【専門医解説】手指の変形と痛み「ヘバーデン結節が治りました!」と言うためのすべて
「そうなると治療法も全然違ってくるわけですから、要注意です。」
今回は「指の第一関節、第二関節の痛み」がテーマです。
ヘバーデン結節に関する完全版であり「ヘバーデン結節が治りました!」と言うためのすべてをお届けします。
※このnoteでは、整形外科医:歌島大輔が医学的根拠をもとに、わかりやく、かつ実践的な医療健康情報をお届けします。
ときどき出てくる「ふんぞり男」とは、その名の通り、ふんぞり返って態度がデカい患者さんです。
ふんぞり男「ヘバーデンって、この指の先端が太くなるヤツか?ウチの母ちゃんが昔なんか言ってたな」
そうでしたか、確かに女性に多いんですよね。
で、その後、どうなりました?
ふんぞり男「医者に年のせいって言われて怒ってたな」
ああ、それまた申し訳ない‥‥「あるある」ですね。
実際、コメントでも来てるんですよ。
そうなんですよね。
血液検査でリウマチが否定できたら、おしまいじゃないわけですよ。
リウマチが否定できたら、リウマチ特有の薬物療法などをしなくていいということになるだけで、mayuanaさんのような患者さんの痛みがなくなるわけではありません。
しかし、病名すら告げずに、使わないように生活しなさいで終わるのは残念です。
ヘバーデン結節の情報は多くの方に求められています。
それゆえ、ちょっと怪しい情報やあやしい健康器具みたいなのが出てきてるようなのですが、その悪い意味での原因が整形外科医にあるような気がしています。
僕も昔はその残念な先生と大差ない診察をしていたかもしれませんし、本当に情けないですね。
だからこそ、こうやって頑張って、良い情報をお届けしようと思っているとも言えますので、ぜひ、最後までご覧いただきたいです。
ヘバーデン結節とは?
ヘバーデン結節とは、手の変形性関節症と呼ばれるものの1つで、関節の軟骨がすり減った状態です。
関節や周辺の痛み・腫れ・こわばり・変形、そしてゆっくり進行する機能低下が起こってきます。
そして、一般に考えられているイメージとは少し違って、必ずしも高齢者の疾患ではなく、比較的早い時期に発症し、患者さんの労働能力を損なうことすらあります。
典型的には40代以降の女性によく起こります。
現在のところ、詳細な病因・原因は不明ですが、遺伝的な要因もあるだろうとされています。
治療は対症療法か手術に限られているというのが一般的な見方です。
それも、変形性関節症の研究活動は膝や股関節に集中しているため、手の変形性関節症に関する知識や研究結果は限られていて、なかなか進まないようです。
このような手の変形性関節症の中でヘバーデン結節というのは、指の第一関節、一番先端の関節の軟骨のすり減りになります。
手の変形性関節症の中で圧倒的に多いです。
ブシャール結節っていうのもあるの?
ちなみに、第一関節の変形性関節症がヘバーデン結節というのに対して、第二関節、先端から二つ目の関節の変形性関節症は、ブシャール結節という名前がついています。
ただし、圧倒的に多いのはヘバーデン結節です。
この手の変形性関節症は人差し指と中指に多くて、その他の部位だと親指の第一関節、次に他の関節の第二関節、つまりブシャール結節が多いとされています。
さらに、有名なのは母指のCM関節という部位の軟骨のすり減りですが、これはまた別の機会に取りあげたいと思います。
ヘバーデン結節の原因は?
