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夜明け前の坂道を登って行く 白くぼんやりとした後ろ姿 幼い私の行く手には 鬱蒼と生い茂った竹藪がある 洞窟の黒い口に誘われるように 私は竹藪の中の道に入って行く 竹は両側から頭上を塞ぎ 笹の葉が微かな風に揺れている さや さや さや さや さや さや さや さや さや 笹の葉の音が頭上を舞っている 暗がりの中を歩いて行く と思ったら 私はいつの間にか 鉄橋の上を歩いていた 乗り物の絵本で見た鉄橋が 竹藪の道の進行方向に重なり トラス構造の
秋になると、川堤をびっしりと覆う葛の茂みは、セイタカアワダチソウとススキの求愛を受ける。セイタカアワダチソウはあちこちで葛の茂みを下から貫き、空に向かって茎を伸ばし、黄色い花冠を風に揺らせて葛の気を惹こうとする。それに遅れを取るまいと、ススキの群れも銀色の穂を伸ばしてくる。だが葛は、春から夏にかけて茂みに棲んでいた虫や百足や蛇や、迷い込んで来た犬や猫やヒトから零れた夜の呟きを捕獲する作業に夢中で、セイタカアワダチソウとススキの試みは徒労に終わってしまう。 夜の呟きに触れるこ