曲紹介『スズの兵隊』
6回転調する曲。
おおまかな話
2022年の1〜2月に作った曲です。どうやら2/11に完成したらしい。
この曲は詞・曲ともにひとつのターニングポイントになった曲と言えると思います。
作詞方法確立のきっかけ。かつ、作曲における理論実践のひとつの区切りという意味で。
ややこしいことやってるって意味ですね。
作る話
詞の話
2021年の年末に駆け込みで『ユリイカ』が完成して、次はどうしようかなーと考えていました。
2021年って長年の(サボってた)ブランクの影響か、1曲できたらアレヨアレヨと曲がどんどん完成したんですね。
その中では理論を勉強したり、久々にライブ出演して新曲歌ってみたり、トライすることがありました。
それまでの作りかけストックも出尽くして「トライing?新しいことってどんなこと?」と考え始めたんですね。
その中でふと思ったのが「誰かの物語に流れる歌を」と謳うのであれば、「既にある物語をベースに作詞してみよう」というものでした。
ほら、YOASOBIとか、やってんじゃん。
で、ちょうどメロ〜サビにかけてしゃら〜っとイイ感じの鼻唄メロディが浮かびまして、よしこれに既存の物語ベースで作詞をするぞっと決めました。
そのメロディが、陽気でもなく鬱ほど暗くもなく、けど冬枯れっぽいシルバー、軽くほつれたワイヤロープのような雰囲気だなーと思ったんですね(分かりにくい表現をしました)。
なんかストレートなラッブストゥリーとかアクション活劇じゃねぇなコイツ。
って思いつつ、あぁ童話の世界観だって思ったんです。
懐かしさと寂しさを帯びて、"無条件の優しさ"は無く何か教訓めいた説得性を感じさせる。バッドエンドの中に"説明の無い救い"がわずかに浮かぶような(分かりにくい表現をしました・再)。
で、そこから和洋の童話を読み漁りました。
童話って色々あるしね。
さすがにこのメロディで「なんで耳が大きいの?」とか言えないしなぁ(けど本当の原作verなら意外といけっかも)。
目星を付けてはその童話の複数verを読んで、こういう解釈こういう言葉遣いふむふむあーもうちょっと他の話も探してみよう。
実は以前も作詞のネタに童話・おとぎ話を読み漁ったことがありました。
※確かドン・キホーテについて調べまくった。
で、そういえばアンデルセン童話の「しっかり者のすずの兵隊」ってあったなと思い出したんです。
要約するとこんなお話。
主人公は金属のすず(鈴ではなくて錫,Sn)で出来た兵隊の人形。
兵隊は生まれた時から片足しかない。
ある男の子の誕生日プレゼントとして家にやってきた。
その家にのたくさんのおもちゃの中に、紙で作られた踊り子人形がいた。
兵隊はその踊り子を見つめていた。
ある日兵隊は小鬼のいたずらで家の外に放り出されてしまう。
兵隊は下水道を流されながら絶望の歌を聴いた。
兵隊は魚に飲み込まれ、その魚は漁師に釣られ、なんと元の家に戻ってきた。
男の子のもとへ帰り、踊り子を見つめる兵隊。
しかし男の子は前触れなく兵隊をつかみ暖炉の中に投げ込んだ。
暖炉の中で溶けていく兵隊。そこへ風に吹かれた踊り子が飛びこみ、二人は炎で焼かれる。
炎が消えた後、そこにはハート型に固まったすずが残っていた。
急展開 & やりきれない & どういうこと?感がすごい
キッズ、なんで投げたん?