先ほどお伝えした通り、ヘバーデン結節の原因はまだまだ不明ですが、遺伝的な要因もありそうだということと、さらに女性ホルモンのエストロゲンとの関連は常に注目されています。
実際、閉経後の女性によく起こることは事実ですから、注目されるのも当然です。
エストロゲンというのはホルモンですが、このホルモンが作用する細胞はたくさんあります。
そして、作用する細胞には必ず「レセプター」というホルモンを受け入れる部分が存在します。
このレセプターが関節の滑膜組織という部分に存在し、閉経とともにエストロゲンが減少すれば、関節が受け取るエストロゲン量が減るので、結果的に腱や関節に異常が出るという仮説が考えられています。
そこで、こちらの動画でもご紹介しましたが、エストロゲンに関連するサプリメントがあるんですね。
「エクオール」という物質で、エクエルなどの商品名で販売されています。
エクオールってエビデンスあるの?
このようなご質問をよくいただきますが、エビデンスということでいえばないです。
ただ、エクオールが効いたっていう人も一定数おられるんですね。
エビデンスがないっていうのは、この効いたっていう人が「たまたま」効いただけっていう可能性がまだまだあるってことなんです。
そういう意味では、エクオールというサプリメントも仮説と言えます。
そこで僕が次に重視するのはメカニズムです。
仮説の根拠と言ってもいいでしょう。
繰り返しになりますが、まず一般に知られているヘバーデン結節は40歳以降の女性に多いわけです。
そして、これまた一般に知られている女性の更年期というのが、45歳から55歳くらいとされています。
さらにその前後5年を足した40-60歳を「ゆらぎ期」として、女性特有のココロとカラダの変化を感じる時期とされています。
この女性特有の心身の変化の原因として、最重要視されているのが女性ホルモンであるエストロゲンの急激な低下ですね。
そして、まさにこの時期に重なって、ヘバーデン結節の患者さんが増えるわけです。
先程も言いましたが、このエストロゲンが働く時に必要なエストロゲンレセプター(receptor)、略して「ER」というホルモンの受け皿があります。
エストロゲンやそれに似た物質がERに結合することで、はじめてホルモンの機能が発揮されるんですね。
このERには2種類あって「ERα」というのが卵巣や子宮など生殖器にあり「ERβ」というのが全身、骨や関節の滑膜にあります。
そして「エストロゲンがERβの方に働くことで関節が若々しくいられる」と言われていて、そのエストロゲンが急激に減ってしまうからヘバーデン結節になってしまう。
そういうメカニズムが考えられています。
そして、エクオールはERαにはほとんど結合しないけれども、ERβには結合します。
まさにエストロゲンが減ってヘバーデン結節になっている人には期待大のサプリ・・・かもしれないということなんですね。
こういう仮説のもとエビデンスがあるとは言えませんが、手外科をご専門とする平瀬雄一先生が出された本に、先生がされた研究結果が公開されています。
その本は「私の手はなぜ痛いのか、しびれるのか、曲がっているのか」という本です。
これによると、指の関節の変形がないけど痛いという人たち46人にエクオールを飲んでもらったところ、27人は痛みが改善・11人は変わらない・8人は未回答という結果だったそうです。
半分以上が改善されていますね。
ただ、データの解説を読むと通常の手外科の治療はそのまま行ったとあるので、その治療が効いたのかもしれませんし、プラセボの可能性もまったく排除できていませんし、患者さんの数も少ないです。
そういう意味でエビデンスがあるとはとても言えませんが、こういう小さな研究からやっていかれること自体、素晴らしいなと思います。
エクオールサプリが効く人、効かない人
大豆が食事として摂取されると、大豆イソフラボンであるダイゼインが乳酸菌の仲間のエクオール産生菌の作用によってエクオールに変換します。
しかし、このエクオール産生菌が腸内に存在していても、エクオールを作れる人と作れない人がいます。
そして、日本人の女性の 2 人に 1 人はエクオールを産生できない体質だと考えられています。
