腱板断裂の治療【手術 VS リハビリ】
小中規模の回旋腱板断裂に対する最適な治療法については、依然として議論の余地があります。腱修復術と理学療法の短期的な結果は比較的同等であると報告されていますが、理学療法の長期的な有効性については不明な点が残っています。この研究の目的は、5年および10年のフォローアップ結果に続き、腱修復術と理学療法の15年間にわたる治療結果を比較し、長期的な視点からの治療選択に関するさらなる洞察を得ることです。特に、腱修復術が長期にわたって効果が持続する一方で、未修復の断裂が悪化することが予測され、その結果として両治療法間の差がさらに大きくなると仮定されました。
この研究は、ノルウェーのMartina Hansen’s病院で行われた単一施設、ランダム化比較試験です。対象は、腱板断裂が3cm以内の103名の患者で、腱修復術または理学療法(後者には必要に応じて二次手術のオプションが含まれる)に無作為に割り当てられました。肩の機能は、6ヶ月、1年、2年、5年、10年、そして15年のフォローアップ時に評価されました。
患者の選定基準:
対象は、肩に痛みを感じている患者で、MRIおよび超音波により腱板断裂が確認された者。
腱板断裂のサイズは3cm以内。
最小限の筋萎縮(Thomazeauステージ2以下)。
除外基準には、以前に肩の手術を受けたことがある者や全身性疾患のある者などが含まれました。
介入:
腱修復術群:ミニオープンまたはオープン手術が実施され、術後は5〜6週間の固定を行った後、段階的に運動療法を開始。
理学療法群:理学療法は、週2回の40分間のセッションを12週間続け、その後は頻度を減らしながら治療を継続しました。治療が不十分な場合は、二次手術がオプションとして提供されました。
結果
Constant Score:肩機能を評価するスコア。腱修復術群の平均スコアは79.9ポイント、理学療法群は68.5ポイントで、両者の差は11.8ポイント(95%信頼区間[CI]:5.1-18.5、p=0.001)であり、腱修復術が優れていることが示されました。5年と10年のフォローアップでも、この差は年々大きくなり、15年時点で有意差が確認されました。
ASESスコア(American Shoulder and Elbow Surgeons):肩と肘の機能を評価するスコア。腱修復術群では92.0ポイント、理学療法群は78.7ポイントで、その差は13.9ポイント(95% CI: 6.9-20.9、p<0.001)でした。
痛みのVASスコア(Visual Analog Scale):10cmスケールでの痛み評価。腱修復術群の痛みスコアは0.6 cm、理学療法群では2.4 cmであり、差は1.8 cm(95% CI: 1.1-2.6、p<0.001)でした。
痛みのない外転角度:腱修復術群は168.1度、理学療法群は152.4度で、その差は16.2度(95% CI: 0.6-31.8、p=0.04)でした。
痛みのない屈曲角度:腱修復術群では176.4度、理学療法群は153.8度で、その差は22.4度(95% CI: 9.0-35.9、p=0.001)でした。
肩の力:腱修復術群は10.2kg、理学療法群は8.4kgで、差は1.8kg(95% CI: 0.0-3.6kg、p=0.05)でした。
断裂サイズの変化:
理学療法群で断裂が修復されなかった患者では、断裂の大きさが前後方向で平均16.2mmから31.6mmに増加し(p<0.001)、横方向でも16.0mmから26.9mmに増加しました(p<0.001)。これに伴い、理学療法群のConstantスコアは2年後の78.8ポイントから15年後には63.7ポイントに低下しました。
患者満足度:
腱修復術群の患者満足度(VASスコア)は9.2ポイント、理学療法群は7.9ポイントで、その差は1.3ポイント(p=0.02)でした。
歌島の感想
今まで「教科書的には」腱板断裂は保存加療が大原則。手術を最初に提案するなんてもってのほか、という主張も聞かれました。もちろん、常に患者さんごとにケースバイケースで、治療法を提案すべきですが、あまりに「保存療法がまず第一選択」という主張が強すぎると感じていました。
だって、腱板断裂、特に完全断裂は自然修復はしない、もちろん、リハビリをしても修復するわけではなく、むしろ断裂サイズは拡大するわけです。そうなれば、治療成績も今回のデータのように差が出てくるのは当然だと思っていましたが、意外とその手のデータが少なかったので、僕の臨床経験との齟齬を感じてはいました。
そういう意味でも今回の研究は僕にとっては、当然の結果でもあり、でも、ちゃんとまとめておくべきことでもあるなと思って、まとめさせていただきました。お読みいただきありがとうございます。
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