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(可視化してみたシリーズ)日本の火葬場の分布について

はじめに

 可視化してみたシリーズ、第1弾は日本の火葬場の分布である。日本国内にどのように火葬場が分布しているのかを可視化してみた。

 きっかけは、2019年に発生した新型コロナウイルスの流行である。多くの行動制限などの規制を経て2023年5月に感染症法上の位置付けが5類へと移行した。しかし、あくまでも感染症法上の位置付けが変わっただけで、まだまだ職場などでの新型コロナウイルスの感染者は出ている。
 流行の初期には、遺体の火葬が追いつかず、遺体安置所で火葬の順番待ちとなっている遺体があることも報じられた。この火葬場の受け入れ人数超過の現象は、新型コロナウイルスの流行だけでなく、今後も感染症流行や災害等、平常時に発生する死者数を大きく上回る要因があれば十分に起こる可能性のあるものだ。
 また、多死社会などの報道でも死亡してから火葬までの待ち時間が長い「火葬待ち」の問題について取り上げられている。
 社会問題の一つになりつつある火葬場問題だが、そもそもどのように日本国内に分布しているのか、今回は厚生労働省が出している「全国火葬場データベース」をもとに、日本の火葬場の分布を以下で可視化してみた。使用した「全国火葬場データベース」に記載されているのは令和元(2019)年6月1日現在の情報である。

日本の火葬場の分布状況を可視化してみた

 以下が「全国火葬場データベース」をもとに、作成した日本の火葬場の分布状況の図である。データベースに記載されている火葬場について、市町村あるいは政令指定都市の区単位(ただし東京都は特別区単位)で火葬場の数を集計し、その数を円の面積で表した。

 東日本と西日本とで比べると、西日本のほうがやや円が密集している。
 東京都、神奈川県、愛知県、大阪府、福岡県周辺で円は比較的小さいが、他と比べるとかなり密集している。いずれも国内において人口の多い都市であるが、円が小さいのは特別区もしくは政令指定都市単位での集計の影響であろう。

↑東京都・神奈川県・愛知県・大阪府・福岡県周辺を拡大

 円の大きさに着目してみると、中国四国地方で大きい円が集まっているのに対し、他の地域は大都市圏を除くと小さな円が分散している。
 内陸部分で円と円の感覚に隙間がある部分の多くは住人の少ない、もしくはいない山間部と思われる。
 福島県の海沿いにも空白部分があるが、ここは東日本大震災に伴う原発事故の影響で帰還困難区域や避難区域に指定されている地域を含んでおり、データベース作成時点で運営を停止していた火葬場があったことが原因だ。


↑福島県周辺を拡大

 全国火葬場データベースでは、福島県内にある火葬場は全部で24か所であるが、wikipediaの「日本の火葬場一覧」をみると、同県の火葬場は全部で26か所である。

 全国火葬場データベースにはない2つの火葬場は、飯館村にある「飯館村火葬場」と双葉町にある「聖香苑」であり、火葬場のある場所はいずれも事故直後に警戒区域や計画的避難区域に指定されていた場所である。

 

火葬場あたりの人口も可視化してみた

 火葬場あたりの人口についても可視化してみた。以下の図は、上の火葬場の分布に加えて都道府県単位で見た時の火葬場あたりの人口を円の色で表したものである。

 東京、神奈川、埼玉あたりが濃い色になっており、火葬場あたりの人口が他の地域に比べると多い。

↑東京都・神奈川県・埼玉県周辺を拡大

 千葉や愛知、大阪、福岡はそれに次いで赤やオレンジ色で着色されている。人口の多い都市部ほど、火葬場あたりの人口が多く、それ以外のところでは少ない。

まとめ

 今回は厚生労働省が公表している全国火葬場データベースをもとに、国内の火葬場の分布状況と、火葬場1施設あたりの都道府県ごとの人口を可視化してみた。
 全国的にみれば本州のみならず島嶼部の一部にも火葬場があり、極端に空白地帯となっている場所はなかった。火葬場1施設あたりの都道府県ごとの人口を表した図を見ると、主要都市において1施設あたりの人口数が多く、特に東京・神奈川周辺は、都道府県単位で見る限りでは、その周辺も1施設あたりの人口が多い状態の火葬場が集まっている。そのため、利用者が集中した場合に近隣の火葬場へ分散させても過密状態を解消することは難しそうだ。
 ただし、今回行ったのはあくまでも施設単位の集計であって、火葬炉の集計を元にしたものではない。1つの火葬場の中に火葬炉が1基のみの場合と10基ある場合とでは、施設の能力は大きく異なってくる。また、火葬場1施設あたりの人口については、都道府県単位で算出したものであり、火葬場を持たない自治体の住民が隣接する他の都道府県の火葬場を利用しているケースがある場合にはこれを正確には反映できていない。火葬炉数や近隣自治体が共同で火葬場を利用しているパターンなどの情報が集まれば、より正確な国内の火葬場の分布状況や利用者の集中具合などを可視化できるだろう。

(おまけ)火葬場についての統計の現状〜可視化作業中に気づいたこと〜

 火葬場の分布状況などについて上記のとおり可視化してみてが、その過程で国が出している火葬場についての情報は意外と少なく、また加工するには非常に使いづらいデータの公表のされ方であることに気づいた。
 現在、国が出している火葬場に関するデータは「全国火葬場データベース」以外だと、同じく厚生労働省の「衛生行政報告例」、そして国土交通省の「都市計画現況調査」が見つかった。

 「全国火葬場データベース」と「衛生行政報告例」は、各都道府県にいくつあるのか、どこにあるのかという施設数に関する情報は書いてあるが、1つの施設の中にいくつの炉が存在しているのかということは分からない。「都市計画現況調査」では、各火葬場ごとの面積や処理能力(一日何体の火葬を行えるか)についての記載はある一方で、全ての火葬場で炉の数については記載がない(処理能力の記載欄に、一日の火葬人数を書いているところもあれば火葬炉数を記載しているところもあり、内容が統一されていない状況である)。
 当初、国内の火葬場の分布状況について可視化するために、公開されている国のデータを使用しようと探した結果だが、残念なことに形式がPDFであったり集計方法や記載方法が火葬場によりまちまちであったりと、使用者が何かしら加工を加えなければすぐに図やグラフにすることができない状態であった。

(執筆:うたたん総研 研究員U、図の作成:うたたん総研 研究員T)


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