つまり、エクオールが作れない体質の人はサプリメントとしてのエクオール補給が効くかもしれないと考えることができるわけですね。
そして、エクオールの一部は尿中に排せつされるので、尿中のエクオールを調べることで、自分がエクオールを作り出せる体質かどうかをチェックできます。
詳しくは「エクオール検査」などで検索して調べてみてください。
更年期障害全般に効果が期待されていますが、あくまでも期待されている、効く人もいるという程度で、質のエビンデスはありません。
ただ、僕のスタンスとしてはガッチガチのエビデンス原理主義者みたいな感じではないんですね。
そのため、ここまで解説した通り、質が高いエビデンスはなくとも「効果を期待する医学的根拠はかなりある」と考えてもいいと判断しています。
「エクオール検査」でエクオールを作れない体質と判明した、ゆらぎ期の女性は試してみてもいいかもしれません。
超大事!ヘバーデンやブシャールと見分けないといけない病気
ちょっと話は変わりますが、いつも僕が口を酸っぱくしてお伝えしているのが「診断が大事」ということでしたね。
ヘバーデンやブシャールも、そう見えて別の病期で指が腫れている・痛いってケースがあるんです。
そうなると治療法も全然違ってくるわけですから、要注意です。
ということで、特に治療法が変わる注意すべき病気を3つ、お伝えします。
1.膠原病(乾癬性関節炎、関節リウマチ)
まずはリウマチに代表される「膠原病」ですね。
膠原病は自己免疫疾患とも呼ばれる通り、自分の免疫力がなぜか自分を攻撃してしまい、関節や皮膚、その他臓器に炎症が起こってしまう病気です。
その一環で指の関節に炎症が起こり、腫れて痛いということが起こるんです。
そして、第一関節の炎症が起こりやすいのが「乾癬性関節炎」という膠原病です。
乾癬というのは皮膚の病気で、典型的な症状は皮膚から少し盛り上がった赤い発疹のうえに、白いフケのようなものがくっついて、剥がれ落ちます。
このような皮膚病変と一緒に第一関節が腫れていたら、それはヘバーデン結節ではなくて乾癬性関節炎かもしれませんし、厳密にはレントゲンの所見も少し違ってきます。
もし心配であれば「乾癬性関節炎の可能性はないですか?」と聞いてみてください。
レントゲン所見で説明してくれると思います。
また、第二関節の腫れの場合は乾癬性関節炎ではなく「関節リウマチ」の可能性が高くなってきます。
これもまたレントゲンがブシャール結節とは違いますし、膠原病というのは採血で異常が出ることが多いです。
一般的な炎症を示す「CRP」が高値だったり、リウマチだったら「抗CCP抗体」という抗体が陽性に出たりします。
そういう意味で、採血チェックをするケースも全然あります。
そして、乾癬性関節炎でも関節リウマチでも治療は、ヘバーデンとは全然違うんです。
免疫にアプローチしないといけないので、ステロイドを使ったり、免疫抑制剤や生物学的製剤というような特殊な治療薬が必要になるかもしれません。
2.偽痛風、痛風
面白いモノで「痛風」とニセの痛風と書く「偽痛風」っていうのがあるんですね。
でも、全然違うんです。
共通点は、関節の中に結晶が溜まることが原因だってことです。
そして、痛風は有名な「尿酸」が原因ですよね。
ですから、尿酸結晶が関節の中に溜まって炎症を起こします。
それに対して、偽痛風は「ピロリン酸カルシウム」という物質が溜まって炎症を起こします。
結晶はレントゲンに写ったりするので、関節の中に白い線などが見えたら疑います。
これらは急性炎症であることが多いので、あえて短期間、副作用リスクがあれどボルタレンなどの強い消炎鎮痛剤を使うこともあります。
3.化膿(細菌感染)
そして、最後が一番怖い「化膿(細菌感染)」になります。
コレは本当に怖いです。
治療はもちろん「抗生剤」つまり抗生物質を飲んだり、点滴したりということになるんですが、それでは太刀打ちできなくて、膿を外に出すために手術をしないといけないことすらあります。
化膿は軟骨のすり減りに比べて炎症が比べものにならない強さなので、腫れの大きさや赤み具合が違うというのがポイントで、さらに採血検査で白血球やCRPというデータが上がることでも判別します。
ヘバーデン結節が悪くなる要因は?
