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Archipelago(多島海)

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詩・散文詩の倉庫01
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2022年7月の記事一覧

シジミ蝶

国道二号線を走っていたら ふいに視野の右端から 何か飛び込んで来た と思ったらサイドミラーの上に シジミ蝶が止まっていた 小指の爪ほどの大きさの 灰白色の翅をピタリと閉じて 全身で風を浴びている すぐに飛んで行くだろう ちらりちらりと見ていると アクセルを踏む足が緩んでくる バックミラーの後続車が迫って来た 少し焦ってアクセルを踏み込む 吹き飛ばされるかな? だがシジミ蝶は動かない ちら見を続けていると またアクセルが緩んでくる 後ろの車が迫って来て アクセルを踏み込む これ

祖母の記憶

十六で嫁入りした祖母は まだ娘だったから 近所の子供達と鞠を突いて遊んでいた すると 嫁入りした女はもう そんな遊びをしてはいけないと 誰かの叱る声が聴こえて来たという   春の夜明け前に 積み重なった笹の葉の下から 筍が微かな音を立てて生えて来る 祖母が竹薮に行くと 子供の姿をした竹薮の精が 飛ぶように先を走って行き 祖母は少ししんどそうに笑いながら その後を追って筍を掘る   雉が飛び立つ夏の畑で 祖母と離れて遊んでいた私は からす蛇に遭遇して泣き出した 祖母は農作業の手

『現代地名詩集』

ゴールデンウィークの青空を飛ぶ オレンジ色のハンググライダー 少しひんやりする風が気持ちいい 漁船の繋がれた岸壁から 波に揺れる海藻が透けて見える   瀬戸内海を望む港湾緑地は 大型連休の行楽客でいっぱいだ 流行り病の行動制限は無くなったし みなさんもういろんな所へ行ってみた?   私は観光に来たわけじゃないんです 住んでる所がこの近くだから   おや あんな所にレジャーシートを広げて お弁当を食べてる家族連れがいる 衆人環視のど真ん中 車道のすぐ傍なのに 他にいい場所が無か