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【医師暴露】背骨・骨盤の歪み矯正の医学的根拠不足を徹底解説

「身体の歪(ゆが)み」って本当に身体に悪いの?
「じゃあ、どうしたらいいんだよ」っていうことを‥‥

今回の内容は「身体の歪み」がテーマです。
「体の歪み矯正の真実とウソ」をお届けします。

※このnoteでは、整形外科医:歌島大輔が医学的根拠をもとに、わかりやく、かつ実践的な医療健康情報をお届けします。
ときどき出てくる「ふんぞり男」とは、その名の通り、ふんぞり返って態度がデカい患者さんです。


身体の歪みについて危機感を煽る話であふれている!?

ふんぞり男「お前、また、治療家さんに嫌われようとしてるだろ!」

いやいや、逆ですって。
真摯に医学を学んで一生懸命治療しようとしている治療家さんを多く知っています。
そういう方々のためにも医学的根拠を追求するお手伝いをしたいと思っているんですね。

こういう活動をしていると、今の治療家さんの業界の情報がどんどん入ってきます。
もう、医学的根拠がない話で溢れちゃっていますよね。

だから、マジメに一生懸命やっている治療家さんも自覚せずに、患者さんをだましていると思われてもおかしくない治療や情報発信をしてしまっているのが現状です。

今回の話は、結論から言うと

「歪み矯正が全部ウソだから、信じるな」

という単純な話じゃないんですよ。

ふんぞり男2「ほぉ、じゃあ、歪みって何なんだよ」

身体の歪みというのは、実は医学用語としての定義がありません。
つまり、医学用語ではないのです。

医学用語ではないということは
「エビデンスが蓄積できていない」ことに繋がります。

「身体の歪み」を主な治療対象にされている施設においては、医学的な根拠のある説明をしていないところがほとんどです。

それにも関わらず、
「身体の歪みは、全身の骨格に悪影響があり、
・腰や膝の痛み
・肩こり
・首の痛み
・頭痛
・冷え性
・便秘
・生理痛
・生理不順
・胃腸障害
・高血圧
などの原因になります」
というような、過度に危機感を煽るような情報発信にあふれています。

その結果、患者さんは医学的根拠がないリスクに怯え、医学的根拠がない治療を受け、
・経済的
・時間的
・身体的
にも不要な負担をしいられています。

ふんぞり男「おいおいおい、いきなり前言撤回か。思いっきりウソだって言ってるようなもんじゃないか」

え?ウソなんて一言も言ってないですよ。
医学的根拠がないって言っているだけです。

ただ「身体の歪み」に対して、整形外科医の多くはとても懐疑的な目を向けています。

否定するだけではいかないので、
「身体の歪みに相当する状態は、実は健康リスクが本当に高く、徒手療法やセルフエクササイズで改善しうる」
という可能性も視野に入れて、様々な医学研究・文献を調査いたしました。

ふんぞり男「まじで炎上しないように頼むぞ。俺、ガラスの心なんだからな」

ガラスの心で、その態度ってのも面白いですね。
でも、僕も炎上するのは嫌ですからね。

この取り組みが多くの人に理解していただけることを願って、解説していきます。

「身体の歪み」を暫定的に定義する

多くの治療家さんは「身体の歪み」という言葉を定義せずに使用しています。
ですが、多くの方が使用している文脈から、暫定的な定義づけが可能です。

おもに次の2つになります。

  1. 骨格の変形

  2. 不良姿勢

それぞれ簡単に説明していきますね。

1.骨格の変形

骨格の変形としてわかりやすいのは「側弯症」です。

積み木のように上下に真っ直ぐ並んでいる背骨の配列が左右に歪んでしまう状態ですね。
これはレントゲンで変形の角度を測定して診断できます。

「Cobb角」という角度が10°以上の場合に、側弯症という診断になります。
側弯症で特に多いのは「思春期側弯症」といい、10〜18歳で発症するものです。

東京都の検診結果を調査したこちらの研究(*1)では、Cobb角10°以上だったのは0.87%と1%もいないという珍しい病態です。

よく骨盤矯正ってコトバが出てきます。
骨盤が「骨格として変形」することは、骨折して手術が必要とか、そういう大ケガ以外では、一般的に考えにくい状況です。

骨盤は、それだけ安定した骨格なんですね。

ただし例外があり、妊娠・出産時だけは、安定した骨盤の靭帯が緩んで、骨盤が拡がる傾向にあります。

恥骨結合という骨盤の前の連結部分が3mmほど開くことは一般的な変化としてあります(*7)。

ですが、その後、数ヶ月で回復し、それがおしっこや肛門の働きと関連はしないと報告されています。

これらの骨格の変形ともう1つ、一般的に歪みと表現されるものには、
2つ目の不良姿勢があげられます。

2.不良姿勢

こちらはより日常的に多くの人に起こっています。
どんな人でも自然と立ったり座っているときに、左右まったく均整がとれた姿勢をとっているわけではありません。

内臓も右に肝臓があり、左に心臓があり、と左右対称ではないわけですから当然です。

しかし、それも度を超えて左右に偏った姿勢や猫背、巻き肩など、俗に言う不良姿勢というものは存在します。

ここからが大事なポイントで、
「身体の歪み」は本当に身体に悪いのか?を解説します。

「身体の歪み」って本当に身体に悪いの?

