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Archipelago(多島海)

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詩・散文詩の倉庫01
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2023年9月の記事一覧

岸壁でスイカを喰らう

夏の夕刻を迎える岸壁で キノコ形の繋船柱に腰掛けて 海を眺めながらスイカを喰らう 独り者のひそかな愉しみだ 悪いか? イオンの食品売り場で買った 縦切り六分の一のスイカを 沈み行く夕日を眺めながら喰らう きのうもおとといも来たんだよ 悪いか? 内港を後にした高速艇が 目の前の水道をゆっくりと横切って行く 遙かな沖合の 遠い昔に捨てた島を 夕焼けの海に探しながらスイカを喰らう 悪いか? おやじとお袋はとっくに逝った 友達も兄弟もみんな遠くへ行ってしまった それぞれが

蜘蛛ふたつ

 女郎蜘蛛 気が付いたら、目の前に女郎蜘蛛がいた。紡錘形のお腹に赤と黄色と緑青色の横縞。背の高いカイズカイブキの生垣の樹間に、脚を広げて下向きに静止している。見ると斜め上にもいる。頭のすぐ上にもいる。腕に触れる枝にも。腰の左右の枝にも。後ずさりして見回すと、生垣の至る所に蜘蛛の巣が張ってあり、女郎蜘蛛が獲物を誘っている。通り抜けるのは止めよう。向こう側ではコスモスの花が風に揺れている。  蝿捕蜘蛛 ツツツ、ツツツツツツツ。黒い点が壁を這い登って行く。ツツ。いっとき静止し

Island(島)

始まりの時は うっすらと青く 内界に結露した 母なる水球に 浮かぶ魚鱗のひとひら 朝霧は晴れ かもめは飛び立ち 揺れる波間に 凛として湧き上がる島   もう帰ることはできない 白い灯台の立つ岬に 還って行く潮流は 大きく弧を描いて ざんぶざんぶと洗う 沖積世の岩塊の てっぺんに刺さる 黒い銛のうた   午後の白砂青松に ふと起こる風に巻かれて 柑橘の香り立つ島 水球の極点に裂開する 空洞の寂寥から島は来る 榊の葉 甘夏蜜柑 山の幸 沖の岩礁に残された供物が 波に浸されて 夕凪