シェア
梅雨の合間の日曜日に 小学校のマラソン大会があった 一年生と二年生が合同で走り 女の子のきみは三十九人中の三十番 お昼ご飯は海辺のレストランへ 「二年生なのに情けない」 パスタランチを食べながら お母さんとお祖母ちゃんが嘆く 「七人ぐらいぬいたよ」 キッズランチを食べながら きみは抗議をしている 「がんばって走っていたぞ」 パスタランチを食べながら ぼくはきみの肩を持つ 内心では 来年に向けて 星一徹ばりの鬼コーチに 変身する決意を固めているのだ 海を望む
海が 海に堆積して 光の泡を分泌しながら 群青は沈下の速度を静かに増すけれど わたしは 生まれたての青空のように やわらかだから 海が見える山の斜面の 鈴なりに実った 青い蜜柑の揺れる木陰で 朝の体操に遅刻した鳥の声を聴いた おとな達の のんびりと呼び合う声 乾いた藁の匂い 蜜柑畑の片隅に置かれた 編み籠に入れられて 縁に手を掛けて立ったわたしは きつね色をした獣の親子が 五匹、六匹と 山の麓を一列に走って横切り 藪の中へ消えて行く光景を見た おとな達に知らせたくて