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(考えてみたシリーズ)昨今の子育て支援と少子化問題、世代間格差について

子育て支援の充実

 昨今、少子化対策として子育て支援の充実が見られる。特定の都道府県、市町村での施策のほか、国会でも高校無償化や学校の給食費無償化についての話題が出ている。また、教員不足の対策として2024年からは教員になった人の奨学金を免除する制度が独立行政法人日本学生支援機構による奨学金ではじまっている。
 この支援により経済的に助かる家庭は多いだろう。その一方で、この政策は本当に少子化対策につながるのだろうか。また、子育て世代に重点を置いた施策を進めることで、世代間格差をさらに拡大させることにはならないのだろうか。

子育て支援は少子化対策になるのか

 少子化対策のために打ち出すのは子育て支援というのが恒例になってきている日本だが、子育て支援をされて嬉しいのは既に子どものいる家庭である。「子どもを安心して育てられる!」という環境をいくら整備しても、そもそも結婚していない人(特に結婚することを希望しているが現在その予定がない人)にとっては、それ以前の話である。
 子どもが既に1人以上いる家庭でも、子育て支援があるから、もっと子どもを産もう、育てようと思う人もいるかもしれないが、1人の人間が生涯に産む子どもの人数には限度がある。
 本気で少子化対策に取り組もうという気があるのなら、まだ結婚していない人、子どものいない人への支援をするのが先であろう。昨年東京都が開始した「TOKYO縁結び」のほうが、まだ根本的な少子化対策につながっていると感じる。

 なぜ、子どもが少なくなってきたのか。その理由として晩婚化、高学歴化、価値観の多様化などが常々言われる。仮にそうだとしても、子育て世代への支援が少子化対策につながるというストーリーは何かがずれている気がする。
 確かに上記の理由は少なからずあるのだろう。しかし、経済的な問題もあるのではないだろうか。この問題を解決するためには、今子どものいる家庭に対する支援だけでは足りない。これから結婚し、子どもを持つであろう世代に対しても経済的支援をし、結婚し子どもを育てられる環境を整える必要なのではないだろうか。

支援がなかった世代はどうなるのか

 子育て支援が充実する一方で、支援がなかった世代はどうなるのか。今後あらゆる教育費の無償化が進み、奨学金返済免除制度も充実したとして、生まれた年が少し早かったことで恩恵を受けられなかった世代はどうなるのだろう。そういう家庭、世代の人間は、どうにか子ども時代をやり過ごすことができたということで、後から追って支援はないのだろうか(奨学金などはむしろ就職後に重くのしかかってくると言うのに)。
 もちろん近頃は物価高で、数年前、十数年前と比べれば物の値段が高くなっている。生まれた年が違うということは、経済環境ももちろん違うのだから、一律に同じ支援が必要であったとは思わない。ただ、問題が起きてきたから、後追いで対処するというのが、よくある現在の日本の姿である。少なくとも制度開始の数年前から、経済的に苦しんでいた家庭が多いのではないだろうか。だとすれば制度空白の世代も恩恵が受けられる政策を考えなければならない。
 必要なのは、後追いの教育費支援だけではない。今の日本には、就職氷河期世代、リーマンショック世代を主とする就職難に直面し苦しんだ世代がある。正規雇用を希望しながら非正規雇用のままとなっている人々がいる。非正規雇用是正のための法律も作られたが、雇用主は抜け道を使い、彼らの社会的待遇は一向に変わらない。彼らへの支援は適切だったのだろうか。彼らに対するまともな支援があれば、結婚し子どもを育てるという選択をした人がもっと多かったのではないだろうか。
 問題が起きた後から制度を作り、制度空白に対する補填をしなかった責任、社会問題の背景を誠実に分析することなく、国家が理想とする家庭や人生を体現している人々への支援に偏った結果が、今もなお少子化問題に悩み、その解決への見通しが立たない社会を作り出しているのではないだろうか。

まとめ

 今回は、昨今の子育て支援と少子化問題、世代間格差について考えてみた。毎年のように出生率が下がっていると報道があるが、筆者からしてみれば、少子化が言われてかなりの年月が経つのであるから、そもそも親となる世代が少ないのにいきなり子どもがドカンと増えるわけがないだろうと言うところである。要は、極度の少子化に向かい、負のスパイラルに陥っているのである。
 子どもが3人以上いたら・・・という、子どもの人数に応じた施策も検討されている。一方で、子どもの人数で支援金額が決まることについての批判もある。
 今の日本は多様化(結婚するしない、子どもを持つ持たないの自由など)を謳いながら、暗に子どもを増やせというメッセージを出す社会になっている。相も変わらず子どもがいるかどうかで女性の社会的地位が変わるかのようなメッセージである。この社会的空気にどれほどの女性が苦しめられていることだろうか。
 おそらく今のままであれば、今後爆発的に子どもが増えることはない。それなのに子育て支援ばかりに税金を費やすようでは、ますますその恩恵を受けない層の不満は溜まっていくだろう。
 では、どうすれば良いか。まずは、このまま何の対策もとらなければ、少子化はどこまで進み、日本の人口はどうなるのか、それを確認するところからではないだろうか。人口が減っていくのは確かだろうが、国内で1年間に1人も子どもが生まれないということもまた考えにくい。どこかでほぼ下げ止まりとなる地点があるはずだ。その地点での人口ピラミッドが少子化が進んだ際の最悪のケースである。その状態の日本でどのような問題が起こると想定され、何をしなければならないかを先手を打って考えていく必要がある。そして取るべき対策の筆頭として上がるのはおそらく子育て支援ではない。年金制度の見直しや少数の働き手で効率よく社会を回すための仕組み作りである。

(執筆:うたたん総研 研究員A)


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