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夏の夕刻を迎える岸壁で キノコ形の繋船柱に腰掛けて 海を眺めながらスイカを喰らう 独り者のひそかな愉しみだ 悪いか? イオンの食品売り場で買った 縦切り六分の一のスイカを 沈み行く夕日を眺めながら喰らう きのうもおとといも来たんだよ 悪いか? 内港を後にした高速艇が 目の前の水道をゆっくりと横切って行く 遙かな沖合の 遠い昔に捨てた島を 夕焼けの海に探しながらスイカを喰らう 悪いか? おやじとお袋はとっくに逝った 友達も兄弟もみんな遠くへ行ってしまった それぞれが
女郎蜘蛛 気が付いたら、目の前に女郎蜘蛛がいた。紡錘形のお腹に赤と黄色と緑青色の横縞。背の高いカイズカイブキの生垣の樹間に、脚を広げて下向きに静止している。見ると斜め上にもいる。頭のすぐ上にもいる。腕に触れる枝にも。腰の左右の枝にも。後ずさりして見回すと、生垣の至る所に蜘蛛の巣が張ってあり、女郎蜘蛛が獲物を誘っている。通り抜けるのは止めよう。向こう側ではコスモスの花が風に揺れている。 蝿捕蜘蛛 ツツツ、ツツツツツツツ。黒い点が壁を這い登って行く。ツツ。いっとき静止し
始まりの時は うっすらと青く 内界に結露した 母なる水球に 浮かぶ魚鱗のひとひら 朝霧は晴れ かもめは飛び立ち 揺れる波間に 凛として湧き上がる島 もう帰ることはできない 白い灯台の立つ岬に 還って行く潮流は 大きく弧を描いて ざんぶざんぶと洗う 沖積世の岩塊の てっぺんに刺さる 黒い銛のうた 午後の白砂青松に ふと起こる風に巻かれて 柑橘の香り立つ島 水球の極点に裂開する 空洞の寂寥から島は来る 榊の葉 甘夏蜜柑 山の幸 沖の岩礁に残された供物が 波に浸されて 夕凪