さて、ここまでヘバーデン結節やその周辺の病気について、特にその原因や診断を解説してきましたが、いよいよ「治りました!」って言える状態を目指したいですよね。
そのためにまず、逆の話です。
つまり、ヘバーデン結節が悪化してしまう要因について理解しましょうということですね。
まずこちらの2021年の論文(*1)では、ヘバーデン結節が悪くなる要因として、以下の要因が挙げられています。
また、こちらの2020年の論文(*2)では、エビデンスのあるリスク因子として「糖尿病」をあげています。
これらの悪化要因を知った上で対策としてできるのは、理想体重を上回っている人は減らすってことになっちゃいますよね。
それ以外にも、糖尿病予防ということで食事や運動習慣を見直すということも入るでしょう。
ということで、いよいよ「ヘバーデン結節が治った!」と言えるようになるための治し方、治療法について解説していきましょう。
ヘバーデン結節の治療アイテムって意味あるの?
通販サイトなどで「ヘバーデン結節」で調べるといろいろと商品が出てくるんですが「果たして効果があるのか?」って疑問に思えますよね。
手軽に買えるし、効果があるなら試してみようかなって思われるかもしれません。
結論としては「条件付きで試してみても良いかもしれません・・」
という感じなんですが、その次に、しっかりとエビデンスについても医学論文をもとに解説しますので、ぜひ最後までお付き合いください。
ゆびコロ指圧ローラー?
こちらはペインクリニックを開業されている医師の富永先生が開発された神経マッサージというものを行うための器具のようですね。
最近書店にも売っていたので、勉強のために購入しました。
そうしたら、簡単な説明書しかついてなかったので、ちゃんとその理論背景を理解しようと本をamazonで購入したつもりが、まさかの・・またローラーを買ってしまいました。
そして、さらにkindleで富永先生の神経マッサージの本も買って、どれだけ貢献するんだってかんじですね。
さて、実際に書籍も拝見しましたが、神経マッサージは富永先生独自の方法のようで、ローラーを使わなくても「親指の爪を立てて神経が走っている部位を10秒押す」という方法みたいです。
この手法の信憑性としては、富永先生が実際の治療において多くのへバーデンで悩む患者さんを救ってこられたというご経験と、書籍の中では1つ学会発表されたデータを示されていました。
この「神経マッサージとゆびコロ指圧ローラーは信憑性ある治療法なのか?」っていうことについて僕の意見をお伝えします。
この神経マッサージについて、ここからは僕の個人的な意見ですが、もし今後僕がヘバーデンやブシャールになってしまったら、この2つも買ってしまったゆびコロ指圧ローラーを使うか?というと使わないです。
なぜか。
それは、この本を読んだ感想として僕がいつも言っている医学的根拠があるあたらしい治療方法とは思えなかったからです。
ふんぞり男「は?学会でも発表してるんだぞ。」
はい、素晴らしいですよね。
僕なんか、最後に学会発表したの何年前か・・・お恥ずかしい。
ですが、学会発表しただけではなんのエビデンスにもなりません。
学会発表って抄録という発表する内容の概要を提出するだけでいいので、そのデータが正しいとかどれだけ価値があるとか、そういうことはあまり関係なく発表できちゃうんですね。
ですから、そのデータや研究結果が意味をなすのは論文になってからなんです。
ただ、そんな一般の人からすれば「マジメか!?」って言われてしまうことを置いておいても、いや置いておいちゃダメなんですけどね。
人の身体ですからマジメで何が悪いってことですが、置いておいたとしてもその発表されたデータを見ると、この神経マッサージが効果的と言うのはまだまだ不十分すぎるなという印象でした。
そのデータというのが、
「53名のヘバーデン結節の痛みに悩まされている患者さんを対象に、薬の内服と神経ブロック注射、それに加えて1日2回の神経マッサージを行ってもらった結果、4週間で痛みが半減した」ということなんです。
この話を聞いてどう思います?
