小さな建築の魅力
先日、父が祖父から相続した土地を売却しました。
一般的な住宅街の一角で、坪数も100坪に満たない大きさの土地でした。しかし、岡山市街に比較的近く、周辺には学校やスーパー等もあって利便性も良く、土地の南側と西側が道路に面していて陽当たりの良い土地でした。
販売価格にして1,200万円ほどになりました。
僕も父と仲介業者との土地の売買手続きに同席し、その時に仲介業者から伺った話によると、土地を購入された方はすでに注文住宅を建てる段取りをしているそうで、建物価格は3,300万円ほどになるとのこと。
ざっくり計算すると土地と建物を合わせて4,500万円、ローン金利を考えると支払いは5000万円は超えるでしょう。
仮に甘く見積もって支払いを5000万円と仮定した場合でも、35年ローンなら月々12万円ほど、40年ローンなら月々10.5万円の返済額という計算です。
なかなか大きな額ですが、僕の事務所でも新築住宅を30坪前後の規模で設計する際、建物の仕様を踏まえると価格帯は上記に近くなります。
しかし、この価格帯であっても住宅のデザインは極力シンプルなものにまとめる方向で提案し、建築を特徴づけるようなデザインとするのは予算上難しいように思います。
昨今は日本の経済状況、世界情勢、業界の高齢化によって建材価格や人件費が高騰し続けているので、戸建ての新築が建ちにくく、遊びのあるデザインの住宅も造りにくい状況になっていると言えます。
このような時代にどのような家をクライアント(特に20代〜40代くらいの方)に提案し、豊かな暮らしを提供するのか、設計者としては非常に悩ましくも社会的なテーマです。
僕は住宅を含めて、合理的な提案だけでは無く、遊びを持たせた楽しい建築の提案をしたいと考えています。
具体的には、素材の質や性能は極力下げずに、以下2つの方向性で提案する事で予算に少しでも余裕を持たせて建築に遊びを生み出すように考えています。
①新築の規模を小さくする
②既存の物件をリノベーションする
ちなみに、僕の自宅は新築は諦め、②を採用する予定です。
(本来は今年の秋に工事着工予定でしたが、子どもができて妻が産休・育休に入り、来年の秋に工事着工の予定となりました。)
僕の自宅も予算的にはカツカツですが、リノベーションを選択したことにより、素材の質や性能を下げることなく、建築とその空間に遊びを持たせることができそうです。
そして遅くなりましたが、この話題の本題はここからです。
僕はクライアントに向けて①を提案することが多々あります。しかし、地方都市ゆえに住宅を建てる敷地自体が大きい場合が多く、建築が敷地から規模の制約を受けにくいので、建築の規模を小さくするという提案がクライアントに受け入れられることはほとんどありません。
しかし、僕は小さな建築には大きな可能性があると考えています。
一般的には、建築や室の空間は大きく求められる傾向にありますが、小さいものは可愛かったり、距離感を身近に感じたりすることができます。
このような考え方・価値観で建築をつくると一般的な建築とは異なり豊かな空間ができると考えています。実際に世の中にはそのような魅力のある小さな建築はたくさん存在しています。
いつか僕も上記のような建築をつくる機会や同じ価値観をもつクライアントに巡りあえたらと考えています。