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Archipelago(多島海)

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詩・散文詩の倉庫01
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2022年11月の記事一覧

挽歌

透明にゆらぐ火炎の秋 あなたは雲り空の斎場で ひとり密やかに焼かれた 紺色の重力を振り解き 垂直に あるいは 灰白の螺旋を描いて 懐かしい星の郷に昇る 秋のフラグメント達 けれど残された私達は 風に舞う落葉のように 重力を裏切れないから せめて、見てごらん 雲の絨毯を剥ぎ取られた 満天の星の祭りを 秋の夜空から降り注ぐ エンジェルの滝を あなたの祝福を受けて 無数の星の子ども達が 地上に降り立つ頃には 白銀の冬がやって来て 私達は暖を囲んで語り合う ああ そのとき 私達の痩せ

白っぽい視野の中に 草の生えた道があり 知らない樹木が立っていた 母は和服を着て 道にひとり佇んでいる すると向こうから 何年も前に死んだ父が歩いて来た   ぱりっとした背広を着た 青年の頃の父だった 母は懐かしそうに父に近づくと ふたことみこと話しかけた   父はたいそう照れながら 何か言葉を返している 父の背広の袖に触れるたびに 母は若くなってゆく   やがて父は母の手を取り 後ろ姿の若い二人は まだ私の生まれていない 夢の奥へ消えて行った   葬儀を終えて二日目の朝

金柑

深緑色の小葉が群れる枝に 金の果実が十幾つ   花瓶に挿して眺めていたら 子どもの頃に読んだ セルビアの民話を思い出した   夜更けに鳥が盗みに来る 王宮の黄金の林檎 鳥は綺麗な女の人に変わり 見張っていた王子様と結ばれる   これは金柑 私は王子様じゃないけれど   夜更けまで 見張っていようかな