赤青鉛筆【シロクマ文芸部】
赤青鉛筆で日記を書く。
日記なんて何年ぶり、いや何十年ぶりだろう。
この家に私の部屋はとうの昔に無くなっていたが、押し入れで小学生の頃に使っていた筆箱を見つけた。象が踏んでも壊れないヤツだ。開けると短いHBの鉛筆2本と、まだ長い赤青鉛筆が1本入っていた。
同じ段ボールにはノートも入っていた。自由帳・練習帳、2ねん1くみ、それと私の名前が祖母の字で書いてある。開けてみると先生しか使わない独特の赤ペンで丸がつけられていた。最後に一言書いてある日とそうでない日があって、ノートが返ってくるときにはドキドキしたものだ。
「ああ、そうか。自分ではあまり赤鉛筆を使わなかった」
自分で答え合わせをする宿題や答えのついているドリルでも、祖母、姉、兄と誰とはなしに見てもらっていた。自分で答え合わせをするのはズルができそうで好きではなかったし、誰かに〇をつけてもらう事が好きだったのだ。
今でもそうなのかも知れない。いや、そうなのだ。
あの時の勘違いや間違いも、自分で気づき直していればこんな事にはならなかった。そして今でも自分ではなく誰かに「それは正しいよ」と言ってもらいたいのだ。
何が正解で、何が間違いで・・・子供の頃よりもっと複雑で曖昧だからこそ、私は自分で自分に赤鉛筆を使わなくちゃいけない。
使わずに残っていた自由帳に赤青鉛筆で日記を書く。
私に残された宿題。今日起こったことや、あの時の事を思い出し日記に書く。赤鉛筆で〇をつけよう。間違いに気づいたなら赤鉛筆で私なりの正解を・・・
反対側の青鉛筆はどう使おうか。調べてみると青鉛筆には「印刷に写らない」という特性があるようだ。別にこれを印刷するわけじゃないのだけれど、誰に見せるわけでもないのだけれど、ほんの少しの言い訳や本音を書き添えてみようか。
赤青鉛筆で日記を書く。
この1本で宿題は終わるだろうか。
宿題を終えたら、この家からもう一度歩き出そう。
<了>
面白そうなので、こちらの企画に参加させていただきました。赤青鉛筆で・・・とちょっとズレてしまいました。