身体の歪みを、骨格の変形と不良姿勢の2つを定義することで、
おおむね「身体の歪み」を指す状態は網羅できていると思います。

では、この2つの視点から、本当に体の歪みは身体に悪いのか?ということを考えてみたいと思います。

まず、この2つの状態。
どちらが重症でしょうか?

骨格の変形ですよね。
そのため、まずは骨格の変形がどれだけ身体に悪いのか?ということを医学論文をもとに紐解いていきます。

はじめに「思春期側弯症」の患者さんの生命予後です。
いわゆる寿命ですね。

冒頭で一般的に言われている「身体の歪み」に健康リスクが本当にあるのなら、
歪みを改善しないかぎり、側弯症の患者さんは、四六時中、何十年もリスクに晒されていることになります。

そうなると、最終的には寿命に影響が出てもおかしくありません。
しかし、1992年の研究(*2)では、一般的な思春期側弯症の患者さんの寿命は、平均寿命と変わりがなかったと報告されています。

ただ、Cobb角が70度を超えるような重症の側弯症では、
心臓や肺も圧迫され、機能が落ちてきてしまい、死亡率の上昇にもつながっています。

この70度って、非常に稀な状態です。
先程も述べたとおり、思春期の児童ではCobb角10°ですら1%未満であったわけですから。

では、一般的な軽度から中等度の側弯症で明らかなリスクになるものはないのでしょうか?

僕が世界中の論文を調べた結果、唯一、明らかにリスクが高まるとされているのが「腰痛」です。

これは想像通りかもしれませんね。

2012年の研究(*3)では、側弯症がある人は腰が痛くなる可能性が42%高くなることが示されています。

しかし、それだけです。

腰痛だって、側弯症の患者さんがずっと耐え難い腰痛に悩まされるというわけではなく、腰痛の一つのリスク因子であるというだけなんですね。

側弯症のように骨格そのものが変形している状態に比べると、「不良姿勢」が身体に与える影響は、はるかに少ないと思います。

腰痛のリスクがあるというならまだしも、それ以外の症状や病気のリスクがあるというのは、あまりにも論理が飛躍しすぎていると言えますし、根拠が不十分です。

僕が冒頭で過剰な煽りじゃないかなとお伝えしたのは、このような背景があるからなんですね。

また、出産後の骨盤の歪みについても、恥骨結合が開くことは生理的な範囲です。
出産というストレスに対応する変化として起こった当然の変化であり、骨盤の痛みに繋がることはあるのですが、それも数ヶ月で回復することがわかっています。

ただ、1/300〜1/30000の確率で、恥骨結合が1cm以上開いてしまう病的な状態もあります。
その場合は整形外科などでの治療が推奨されています。

ということで、僕なりに一生懸命調べたところ、「体の歪み」の健康リスクは、

腰痛のリスク因子だけでした。
それも「側弯症の場合」という程度でしたね。

事実、それ以外のしっかりした研究データとして根拠を示している発信を、僕は拝見したことがないです。
あれば、ぜひ教えてくださいね。

それでも
「あなたはここが歪んでいるから、症状が出るんです」
と言い切られてしまうと、そうなんだろうなと思ってしまう気持ちもわかります。

そして
「だから、歪みを矯正していきましょう」
という治療の提案に乗っかる気持ちもわかります。

今回の内容をきっかけに、少しでも医学的根拠っていうことを気にしていただけると、本当にあなたの体にとって大事なのは何なのかに近づけるのではないかと思ってお話ししています。
また、治療家の方々も、ご自身のスキルを医学的根拠がある治療に役立てる方向性に進んでいただけたら嬉しいなって思っています。

ふんぞり男「待て待て、まとめに入っているみたいだが、違うだろ。腰痛のリスクになるんだったら、どうしたら改善できるかまで話せ!」

はい、もちろんです。
では次行きましょう!

身体の歪みを改善させるには?

身体の歪みの原因は、先ほど挙げた次の2つです。
・側弯症に代表される骨格の変形
・不良姿勢

この2つの原因を改善させるための大きな違いは、難易度にあります。
この難易度の違いから、骨格の変形のほうが重症だということに繋がっています。

極論ですが、骨格の変形はを治すには手術しかありません。
側弯症の手術というのは大手術で積み木のように連なっている背骨1つ1つに強靭なネジを入れていき、それぞれのネジを金属で連結していって、できる限り真っ直ぐに矯正していきます。

とても強い金属を使うことでやっと変形した配列をまっすぐに近づけることができるのです。

そのため、治療家さんが
「あなたの身体は歪んでいますので、この徒手治療を受けてください」と
徒手的にどんなスキルを使って治療したところで、
側弯症が治るかといえば、当然、難しいわけです。

