
(考えてみたシリーズ)就活の筆記試験と採用後の追跡調査について
就活の筆記試験について
今年もまた本格的な就活の季節が近づいている。肝心な面接にたどり着く前に必要になるのがエントリーシートと筆記試験の通過だ。たった今もこの対策に勤しんでいる学生は多いことだろう。
最近は公務員の採用でもSPIを導入している自治体がある。民間企業を第一志望としている学生であっても受けやすくするなどの理由からだ。確かに学生としては公務員試験対策を並行して行うことなく、SPIの対策だけしておけば民間企業と公務員どちらも受けられるというのであればメリットはある。一方で自治体の採用側としてはどうだろうか。
SPIと公務員試験
地方自治体などが採用過程で公務員試験をSPIに置き換えた場合、民間企業を狙っていた学生も受験をしてくれる可能性が高くなる。学生にとっては公務員試験の対策をしていなくても良いからだ。
しかし、SPIと公務員試験では、当然ながら試験内容が異なる。内容が異なるということは、その試験で測れる受験者の能力が異なるということだ。単純に受験者を増やしたいからという理由だけで、ある試験方式を採るというのは、結果的に採用側の求める人と採用された人との不一致を招きかねない。
筆者は過去に公務員試験(地方自治体)もSPIも受験したことがある。公務員試験は、過去問集で対策を行った。独特の問題形式であり、問題慣れが必要と感じた。ただし、しっかりと対策をしておけば本番ではある程度の得点は可能なレベルの試験である。公務員試験で一定以上の得点が得られたということは、試験を見据えてそれなりの対策を行ってきたということの表れでもある。
一方でSPIだが、能力検査は、問題形式や問題を解くスピードについて、問題集などを使って対策をとる必要があると感じた。テストセンターでの受験、自宅のパソコンでの受験など、受験方式にも種類があるので、方式ごとに慣れておく必要もあった。
同じくSPIの性格検査であるが、こちらはリクルートのホームページ内のSPIについての概要が記載されているページでは、準備の必要はなくありのまま答えることが大切だと書かれている。その理由は回答を取り繕ってもその後の面接でボロが出たり、入社後に会社に合わず苦労することになるからということだ。
しかしこの性格検査であるが、SPIの対策本を買うと、性格検査の際に回答に注意しなくてはならない質問や、こういう業界であれば、こういう傾向の答え方をすると良いなど、それなりに対策が取れるように書いてある。また、インターネットで検索すれば、SPIのみならず他の性格検査の回答テクニックが(信用できるかどうかはわからないが)いくつも出回っている。
試験を受ける学生の立場としては、性格検査で選択してはいけない回答と対策本に書いてあるものに対して、自分自身の考え方は違ったとしても、わざわざそれを率直に回答する人はいないだろう。おそらくほとんどの学生が選択してはいけないとされた回答は避けるはずである。その後の面接でボロが出るかもしれない、入社後に苦労するかもしれないなどと言われても、就職先が決まらないリスクを前にしては、いくらでもその場しのぎの回答はするだろう。
つまり、SPIは能力検査に関しては、ある程度の対策(問題慣れや試験方式慣れ)をしてきたかどうかも得点に関わってくる。この点は公務員試験の事前に対策をしてきたかどうかということが同時に表れてくる部分でもあると思う。
問題は性格検査である。表向きには対策不要で素直に回答するよう求められているが、実際には注意すべき質問についての情報が書籍やインターネット上でいくつも出回っている。性格検査で(ある企業で)問題のない人物であるという結果を出した人間というのは、素直に回答した結果でたまたまそのような良い人材であったケースの他に、表向きの情報を信じず、おそらく対策可能であることを事前に調べ上げておく、抜け目なさがあった人物も含まれている可能性もある。公務員試験のように高得点の人間はすなわちどのような人かということが、SPIについては非常に言いにくいのだ。
公務員試験をSPIに変更したほうが採用側にメリットがあるのかどうか
