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ケヤキ


ケヤキは自身が「逆立ちした竹箒」であることにほとほと嫌気が差している。そんなケヤキのもとに、天空から救世主として飛来するのがムクドリの群れである。ショッピングモールの入り口近くの、落下した糞で焦げ茶色に染まったガラス張りのルーフと、駐車スペースにまで達する糞でベトベトの地面は、それぞれムクドリ達が仕掛けたケヤキのメタモルフォーゼへの優れた起爆装置なのである。加えて鳴き声というNoiseの大合唱も忘れてはならない。これらが惹起する情動の激しい波立ちに襲われて、ヒトは慌ててケヤキの枝を伐採し始める。ただし、中央近くの枝だけは幹として一本残し、その上部は扇状に短く刈ってしまう。その結果、ムクドリ達はディアスポラの憂き目に会い、七つの砂漠で苦難の行進を始めることになるのだが、これは絶えず更新される救世主としてのムクドリ達が己に課した、厳格なる通過儀礼なのである。
 
 
天空への憧憬、つまり超越性への渇望を己が生の宿命とするケヤキが、伐られてもなお空に向かってぐんぐんと枝を伸ばし、初夏には瑞々しい若葉を繁茂させ、秋の紅葉と冬の落葉を経て、再び「逆立ちした竹箒」になってしまうのにそう長い年月はかからない。するとケヤキに再び自己存在への原因不明の倦怠、つまり嫌気が差してくる。その時、更新された救世主としてのムクドリの群れが、再び天空からケヤキのもとに飛来する。落下する糞。耳障りなNoise。ヒトはまたも慌ててケヤキの枝を幹のみ残して伐採し始める。そしてムクドリ達のディアスポラおよび七つの砂漠における苦難の行進‥‥。このサイクルが数年毎に繰り返され、ケヤキの幹は極端にひょろ長くなり、今では首が痛くなるくらいの見上げる高所で短い枝を扇状に広げている。こうしてケヤキの「逆立ちした土間箒」へのメタモルフォーゼが終わる。



逆立ちした土間箒(近所のAEON)

*『 鳴き声は「ギャーギャー」「ギュルギュル」「ミチミチ」など。かなりの音量であり、大量にムクドリが集まった場合には、パチンコ店内の音量と同じレベルに達する。
 都市部などでも群れを成して生活する。その為、大量の糞による汚染被害や、鳴き声による騒音被害が社会問題化している。』(Wikipedia)



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