ただ、そんな側弯症も、手術以外に行う大事な治療があります。
それは「変形が進まないようにする」ということです。

Cobb角で10°以上で側弯症だということを解説しましたが、徐々に進行してしまうことがあります。
一般的には、50°を超えてくると手術適応とされています。

そのため、進行しないようにするためのエビデンスのある治療があります。

それが装具療法です。
背骨をまっすぐに近づけるような特殊な矯正装具を使うことで、進行を防ぐ効果があることは研究(*4)で明らかになっています。

この研究が示してくれた非常に大事なポイントは、少なくとも1日16〜18時間は装具を装着する必要があるっていうことなんです。
もうほぼ1日中ですよね。

「変形を改善」することよりももっと手前にある
「変形の進行を防ぐ」ことでも、これだけのことが必要なのです。

変形の改善に対して、週に何回かの徒手治療でどうこうできるというのは、明らかにレベルの違う話ですよね。

これは出産後の骨盤が開く状態も同様で、重症の場合は手術になることもあります。
しかし、それは本当に稀なケースです。
骨折していない産後の骨盤手術を、僕は見たことがありません。

先ほどお伝えした通り、ほとんどは自然と回復します。
痛みがあれば鎮痛剤を使ったり、筋肉をリラックスさせるための様々な徒手療法をしたりします。

骨盤底筋と呼ばれる大事な骨盤周囲の筋肉を鍛えるセルフエクササイズなどを活用し、経過を見ることが多いわけです。

骨盤が開いてしまった状態に対する直接的な方法は先ほどの側弯症の装具のように骨盤ベルトというものがあります。

これら骨格の変形に対して、一気に改善の難易度が下がるのが不良姿勢です。
なぜかというと、多くの不良姿勢は、正しい姿勢を理解し意識を変えるだけで治ってしまうからです。

ふんぞり男「治ってしまうからです。じゃねぇんだよ。俺のふんぞり姿勢、全然治らないじゃねぇか」

いや、それはあなたが治そうとしてないだけですよね。

言うのは簡単ですよね。
「姿勢が悪いことはわかっているんだけどなぁ」という人も多いですよね。

姿勢については、無意識の習慣でもあるわけですから、すぐに無意識レベルで良い姿勢を維持できるわけではありません。

ですから、スポーツの練習と同じように反復練習で無意識に落とし込む必要があるわけです。

このように考えると、
治療家さんの「歪みを矯正しますよ」っていう徒手療法の必要性、重要性はそこまで高くないということがわかりますよね。

ふんぞり男「ほーら、結局、批判したじゃないか」

そうですね。
僕は医学的根拠がないことを断定的に話したり、危機感を煽ることは、患者さんのためとは思えないため、批判します。

ただ、治療家さんの存在意義が少ないという意味ではまったくないのです。
「矯正という名の徒手療法を受けないと治らない」というものではないっていうことが大事なポイントです。

それ以外にも、出産後の骨盤の痛みに対して、筋肉のリラクセーションを促したりするための様々な徒手療法と言いました。
そういう治療を受けたあとが気持ちよく、通いたくなる人は多くいらっしゃって、そのことは素晴らしいことだと思います。

ただし、少しでも医学的に関わるならば、患者さんへ医学的にアドバイスをされる治療家さんが増えると良いなと、個人的には思っています。

もちろん、医師以外が医療行為である診断をしてはいけません。
ですが、不良姿勢がどういうもので、正しい姿勢がどういうものかを指導する。
そして、その良い姿勢への意識付けの指導や、変化へのフィードバックなどを中心に治療を構成してくれるような治療家さんはとても頼りになりますね。

これはほんの一例ですが、
医学的根拠がなく、整形外科医として見ても、多分間違っているんだろうなっていうことを指摘したとします。

そうしたら、今まで徒手療法で治療してきた人はどうしたらいいんだっていう話にもなると思うんです。
だからこそ、こんな治療家さんがいたら最高だなっていうことも、僕なりに日頃より考えて発信しています。

本日の一言

「医学的根拠がない歪み矯正にはご注意ください」

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参考論文

(*1)Masaki Ueno et al.J Orthop Sci. 2011
A 5-year epidemiological study on the prevalence rate of idiopathic scoliosis in Tokyo: school screening of more than 250,000 children

(*2) K Pehrsson et al. Spine (Phila Pa 1976). 1992
Long-term follow-up of patients with untreated scoliosis. A study of mortality, causes of death, and symptoms

(*3)Clark EM, et al. Spine (Phila Pa 1976). 2016
The Impact of Small Spinal Curves in Adolescents Who Have Not Presented to Secondary Care: A Population-Based Cohort Study.

(*4) Stuart L Weinstein et al. N Engl J Med. 2013
Effects of bracing in adolescents with idiopathic scoliosis

(*5)Kota Watanabe et al. J Bone Joint Surg Am. 2017
Physical Activities and Lifestyle Factors Related to Adolescent Idiopathic Scoliosis

(*6)Steffens D et al. Arthritis Care Res. 2015
What triggers an episode of acute low back pain? A case-crossover study.

(*7)Postpartum Pubic Symphysis Diastasis
Seidman AJ, Siccardi MA.

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