「それ、薬が効いたんじゃないの?」
「神経ブロックが効いたんじゃないの?」って思いません?
ですから、最低でも薬と神経ブロックだけの患者さんと、それに加えて神経マッサージをした患者さんを比べるべきですし、それでもプラセボを考慮に入れられてないので、まだまだ不十分です。
と、だいぶ不十分なデータなのかな?と本に掲載されている説明では思いました。
いや、繰り返しますが、学会発表されるだけでも素晴らしいんですよ。
ですから、僕ごときが「何評論家ぶってんだ」というご批判は甘んじて受け入れますし、僕もどんどんそういう活動ができるようになっていきたいと思っています。
ただ、一般の方は学会発表されたデータっていうだけで信憑性が高いと思い込んでしまう可能性が高いですし、昔の医師になる前とか研修医くらいの僕なら多分思い込んでいたでしょう。
ですから、僕ごときですが解説する意義もあるかなと思っております。
さらに次の次くらいで話しますが、米国のガイドラインでは様々な研究を総合的に考えて、マッサージや徒手療法は推奨されないグループに入っています。
ただ、だから「あたらしい治療なんだろうが」ということでもあると思うので、今後しっかりとした研究論文などが上がってきて、勉強させていただくことを楽しみに待ちたいです。
現時点、僕が収集した情報ではオススメはしません。
ヘバーデン用テーピング?
通販サイトなどで「ヘバーデン結節」で調べると、テーピングやサポーターが出てきます。これらってどうなんだろう?って思いますよね。
これ、後に述べる医学論文では特に何も言われてないというか、テーピング自体エビデンスがはっきりしないんですね。
しかし、手の外科を専門にする医師の経験談などを聞くと「テーピングはバカにできないんだよ」とおっしゃるんですね。
それもかなり簡単な方法です。
用意するのは「粘着力が強くないテープ」です。
少し幅広めのものがあればいいですね。
皮膚に優しいタイプの25mm幅くらいを使ったりしますが、これを第一関節を含めてやや根本よりに巻きます。
キツすぎたら血流が悪くなるんですが、緩すぎても効果が少ないので、わずか圧迫するくらいを目安に巻きます。
この意味、効果ですが、まずは第一関節がシンプルに動かしにくくなりますよね。
これ自体が安静になって、炎症を抑える効果を期待します。
さらに、炎症を起こしている場所には血管が増えていることがわかっていますので、テープを巻いて軽く圧迫することで、その血管に流れる血液を少しだけ抑えてあげることができます。
その結果、痛み物質が届きにくくなって痛みが減るというメカニズムが考えられています。
ただ、これはキツすぎれば、うっ血して逆効果ですから、軽ーく圧迫ということですね。
少なくとも指先がしびれてくるような強さは強すぎです。
これを日中作業するときの安静目的に使うこともオススメですし、寝るときだけ使うことも選択肢です。
日中のテーピングは、手を洗うときも作業するときも邪魔ですからね。
ただ、テーピングがキツすぎたときに、朝起きたら指がすごくしびれていたなんてことになりかねないので、巻く強さが自分の中で安定して自信が出た段階で夜間のテーピングをすることを推奨しています。
そして、テーピングの大事な点は「皮膚との相性」です。
かぶれてしまうような場合は、テープそのものが合ってない可能性が高いので、剥がしたときに皮膚が赤くなってないかもチェックしてみていただければと思います。
この皮膚との相性や使い勝手を考えたときに、ヘバーデン用として売られているテーピングが良いと感じたら試してみてもいいと思いますが、基本的なメカニズムは今お伝えした通りなので、一般的な医療用テープでも良いのかなと思っています。
でも、しつこいようですが、そもそもエビデンスはないようです。
ふんぞり男「エビデンス、エビデンスうるせぇな。じゃあ、エビデンスがある治療はなんなんだよ」
はい、では次に、
エビデンスがある治療は?
