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西方楽土
コーヒーショップの隅の席で
女性が面接を受けている
この店のウェイトレス志望らしい
女性のスーツの襟首から
小さなされこうべが顔を出して
面接官の様子を覗っている
すると面接官のズボンの裾から
灰色の粉がさらさらとこぼれ落ち
床にヒエログリフの牛を描いた
されこうべはスッと顔を引っ込めて
女性の体をモゾモゾと移動
スカートの裾から逆さに顔を出すと
ヒエログリフの牛を見ながら言った
「採用です」
「ありがとうございました」
面接官が深々と頭を下げると
ヒエログリフの牛がムクと起き上がり
されこうべをその背に乗せて
砂漠の果てにあるという
西方楽土へと旅立って行った
(道ノ道フ可キハ常ノ道ニ非ズ……
(谷神ハ死セズ……恍タリ惚タリ……
老子経五千言が天空に映し出され
エッチなガイコツ爺さんがいなくなって
女性は清々した顔で笑っている
目の醒めるようなステキな笑顔だ
「採用です」
「ありがとうございました」
深々と頭を下げながら
女性はふと思った
砂漠の果ての西方楽土って
どんな風俗店なのかしら
されこうべは童子の姿に変わり
横笛を吹きながら
牛の背に揺られて行く
*マガジン:「コーヒーショップの物語」
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