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かたちをつくるとはどういうことなのか?

以前、道具的存在なソフトウェアのデザインをするにはどうしたら良いのだろう?と自分なりに考えたことについての記事を書きました。その中で、

「ユーザーが直接操作していると感じるのは、そのソフトウェア上に存在するユーザーの概念(オブジェクト)であり、それらを設計するには現在のソフトウェアの主要な表示形態となっているGUI、その基本的な設計手法であるOOUIによって実現できると考えています。」

と最終的に結論づけ、その記事を書き終えましたが、その後も日々の仕事の中で様々なクライアントと様々なプロジェクトを実施するにあたり、では我々デザイナーは一体どんなオブジェクトをどのようにかたちにするとよいのか、そんなことを考えるようになりました。


かたちをつくるということ

ここで言うかたちとは、いわゆる人間が五感を通して認識することができるものだと考えています。つまりソフトウェアのインタフェースであったり、法律などの仕組みであったり、建築物であったり、様々な表現として我々が認識できるものだとして考えていきます。

そんな「人間が認識できるようなかたち」をつくるにはどうすればいいのか、いくつかの引用を見ていきたいと思います。

クリストファー・アレグザンダーは「デザインの最終の目的は形である」と言っています。また、その形はコンテクストから要求条件を提示されるものであるとし、その要求に適合した結果として形が定まる、としています(※1)。

「我々は、二つの触れ得ぬものの間のある種の調和を探している。それは、まだ我々がデザインしていない形と、的確に表し得ないコンテクストの間の調和である。」

また、須永剛司さんはものごとのかたちを「全体」「自己参照」「かかわり合い」の3つの見え方から定義しており、その説明の中で以下のようなことを言っています(※2)。

「私たちは、見えている視野全体のなかから対象の形をピックアップしている。(中略)例えば、私が散歩しながら、街角の洒落たカフェのコーヒーカップに目がとまったとしよう。その時私には、そのカップでコーヒーを飲んでいる人も見える。また、他の客たちやボーイ、小さなテーブルと並んだ椅子、手書きのメニューや店の造作も見える。それら『全体』のなかで、そのコーヒーカップに目がとまったのである。かたちが見えるとはそういうことなのだ。」
「私たちがそこに見ているかたちは、実は対象だけでなく、対象と関わりあう私の可能的世界もそこに提案されたかたちであると考えることができる。」

上記の引用から、かたちにするということは単純に人間が五感を通して認識できる形式知とするだけでなく、自分や対象が存在している中の世界や環境から影響を受け、またその世界に存在する人間に対して可能性や意味を提示するものであると考えることができると思います。


デザイナーがデザインをするとき

それでは次に、前述したように、何かをかたちにする=デザインする際、我々は普段どのように実施しているのかを見ていきたいと思います。

須永剛司さんはヒューマン・コンピュータ・インタラクションと情報デザインの観点から、以下のように言っています(※3)。

「デザイナーはまず『人間の活動』を描き、次に第二の対象である『インタラクション』に着目する。その活動のなかで、人間がその道具(コンピュータ)をいかに利用し、どのように道具とインタラクトするのかを描くのだ。インタラクションが描かれると、第三の対象である『コンピュータ(ソフトウェア・アプリケーション)』の機能とインタフェースをかたちづくることがデザイナーの仕事になる。」

また、人間中心設計におけるプロセスを参考にすると(※4)、

人間中心設計プロセスの立案

1. 利用状況の把握と明示
2. 要求分析と仕様化
3. 設計解決案の作成
4. 要求に対する評価

4.を満たすことができれば、ユーザーの要求を満たす製品が実現できたとし、満たせていなければ必要な箇所に戻りこのプロセスを繰り返す

となっています。

これらをみていくと、我々がデザインする時にはいきなりかたちとなるものをつくり始めるのではなく、まず人間の活動自体やそれが行われている世界、文脈を明示的にし、それらをもとにかたちをつくっていくという活動をしていると認識することができます。また、これらの全体がかたちをつくるために必要な活動であると思いますが、今回特に「インタラクションが描かれると、第三の対象である『コンピュータ(ソフトウェア・アプリケーション)』の機能とインタフェースをかたちづくる」という点と、「『2. 要求分析と仕様化』→『3. 設計解決案の作成』の間(を繋ぐもの)」という点が、冒頭に記述した「では我々デザイナーは一体どんなオブジェクトをかたちにするとよいのか」という点につながっていると考えます。

