バレンタインを口実に⁉
「もうすぐバレンタインかぁ 高級チョコがええなぁ」
見ていたテレビでバレンタインの特集をやっていた。ここぞとばかりにナオさんに言ってみた。ナオさんとは、1つ年上の妻のことである。
私は、チョコレートが大好きである。ブラック、ミルク、ホワイトチョコなど、すべてを受け入れている。
特に昔から流行に左右されない商品、カプリコ(江崎グリコ)、チョコべビー(明治)、たけのこ里(明治)、チロル(チロルチョコ)、セコイヤ(フルタ製菓)、などは脳内フォルダーにすでに保存済。
しかし、暴飲暴食がゆるされた若いころと違い、近頃は胃もたれ警報が発令されることもしばしば。欲望のおもむくままに導かれてはいけない。
チョコレートは糖質・脂質が多く含まれ、高カロリーな食品である。野菜と違い、取ればいいというものではない。健康面でも食べすぎには気をつけなければ。
そこで、巷で流行っている健康チョコやダイエットチョコなど、体に良いとされたものを今は食べている。
あるものは脳の活性化、またあるものは血流改善、そしてリラックス効果などが期待されている。
それでもあいかわらず量や頻度、種類などにはまったく無関心。
健康食品というネームバリューに笠を着せ、罪悪感をアメリカンコーヒーにお湯を足すがごとく薄めている。
そんな大のチョコレート好きの私が、バレンタインを口実に高級チョコをナオさんに要望したのが冒頭のことである。
ナオさんは私の願いを聞き、早速パソコンでカチャカチャとネット検索し始めた。
しばらくして「口コミの評価がよくて、おいしそうなチョコ買ったで」と一連の作業を滞りなく、手慣れた操作であっという間に完了させた。
そのチョコレートは、注文翌日の2月10日に送り届けられた。その夜、僕はナオさんから「はい、少し早いけどバレンタイン」っと無機質に渡された。
それでもうれしかった。自分でも顔がにやけているのがわかる。2月14日まで食べるのは待とうと思った。
でもナオさんの一言がそうさせてくれなかった。
「食べたーい」とナオさんがいうのでしぶしぶ箱明けた。葉っぱやハート、コインなどを型どった12個の個性的なチョコが入っている。
職人がおそらく一つ一つにテーマを持たせ、それに合う風味、色合い、形を考えたもの。
かつ、素材を生かすため手間暇をかけて作ったであろうそのチョコ。
二人は、そんな経緯や苦労を微塵も感じず、いつも食べている『たけのこの里』と同じようにパクパクと胃の中へ送り込んだ。
バレンタインの日を待たず、それはもう無かった。そしてナオさんは言った。
「最近、洗濯機が調子悪いねん。そろそろ替えどきかも。次の休みにヨドバシカメラへ行かへん?」
こちらからのお返しは、カチャカチャとはいかないようである。