こちらの2020年の論文(*3)ですが、こちらはヘバーデンやブシャールなどの手の変形性関節症などについて、ガイドラインとしてまとめてくれています。
そこでは治療として、
「強く推奨されるモノ」
「条件付きで推奨されるモノ」
「推奨されないモノ」
という感じのランク分けがされていますので、それぞれについて解説していきますね。
強く推奨されるもの
まず医学研究において、質が高い研究によって効果が検証されているものとして、強く推奨されているのが2種類です。
それが「消炎鎮痛剤(NSAIDs)の飲み薬」と「運動」です。
まず消炎鎮痛剤ですね。
これは俗に言う「整形外科医は痛み止めしか出さない」と揶揄されてしまう、その痛み止めのことだったりします。
しかし、この後出てくるほとんど全ての治療法より、ガイドライン上は推奨されているという事実はお伝えしておきたいです。
ガイドライン上っていうのはどういう意味かって言うと、僕なんかより遥かに経験も知識も素晴らしい世界的な整形外科医が、山ほどある論文を評価した上で推奨度を決めているってことです。
ただ、エビデンスは現時点で積み上げられた研究から成り立っていて、研究はまだまだ不足していますから、今後この推奨度は変わりうると思って良いです。
ふんぞり男「おい、どっちなんだよ。信じて良いのか?」
いや、信じるとか信じないじゃないんですよ。
その考え方はちょっと変えたいですね。
信じるってことは、裏切られるかもしれない状況を作ることになるんです。
でも、最初から信じる信じないじゃなくて、もっと冷静に今はどの治療を採用するか?くらいの感じで治療法を選択することをオススメします。
そもそもどんな治療も100%はなく「確率が高いモノを選んで、ダメなら修正していく」の繰り返しです。
そう考えたときに何を信じるとか、そういうことじゃなくて、現状積み上がっている知見をしっかりと知った上で取捨選択していくこと、その選択の精度を高めることに尽きるわけですね。
消炎鎮痛剤っていうのは、この場合は「非ステロイド系消炎鎮痛剤」のことを言っていて、商品名ではロキソニンやセレコックスなどが多いですね。
ふんぞり男「そういうのって、一時しのぎの痛み止めだろ?」
確かにそういう理由で嫌がる人は多いですよね。
そこで考え方を整理したいのですが、まずヘバーデンもブシャールも変形性関節症です。
軟骨のすり減りですね。
これは現代医療で根本的に治すことは難しいという事実があります。
そこにチャレンジしているのが再生医療であり、また予防や進行を防げるかもしれないということでエクオールがあるわけです。
でも、いずれもエビデンスはなく、治療の現実的なターゲットは今の痛みとそれに伴う、生活や仕事などの制限です。
そして、ヘバーデン結節やブシャール結節の痛みは軟骨がすり減っているんだから一生痛いのかと言うと、そういうわけではありません。
軟骨がすり減っているから痛いというよりは、それに伴う炎症が痛みの原因なので「炎症が治まってしまえば、軟骨がすり減っているけど痛くない」という状態になるわけです。
そこを狙うとすれば、その選択肢として推奨度が高いのは消炎鎮痛剤ということなわけですね。
消炎鎮痛剤、痛み止めについてはこちらの動画もチェックしておいてくださいね。
そして、もう1つ「運動」ですね。
特に推奨されるのは膝・股関節で、下半身の軟骨のすり減りは体重減少が大事なので、運動効果も出やすいと思われます。
また、下半身の筋力も大事ですからね。
でも、へバーデンが悪化しやすい人としてBMIもリスクになっていたので、体重を減らす必要がありそうな人はより積極的な運動が推奨されますし、そうでなくても運動っていうのは全身に作用します。
ウォーキングだって例えば、この「ウォーキング習慣が身体に起こす12の変化」で解説した通り、多くの健康効果があるわけです。
そういう意味では仮説レベルですが、ここまで述べてきたホルモンに関係する話だったり、もしくは血管に関係するメカニズムで運動が効果的なのかもしれません。
さらに指の運動ということで言えば、指の体操やセルフエクササイズがあります。
