みんなで動かない【ショートショートnote】
「どう解釈したらいいと思う?」
「誰も動いちゃダメってことでしょ?」
「”みんな”ってアバウトじゃない?」
『みんなで動かない』という張り紙の前に皆困っていた。
動いたらピーピーと耳が潰れるような警告音が鳴るので取り合えず動かないでいる。
「一人なら平気だろ?」
そう言って若者が堂々とドアから出て行った。
「おお!」とみんなで声をあげてうっかり警告音を鳴らす。だがこの様子だと一人ずつなら脱出できそうだ。
「三人でも大丈夫?」
小さな双子の手を引いた女性が言った。
しかし威嚇するように警告音が鳴る。
「ああ、いつもこの三人を”みんな”って言ってるから」
涙目になっていたが、隣に居たおじいさんが双子の一人と、女性も双子のもう一人と脱出できた。残りも一人ずつ順番に脱出してゆく。
最後の男性が脱出しようとした時、警告音が鳴り始めた。
彼はいつも自分の意見を「みんなが言ってるから」と話していたのだ。
彼が脱出できたかのどうか、みんな知らない。
ペンギンのえさ