つまり僕自身の業務(ソフトウェアデザイン)でいうと、リサーチや分析をした結果、どんなオブジェクトをもとにユーザーインタフェースをデザインするといいのか?という点です。


調査・分析とデザインの間のキャズム

そんなことをつらつらと考えている時に、調査・分析とデザインの間のキャズムという興味深い記事と出会いました(※5)。

「ユーザ調査によってユーザや利用状況に関する情報を得てそれを分析ことはそれなりに良い。そのための手法も色々と開発されているので、それを説明すれば良い。ただ、お恥ずかしい話だが、第6巻のデザインがどこから始まるか、第5巻のユーザ調査における分析結果をどのように利用してデザインがスタートするのかを明確にしていなかったのだ。
(中略)
問題になったのはやはりデザインとのつなぎの部分だった。仮にそこを第5巻で扱うとして、どのようなやり方をそこに含めたらいいのか、いや、そもそも適切な手法はあるのか、ということが問題になったのだ。」

これは2019年の記事ではあるものの、HCD-Netからの書籍出版において、同じように分析からデザインとしてかたちにする間(『2. 要求分析と仕様化』→『3. 設計解決案の作成』の間)のキャズムについて思考している最中であるということだったので、少し衝撃を受けました(と同時になんか少しテンション上がりました)。

この記事の中で黒須正明さんは調査・分析とデザインの間のキャズムに対応するには、アイディエーションや発想法が手掛かりになるかもしれないと言っています。話が逸れてしまいますが、僕自身の話を少ししますと、人間中心設計の体系的な知識よりも先に、以前から何度か記事としても書いているOOUI(オブジェクト思考ユーザーインタフェース)(※6)を学んでいたこともあり、人間中心設計について学び始めた時、「これは『2. 要求分析と仕様化』→『3. 設計解決案の作成』の間(を繋ぐもの)だ」と認識していました。そういう意味では前述したアイディエーションや発想法が調査・分析とデザインの間を繋ぐという見方とは少し違っているという印象を受けました(発想法の理解が浅いのもあるかも)。

ただ、僕自身はOOUIがこの調査・分析とデザインを繋ぐものだと認識していたものの、ここでわからなかったのは、では一体どんなオブジェクトをどのようにかたちにすると良いのだろうか、という点です。例えば、新規のサービスであればそもそもどんなオブジェクトを、既存のサービスであれば今あるオブジェクトをそのまま使うのか、それとも新たなオブジェクトをかたちにしていくのか、それらはどのように決定すると良いのだろうか、そんなことを考えていました。


どのようにかたちをつくるのか?

かたちをつくるにはどうすればよいのでしょうか?様々な方の引用とともに見ていきたいと思います。

ジェフ・ラスキンは人間中心のデザインという観点から、ユーザーへの理解という点で以下のようなことを話しています(※7)。

「作業に対するニーズというものがユーザ毎に異なっているとしても、ユーザ集団は多くの一般的な心理属性を共有しているのです」

これは個別の要求や文脈に焦点をあてすぎるのではなく、ユーザー集団が持つ共通の特性や性質に焦点をあてるべき、ということだと考えられます。ソフトウェアで言うと、デザインパターンなどがこれに当てはまるのかもしれません。

また、ソフトウェアエンジニアであるラリー・コンスタンティンは、システムの開発において以下のように述べています(※8)。

「システムは、対象ドメインの経験をもつユーザーであれば自力で使えるものでなくてはならない」

これはドメイン知識を持っているユーザー(自分が実施している業務は本質的に何をすることなのか理解している)であれば、たとえシステムや業務が変わったとしても、助力なしに使える状態でなくてはならない、ということだと思っています。例えば、プリンターで何かしらのデータを送るという業務があったとします。その業務の中には「プリンター」といういかにも大事そうな対象物が存在しますが、送らなくてはいけない「データ」という対象物が本質的には大事なものになってきます。この「データ」という対象物を理解していれば、たとえそれがメールで送るという業務に変わってもユーザーは自力で業務を行える(システムを利用できる)ものでなくてはならない、ということだと解釈しています。