2002年のこちら研究(*4)では、ヘバーデン結節などの手指の変形性関節症において、生活指導とセルフエクササイズを3ヶ月間行った結果、握力が25%向上し、痛みは65%の人が改善したとされています。
今回はそのセルフエクササイズのうち、基本となるエクササイズをご紹介します。
シンプルに「指曲げエクササイズ」と呼んでいますが、手や指にとって握る・つまむって動作が大事ですよね。
でも、握る動きはグーだけじゃないんです。
指には3つ関節があるわけで、それぞれ曲げ伸ばしの組み合わせがあるんです。
3つの関節を全部曲げると握るってことになるわけですが、もう2つの運動のバリエーションを足してエクササイズしたいです。
1つは何かを引っかけるような動き。
先端の2つの関節だけ曲げて、根本の関節は伸ばす動きです。
次がその逆。
先端2つの関節は伸ばして、根本の関節だけ曲げる。
この3種類の指曲げを1日10回、痛みを感じない範囲で大きく動かすことをやってください。
その他にも、エクササイズをこちらの動画で解説しておりますので、ぜひご覧ください。
条件付きで推奨されるもの
次に、強くは推奨されませんが、条件付きで推奨されるモノを紹介していきます。
リストアップしますね。
結構多いんですよ。
1つ1つ解説を加えますね。
まず消炎鎮痛剤の外用ですが、先ほど出てきた消炎鎮痛剤は「内服」です。
内服の方が、身体により効率的に取り込まれるので効果は大きくなりやすいです。
外用って言うのは、貼り薬・湿布、もしくは塗り薬です。
これらは皮膚から吸収されるので、そこまで大量には取り込まれません。
また、手の指に湿布を貼っていたら、手を洗えなかったり、作業の邪魔になる可能性があるので、条件付きになったようです。
一方で飲み薬は全身を回りますが、一般的な外用剤は貼った場所、塗った場所にほとんどとどまります。
ということは全身に及ぼす副作用は少ないわけです。
次に「デュロキセチン」これは商品名ではサインバルタという薬が有名ですが、もともとはうつ病の薬です。
うつ病ってことは脳神経に作用するわけですが、痛みだって脳神経で感じるものですから、メカニズム的には関連は全然あるわけです。
しかし、その説明が不足してしまうと、患者さんに「精神病の薬を出された!」と勘違いをさせてしまうことになりますので、しっかりとした説明が必要です。
じゃあ、脳神経にどのように作用して痛みに効くのか?というと「下行性疼痛抑制系という神経経路を強化する」というメカニズムが考えられています。
下行性疼痛抑制系というのは、めちゃくちゃ難しい言葉のようですが、分解するとそうでもありません。
下行性っていうのは「脳が上、痛みがある部位が下として、上から下に神経信号を下行させて、痛みを抑制する・弱める経路」のことです。
慢性的に痛みがある人はこの下行性疼痛抑制系が弱まっていて、必要以上に痛みを感じていることが分かっています。
それをよく「痛みを覚えてしまう」などと表現されることがあるわけですね。
このようなメカニズムで痛み止めとして作用するので、変形性関節症による痛みに対してもデュロキセチンは保険適用となっています。
次に「アセトアミノフェン」
これはお馴染みの痛み止めです。
非ステロイド系消炎鎮痛剤よりも、副作用が少なめで使いやすい痛み止めですね。
その分、痛み止めとしての効果は小さいので条件付きでの推奨になっています。
そして、ステロイド注射。
ここまでいろいろと薬が出てきましたが、炎症を抑える効果が最も強いのが「ステロイド」です。
その分、副作用もたくさんあるので、安易に使う薬ではありません。
ただ、強い痛みで他の選択肢が厳しいときには選択肢に入り、強い鎮痛効果を発揮してくれる可能性があります。
次に「温熱療法」です。
これは、つまり温めるってことです。
意外と言っては失礼ですが、効果ありとする研究もあるんですね。
ただ、温め方もいろいろあってエビデンスを評価するのが難しいことと、その効果の持続時間が短いので条件付き推奨になったようです。
次に「鍼治療」ですね。
これは「どのくらい効果があるのか」という効果の大きさについてはまだまだ議論されているようですが、一方で有害性のリスクが小さいため、条件付き推奨とされています。
そして「装具」