けど何か、わだかまりとも違くて、胸に引っかかって残る不思議な感覚の物語です。
当時はドン・キホーテのろくでなし振りに気が逸れてそこまで注目してなかったのですが、改めて読み直してすごい気になったんですね。
なんだかとっても、鈍色(にびいろ)ですよね(分かりにくい表現以下略)。
よし、これでいくで。
そこから詞曲並行して作る中で、メロディの展開に言葉を載せていきました。
曲は4分と短く、言葉を紡ぐこと自体よりも、少ない言葉で世界をどう表現するかに苦しみました。
後述しますが、その中でもこの曲のポイントは1サビ後の展開パートに集約されています。詞も、曲も。
今消えようとする命
閉じようとする視界の奥で、
憧れた貴方が舞い降りようとしている
しかしここは炎の中であり、迎えうる運命を悟る
それでもきっと、祈るような、清浄な思いで、重なり合うことを願ってしまうと思う
それは肉体のように直接的ではなく、心ほど曖昧でもなく、言うなれば命に触れたい、という感覚じゃないか
後述するコード展開に、合わせられるメロディを探りながら、上記の情景を端的に表現する言葉を探して、そして見つけた、と思いました。
気丈な強がりを見せる兵隊なので、きっと死にゆく中でそばに寄る踊り子を見たとしても、笑顔や涙ではなく、いつも通りにただ前を見据えたのではないか、と思います。
今回の作詞を通して、詞のコンセプトを決めたらそこから複数視点で情報を集め、広げ、最終的に一つの物語に集約する感覚がつかめてきました。
この感覚はもう少し時間が進んで『アモルとプシュケ』という曲で昇華されます。
曲の話
2021年に理論的なものを独学したわけですが、その中でも特に転調・借用和音を学んで実践しました。
前回の『ユリイカ』であったり、まだnoteには書いていませんが『ヒーローになる』『ハルジオン』などで意図的に転調etcを使いました。
で、『ユリイカ』の記事で書いたんですが、五度圏表っていうのを使うと転調のルールも分かりやすいです。
ざっくり言うとこんな感じ。
曲のキーを五度圏表のてっぺんにした扇型のコードが普段使いやすいコード
(上図はCメジャーキーの扇)やりやすい転調先は、キーのアルファベットが入ったコードが含まれる扇
(Cの場合、C,Cm,Cm7-5が含まれる扇)
というわけで、キーがCであれば、G(Cが含まれる)とかE♭(Cmが含まれる)とかそこら辺の扇に行きやすいってこと。
こういうのを参考にしながら「次の曲はここに転調してみよう。あーこういう雰囲気になるのか。インパクト強ぇな」とかを実践してたんですね。
で、正直 転調使いすぎたんでここらでひと段落するかーと取り組んだのが『スズの兵隊』になります。
学んでる中で思っていたことがありました。
それが「五度圏表で、隣の扇(CからGとか)に転調できるってことは、隣の扇にどんどんクルクル転調できるんじゃね?」ってことです。
ちょうど髭ダンのCry Babyとか、えげつない転調の曲が流行ったりしてたし、よーしやってみよう
ということで着手したのが1サビ後の展開パートです。
展開の直前からラスサビ始めまでで4回転調しています。
そのうち間の3つのキーが五度圏表を1つずつ時計周りに回したもの。
これがねー大変だったー
やってることシンプルなのに
メロディが定まらない。2小節ごとにキーが変わる、しかも半音上とかの転調じゃないからメロディ展開を変えなきゃいけない。けど転調先で使える音階ってなんだっけ?それを前後のメロディと違和感なく繋げるにはどうするん?しかもラスサビに向けて盛り上げなきゃならんの?アッーー
的な。(的な?
ということでたかが12小節なんですがここのメロディ決めるのに3日くらいウンウン言った気がする。つらたん
試行錯誤の果てに、ラスサビに向かう強いベクトルを発したメロディにできたと思います。シンプルなんだけどね。
そしてここに前述の、兵隊の思いを表現した詞を合わせることで、物語としての重要なアクセントになりました。
なお、ラスサビのキーはCを一つ隣にずらしたGにすることもできました。1番はGだし。
けどそれまでの展開、ベクトルの強さから、ここは1音上げたAにすべきだと感じたのでグッと上げました。
ちなみに苦労したとか言ってるんですが、聴いてるとそんなに転調感ないと思います。
五度圏表の隣って、使える音がほぼ一緒なので転調感薄いんです。
なので連続して転調することで初めて生まれるベクトルってのはあるんだと思う。挑戦したことが実を結んだんだと実感できたのは、自信と楽しさの増幅に繋がりました。
しめくくり
ということで、この曲を通して、作詞作曲ともに具体的な手法・感覚をつかめたなと思っています。
なお、転調は一区切りみたいなこと言いましたが、その後の曲も転調・借用和音使いまくってます。アイツらは麻薬だ。覚えたら抜けられん。メロディセンスのみの裸の勝負ができなくなる、、
あと音楽理論はマジでかじっただけなので間違ってたら教えください。
僕はいま中途半端な知識を意図的にドヤ顔で喋るようにしています。
長くなったー
この曲はここら辺で。
では。
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