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コーヒーショップの物語

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コーヒーショップを舞台にした、可笑しな、トンデモな、妙チクリンなお話。
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#思い出の曲

プレリュード

爽やかな初夏の朝 コーヒーショップの窓の外では スズメ達が噴水に集まって 小さな翼をシャンプーしている 音大行きのバス乗り場では 客はバスの屋上にハシゴで登り ピアノを楽譜初見で弾かないと 乗せて行ってもらえないそうだ ラヴェル先生が入試用に作曲した 『プレリュード』を上手く弾けない人は スズメの冠婚葬祭のための祝い歌や レクイエムを補習させられている 遠い昔 私も高校の体育館で ザ・ローリング・ストーンズの曲の イントロをトチったことがあるから 何処かで補習を受ければよかっ

石狩挽歌

コーヒーショップに夏が来て 向かいの席の女子高生が ブルーソーダを飲み始めた 青い液体をストローでチュー コップの中身が減っていくにつれ 女子高生は足先から海になっていく 水位は下腿から太ももへ お尻からウエストへ胸へと上昇し ブルーソーダを飲み干した時には 頭のてっぺんまで真っ青な海になった 途端にバッシャーン! 身体が崩れて 海水が一気にぶち撒けられた 店内はたちまち一面の海になり セーラー服がゆらゆら浮かんでいる 客達は取りあえず泳ぎ始めた 潮汐と潮流の循環が始まり セ

The Wind Began To Howl!

白いコーヒーカップが モジモジしている様子なので 私はどこか痒いのかと思い 指先でひとしきり掻いてやった すると紫色の煙が立ち昇り ガラケーの着信音みたいな 安っぽいファンファーレと共に ジミヘン魔神が姿を現わした 願いごとを叶えてくれるらしい だったらさえないファンファーレを あのウッドストックで演奏した 『スター・スパングルド・バナー』に 変えてもらえないか頼んでみよう すると前のテーブルの町内会長が 「ジミヘンなら『紫のけむり』だぞ」 さもそれが当然のような口調で言う

夏祭り

コーヒーショップで冷コ中 窓の外ではトウモロコシが 半被を着てイカ下足を焼く夏祭り 駅前広場に設営された 野外ステージではカラオケ大会 たまにはこういうのもいいな 近くの信用金庫のOLが 敏いとうとハッピー&ブルーの 『ぎんざのお地蔵さん音頭』 (S.55 キャニオン)を歌うと スイカが裸足で逃げ出した 続いてケアハウスなごみの事務長が 森雄二とサザンクロスの 『母性本能』(S.53 クラウン)を歌うと タイ焼きが身悶えして衣を脱ぎ捨て あんこを投げ付けて抗議している よりに

You Don't Know What Love Is

 (番外編「コーヒーショップの物語」/伏字あり) 午後のコーヒーショップで 私はひとり読書をしている 斜め前のテーブルでは 女子高生達がお喋りしている BGMは懐かしい曲 『 You Don't Know What Love Is 』 邦題は『 あなたは恋を知らない 』 ビリー・ホリディが歌った曲だ だけどネエちゃん達はキャアキャアうるさいな 向こうの席でステホスが客と騒いでるんだろう 遠い記憶の夜空にJR中央本線が走る 私は東小金井のキャバレー『火の鳥』に トラでギターを