いろいろな装具がありますが、基本的には保温と圧迫による効果が期待されています。
そういう意味では、テーピングも同じような効果が期待できるかもしれないので、さきほどエビデンスはないと言いましたが、まったくないとも言い切れないかもしれませんね。
そして、最後「ビタミンD」
ビタミンDは面白い栄養素でエビデンスレベルは低いとはいえ、いろいろな健康効果が期待されています。
骨粗鬆症の治療薬としてはお馴染みですね。
ビタミンDを補給するためには日光を浴びることが重要です。
夏場は10分くらいでも十分にビタミンDを作ってくれるんですが、冬になると数時間必要で、現実的ではありません。
そういう意味では、冬場は特にビタミンDを多く含む食品として、青魚やキノコを積極的に摂取したいですね。
ザーッと解説してきましたが、今一度、条件付きで推奨されているものリストを表示しておきますね。
ふんぞり男「待て待て、条件付き推奨の条件付きってそもそもなんだ?」
確かにわかりにくいですよね。
シンプルに「弱い推奨」と表現されることもあります。
推奨の強さは総合的に判断されて、エビデンスの高さだけじゃなくて、期待される効果の大きさやリスクの大きさなど、複数の要因があります。
推奨されていないもの
推奨されていないモノは、別に禁止されているモノではないですし、効く人もいるかもしれません。
しかし、一般的にはエビデンスも低いし効果も低い、もしくはリスクが高いというようなリストになります。
マッサージも含まれるのは興味深いですよね。
先ほどの「ゆびコロ指圧ローラーの神経マッサージ」も、大枠ではここに含まれますから。
これらについては1つ1つは解説しません。
現時点で推奨されてないんだなというご理解だけで良いかと思います。
ということで、いや〜長かったですね。
僕も話し続けてつかれましたが、聞いていただいたあなたも疲れたかもしれません。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます!
最後のまとめスライドとして、米国ガイドラインの推奨度リスクをお示しします。
そして、このリストをご覧いただくと、やはり運動習慣の構築や指のセルフエクササイズ習慣を痛みがでない範囲で無理なく継続しつつ、痛みが強ければ薬に頼るのも選択肢ということが言えるのではないかなと思います。
本日の一言
ヘバーデン結節、少なくとも1つの魔法の治療はないですが、いろいろと組み合わせて、あなたなりの対策を試行錯誤してみてください
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参考論文
(*1) Karishma Shah et al. Rheumatology (Oxford). 2021 Prognostic factors for finger interphalangeal joint osteoarthritis: a systematic review
(*2)Karishma S et al. Rheumatol Int. 2020 Risk factors for the progression of finger interphalangeal joint osteoarthritis: a systematic review
(*3)Sharon L Kolasinski, et al. Arthritis Care Res (Hoboken). 2020 2019 American College of Rheumatology/Arthritis Foundation Guideline for the Management of Osteoarthritis of the Hand, Hip, and Knee
(*4)Tanja Alexandra Stamm et al. Arthritis Rheum. 2002 Joint protection and home hand exercises improve hand function in patients with hand osteoarthritis: a randomized controlled trial