上記のような違いのある公務員試験とSPIだが、自治体が公務員試験をSPIに変更することによる採用側のメリットはあるのだろうか。
これは、採用側がどんな人物を採用したいかということによると思う。過去問による対策を行ってきた人間(=与えられている情報から事前に対策や準備ができる人間)を採用したいのであれば公務員試験でも良いだろう。
一方でSPIを導入すると、先に述べたように受験者は増えるだろう。ただし公務員試験とは異なり、特に性格検査は(それが受験者側にとって後々苦しくなる行為であったとしても)いくらでも取り繕うことのできる試験であるため、採用側にとって良い結果を出した者が必ずしも採用後に活躍してくれる人物であるかどうかが分かりにくい。
採用側はこれらを考慮したうえで今までどおり公務員試験を続けるか、SPIを導入し、これまでには受験をしなかったような層の獲得を目指すかを検討する必要があるのではないだろうか。また、これをやるには、今までの試験ではどのような部分を見落としていたのか、受験者の何を見抜く必要があったのかをもう一度採用側は考えなければならないと思う。
採用過程で好人物であった人間の追跡調査の必要性
採用過程で採用側にとって「好人物」であった人間が当然ながらその企業なり自治体なりに採用されることになる。しかし、その後数年間の働きもまた「好人物」であったかどうかは確認しているのだろうか。
おそらく一定数、採用してみたものの期待どおりの人物ではなかったり、すぐに離職してしまったりするケースがあるだろう。これらは遡って考えれば採用過程で、彼らの真の姿を見抜くことができなかったということだ。ということは、もっと良い人物を採用し損ねた可能性もある。はっきり言ってしまえば採用側(人事)の失敗である。
採用しなかった人間のその後の活躍ぶりなどの追跡調査は困難であるが、採用した人間の追跡調査はできるはずだ。採用過程での筆記試験の成績、面接での印象、どういう受け答えをどう評価したかといったことを全て残しておき(できれば誰がどのような評価をしたのかも記録に残すと良い。追跡調査の結果、あまりにも多くの問題人物の採用のきっかけを作ってしまった職員は人事職には向いていないかもしれない。)、数年後に再度その人物を評価して採用過程での評価と実際に働かせてみた結果の評価を比較する。さほど変わらない人もいれば、採用当初は大きな期待を寄せられていたものの、実際にはあまり活躍できていない人やその逆もいるだろう。期待どおりでない場合は、それが職員本人の問題なのか、それとも職場環境や人間関係により本来の能力が発揮できない状況にあるのかを確認することも必要だ。
この調査をすることにより、採用時に確認すべきことは何だったのか、傾向が見えてくるのではないだろうか。何年か分のデータを集めるとより傾向が掴めるだろう。
まとめ
今回は就活の筆記試験と採用後の追跡調査について考えてみた。就活の季節がめぐってくるたびに、SPIや公務員試験の対策をしていた頃を思い出す。そして、受験したものの筆者は採用されなかった業界で不祥事が起き、同じくらいの年齢の人物が関わっているのを見ると一体、彼らと自分は何が違ったのか、あの性格検査は何を検査していたのかと思ってしまうことがある。相当の影響力をもつSPIは、どこまで上記のような追跡調査をしているのだろうか。これにより採用試験受験者の最初の選別を行なっているのであるから、このサービスを提供する社会的責任は相当に重いはずだ。
大企業、大規模自治体にとっては特に、採用活動は毎年のことで、採用する側にとっての成功も失敗も繰り返し業務の一部になってきているのであろう。しかし、採用される側にとっては人生を左右する大きなイベントの一つである。そして社会にとっても、人材を多く無駄にするのか、あらゆる分野で活躍してもらうのかを決める重要なイベントである。
このイベントのために、多くの若者が学業よりも就活を優先し、1年以上の時間とお金と人生をかけている。是非ともその時間を無駄にさせることはせず、採用する側も採用方法の改善を続ける努力をしてほしいと思う。
(執筆:うたたん総研 研究員A)