つまり、そのドメインにおける本質的な対象物(オブジェクト)が何なのかを明確にする必要がある、ということだと考えます。「データ」というオブジェクトに着目した結果、本質的には同じことを実施していますが、プリンターではなく、メールで送る、クラウドで共有するというように、業務や活動をより便利に変えていくことができるかもしれません。

これらのように、ユーザー集団が持つ共通の特性や性質と本質的な対象物から導出できるかたちの特性を、上野学さんは抽象度の高い道具というキーワードをもとに以下のようなモデルと共に解説しています(※9)。

どのようにかたちをつくるのか?.014

「対象物の性質と、人の認知的/身体的な特性を抽出し、それらを除算します。そこから見出されるのは、道具が備えるべき目的的性質です。デザイナーはその性質を高いインテグリティを目指しながら組み合わせるのです。」

上記のように導出した目的的性質は、意味性の抽象度が高いものとなり、その使い方や手順をユーザー自身が考え、自分の使用スキルの向上によってより創造的になれたり、利便性を広げていくことができます。この目的的性質を導出するために、我々デザイナーはかたちをつくる前に人間の活動を描いたり、調査をしたり、分析をしたりするのかもしれません。

また原研哉さんはEmptiness(空っぽ)という概念を用いて、無印良品の製品を以下のように説明しています(※10)。

「使う人によっては、ベッドになったりイスになったり柔らかい床になったり。Emptinessを生みだすことで、人によって使い道(使い方)がかわる。」

このEmptinessを生み出すものが、目的的性質を持った、意味性の抽象度が高いものなのだと考えています。

これらがかたちをつくるということなのだと考えます。


矢を射ってから的を描く

小野健太さんはクリエイション(想像と創造)について矢と的を比喩として以下のようなことを述べています。それがこれまでに書いてきたかたちをつくるという活動と同じような意味を持っているのではないかと考えます(※11)。

アイデアが求められるシーン、場所に対して、ぼんやり頭の中で的を想像し、あの辺だったらどんな矢が射れるか創造します。そしていい感じの矢が射れそうになければ、また別の位置にぼんやり的を想像して、またどんな感じの矢が射れるか創造します。あっ、なんかいい感じの矢が射れそう、面白いかも!と思ったら、この的に対して、ちょっと本気で矢を射ってみようと考え、色々アイデアを創造します。そして、このようなプロセスを何度も繰り返し、最終的に矢と的、ともにしっくりくる位置に納める事が出来ればグッドデザインとなります。

これは人間中心設計やデザイン思考における反復とも同じ意味を表しているのだと考えます。前述した目的的性質を導出しながらそれを繰り返していくことで、最終的にユーザーにとって良いとされるかたちをつくれるのかもしれません。少なくとも僕自身はそうありたいと思っています。


おわりに

特にオチはありませんが、今回参考として様々な書籍や記事を読んでいましたが、何度も読み返したくなる(というかいつの間にか読み返している)、そんな文章があることに気がつきました。ある意味これも文章としてかたちとなったものを、僕自身が読者(ユーザー)として意味を汲み取り、創造的な活動(文章を書く)を行うための道具として利用していたのかもしれません。


参考文献

(※1)
クリストファー・アレグザンダー「形の合成に関するノート」

(※2)(※3)
須永剛司「デザインの知恵 情報デザインから社会のかたちづくりへ」

(※4)
「ISO9241-210」

(※5)
黒須正明「調査・分析とデザインの間のキャズム」
https://u-site.jp/lecture/chasm-between-analysis-and-design/

(※6)
ソシオメディア株式会社、上野学、藤井幸多「オブジェクト指向UIデザイン 使いやすいソフトウェアの原理」

(※7)
ジェフ・ラスキン「ヒューメイン・インタフェース―人に優しいシステムへの新たな指針」

(※8)
ラリー・コンスタンティン「使いやすいソフトウェア―より良いユーザインタフェースの設計を目指して」

(※9)
上野学「プロレタリアデザイン」
https://www.sociomedia.co.jp/7762

(※10)
原研哉「Designship2019」

(※11)
小野健太「1-3 デザインとエンジニアリング、そしてデザイン思考(1章:デザインとは?)」
https://note.com/kenta_ono/n/n36bcbb9eb990

モデルは上記をもとに筆者作成。


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