。
ということで、『In the light』で挑戦したことは『他者の世界観をもとに自分の曲を作り上げること』です。
とは言え『光の中で』は松田さんの曲です。
こっそり取り組むことも考えたんですが、真剣に向かい合うけじめとして事前に松田さんに連絡しました。快く了承いただきありがとうございました。
■作る話
⚫︎詞の話(前編)
この曲には大きなモチーフが隠れています。分かる人にはすぐ分かるんですが。
ちょっと野暮ったいのでそれは後述します。
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さて、この曲はオマージュなのでまずは原曲『光の中で』の世界を理解する必要があります。
松田さんに次のように教えていただきました。
宇宙の中にはたくさんの星(光)がある。その中で出会う人達はほんの一握り。そんな奇跡を音に込めました。
これを聞いたときに確かに「夜空、星といった"見上げながら感じる広がり"や、憧憬・ノスタルジックが溢れるメロディーだな」と感じていたことを思い出しました。これを世間一般に後だしじゃんけんと言います。
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光とは星。人との出会いという奇跡。
核となるモチーフとメッセージをいただきました。そこからストーリーに広げていきます。
もう少し原曲からヒントをもらうことにしました。
『光の中で』で特に強い魅力となっているのはAメロやサビのメロディーだと思います。
普遍的で雄大、そこに懐かしさと少しだけの切なさを染み込ませたような旋律。
僕はそこに"青春"とか"あの頃に感じた未来への期待"のようなものを感じました。ジュブナイル。分かりづらい表現をしました。10代の甘酸っぱいやつです。
また、メロディーの柔らかさ・瑞々しさから、どうしてもこの物語は女性目線で語りたいとも思いました。
星、青春、女性。かけらが集まりつつあります。
そして、後述するもうひとつのモチーフから、星に想いを馳せる物語に決めました。
結果としてごくごく一般的なストーリーです。
けどこうやって根拠を積み上げてたどり着いたストーリーはその後の言葉選びに大きな違いが出てくることは間違いないです。言葉の必然性や説得力が全く違います。
ここから先はもうひとつのモチーフとは切り離せないので後ろに回します。
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⚫︎曲の話
松田さんに『光の中で』の世界を伺ったときに合わせて教えていただいたことがあります。
宇宙のようなスケールの大きいソロギター曲を作ろうと思っていたのが一つ。そこから今回のチューニングを選んで作りました。
チューニングを、選ぶ??
ギターをかき鳴らすことしか知らないストリートキッズの僕には思い及ばないフレーズですが、それはその後の採譜のところで味わわされます。
最初、コード進行や曲の長さを全く同じにしたいと思ったんですね。なのでまず取り掛かったのはコードの耳コピです。
動画を見ながら、押さえてる音、和音の雰囲気(音感はカスほど無い)を読み解いてコードを探します。
が、合わんのよ。だってチューニング違うんだもん。自分なりに分析しながら追っかけましたがもう分かんなくてどんなチューニングか松田さんに教えてもらいました(音感はカスほど無い)。
インスト曲から歌モノを起こすということで、他にも普段とは違う視点がありました。
インスト曲はギター1本で伴奏とメロディー両方を兼ねるので響きが複雑です。
key Gで多用するCM7ですが、この曲は9thの音をを加えたCM9の方が合いました。
CM9は押さえ方が複数あり、最も簡単なのはこちら。
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けどこれだと9th感が弱い。なのでこちらを選択しました(ボイシングといいます)。
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同様に曲中に出てくるあらゆるコードをボイシングすることでインストの空気を保ちます。そして詞とメロディーの動きからdim7を加えるなど、歌モノとしての補足をしていきました。
他にもEmじゃなくてG6、Gadd9じゃなくてGsus2など、色々と模索してコードを決定しています。
また、メロディーを原曲と同じにするのはなんか嫌でした。天邪鬼なので。
雰囲気を崩さず、けどできる限り被らないメロディーを探すことに苦労しました。
とは言え実はサビ1行目のメロディーは採譜後 一発目のメロあてで浮かんだものをそのまま採用しました。サビに自信を持って進められたことは精神衛生上とても良かったと思います。
原曲が5分半。できれば5分以内には収めたかったけと出来ませんでした。
本当は後奏なしの4分半で終わらせるつもりでした。が、試しに作った後奏が、とても良かった、、削れなかった、、、仕方なかった(´Д` )
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⚫︎詞の話(後編)
もうひとつのモチーフは「枕草子」です。
先ほど「星、青春、女性」の過程は述べましたが、まだストーリーの柱として心許なく感じていました。
そこで星にまつわる物事、言葉、伝記などを調べ、その中で「枕草子」が目にとまりました。
枕草子は、女性である清少納言が、生きる中で感じた気持ちを記したものと言われています。
その中で"美しい星とは"を述べた一節がこちらです。
星はすばる。ひこぼし。ゆふづつ。よばひ星、すこしをかし。尾だに なからましかば、まいて。
現代語に訳すと以下のようになるそうです。
星は、昴(すばる)。彦星。夕づつ。よばい星は少しおもしろいわ。尾さえなかったら、もっといいんだけどね。
昴とはプレアデス星団。おうし座に位置する星の集まりです。通常肉眼では6〜7個の星が見えます。語源は「統ばる」。
広い宇宙の中で、その星々がそこにあったのはきっと偶然であり、それは星と星の出会いと言えるものだと思います。
彦星は「織姫と彦星伝説」に登場する彦星です。伝説の通りまさに隔てられ 手の届かない想い人を想起させる星じゃないでしょうか。
ゆふづつ(夕星)とは宵の明星、いわゆる一番星。
宵の明星は、夜空の最初 最も輝く星なのに、時間とともにすぐに隠れてしまいます。
それは相手を想い輝く気持ちと、届かない現実を前に虚ろに揺れ動く心情と重なります。
よばひ星とは流れ星のこと。
流れ星はこの時代、想い人の元へ、魂が抜け出して会いにいくことに例えられたそうです。
また、"よばひ"とは"呼ばい"、想い人の名を呼ぶことを指していたとのこと。
ある女の子が、好きな人のことを想い、しかしそれを隠しつつ星を眺め、あなたのもとへ飛んでいきたいと願う。
いま形にしたい曲のイメージと一致しました。
なのでこの一節を、In the lightのもう一つの骨格にすることに決めました。
なお「尾だに なからましかば、まいて」の解釈は諸説あります。
通説は、想い人との逢瀬は派手な尾をつけて人に見せるようなものではない、というものらしいです。
けど、僕はこう思いました。
あなたを想うことに虚ろな尾など引かず、この気持ちを伝えられたなら
なのでIn the lightの最後、この少女は迷いを断ちます。
ひとすじの流れ星の下で呟いたひとりごとは、序盤のそれとは大きく異なります。
その先は、この曲を聴いてくれた皆さんそれぞれの物語と重ねてもらいたい、そう思います。
■しめくくり
手前味噌のかたまりであるこの記事で今さら何を言うか、という話ですがこの曲は自信作です。
詞とメロディー単体の良さだけでなく、作曲に取り組んだコンセプト・実現に向けたプロセス・結果として完成した楽曲すべてが有機的につながり、必然的にこの形にたどり着けたことに何よりも"自分の可能性"を感じることができました。
もちろん、これは原曲の素晴らしさがあってのことです。くり返しになりますが、僕の取り組みに応諾いただいた松田さんには改めて感謝申し上げます。
ということで!
今後もどんどん歌ってくのでよろしくお願いします!
では。