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コーヒーショップの物語

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コーヒーショップを舞台にした、可笑しな、トンデモな、妙チクリンなお話。
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#童話

プレリュード

爽やかな初夏の朝 コーヒーショップの窓の外では スズメ達が噴水に集まって 小さな翼をシャンプーしている 音大行きのバス乗り場では 客はバスの屋上にハシゴで登り ピアノを楽譜初見で弾かないと 乗せて行ってもらえないそうだ ラヴェル先生が入試用に作曲した 『プレリュード』を上手く弾けない人は スズメの冠婚葬祭のための祝い歌や レクイエムを補習させられている 遠い昔 私も高校の体育館で ザ・ローリング・ストーンズの曲の イントロをトチったことがあるから 何処かで補習を受ければよかっ

あんた誰?

土曜日の午後 コーヒーショップに子象が入ろうとしたが ドアの間に胴体がはさまって そのまま動けなくなってしまった 店の外から象使いの少年と通行人が しっぽを掴んでエイヤッと引っ張っている 店の中からは客達と店のスタッフが 子象の頭を押しているがびくともしない それでもウェイトレスが注文を聞くと 子象は「ぼくカフェ・オレ!」と答えた やがて運ばれて来たカフェ・オレを 子象は長い鼻を使って口の中に流し込んだ と思ったら胴体を荒っぽく引き抜いて びっくりしているみんなを尻目に 大通

コーヒーにミルクを垂らし スプーンでかき混ぜると カップの中から声が聴こえてきた 「明日はゴミ出しの日だよ。」 うるさいなぁ分かってるよ と思いながらカップを覗いてみると 超小型の牛が泳いでいる スプーンで取り出してやると 小さくても豊満なおっぱいから ミルクがぴゅるぴゅる出続けている おっとトレーの外にこぼさないよう注意 すると 隣りの客がこっちを見て 「ああ、また牛が出ましたか。 私は家内に捨てさせましたよ。」と言う 「明日はゴミ出しの日だよ。」 牛は同じことを繰り返して

トントラワルドの物語

 コーヒーをひと口飲んで皿に戻し、窓の外を眺めていたら思い出したことがある。遠い昔、 私がまだ小学生だった頃に読んだ、『ばらいろの童話集』のこと。〈ラング世界童話全集〉の第二巻だった。この本に収録されていた、「トントラワルドの物語」というエストニアの民話が、成人してからもずっと忘れられなかった。  編著者のアンドルー・ラングは、オックスフォード大学では『指輪物語』のJ・R・R・トールキンや、『ナルニア国物語』のC・S・ルイスの先輩にあたり、民俗学者にして作家であり、また詩人で