特注ピッコロ頭部管
という依頼があった。
現在ムラマツではピッコロを製作していないが、初期の時代に金属製ピッコロを作っていたことは知っていたし実際に見たこともあった。
以前 Heynes の銀管ピッコロに合わせて歌口のみ木製の頭部管を作ったことはあった。
少々見た目のバランスは悪いがなんとかなるだろうと思い引き受けることにした。
とりあえず採寸をして図面に書き込んだ。
通常の頭部管よりもやけに長かったのだが、トータルで辻褄が合う設計になっているものと勝手に解釈して深く考えもせずに製作に入ってしまった。
あとから大変な間違いに気付くのだが・・・
接続管は通常のパイプでは細過ぎるので、t0.6 の銀の板を丸めてロウ付けして巻管を作った。
木部に本紫檀を使用してあとは普段とほとんど変わらぬ工程で製作し、順調にできあがった。
できあがって吹いてみるとなんだかおかしい・・
ピッチは低めでものすごく音痴である。
オクターヴの音程が狭く高音がものすごく低い。
最低音 D が非常に高い。
これはいくら何でも変だと思い本体のトーンホールの位置などを改めて調べてみた。
通常のピッコロに比べて Cis やトリルのトーンホールの位置が明らかに違う。
ここではたと気がついた!
もしやこの胴体は円筒管では?
ということは、頭部管は円錐管にしなければならない・・・
現在通常使用されているピッコロは、殆どが頭部管が円筒で本体が管端に向かって細くなる円錐管になっている。※Fig.1
ところがこのピッコロは現在のフルート同様頭部管のコルク側が細く接続管に向かって広がって、本体は円筒の形状になっている。※Fig.2
採寸の時にもう少しちゃんと見ておけば気づいた筈なのに、全く疑いもせずに見逃してしまった。
ヘインズの銀管同様だと思い込んでしまった。
というわけで作り直すことになった。
折角できあがった頭部管の内径だけを修正して何とかならないかと考えて試してみた。
オイル処理をしてあるので先ず脱脂をしてから、刻苧漆を内側に盛ってテーパー形状に成形できないか試みた。
時間を掛ければできなくはないのだろうが、綺麗に成形するのは難しそうなので諦めた。
結局サイズの合うテーパーリーマを新たに入手して一から作り直すことにした。
今度は材料もコーカスウッドを使用して漆仕上げにすることにした。
摺り漆の工程も10回重ね完成と思いきや、まだピッチに問題を感じたので内径と歌口穴を再加工して更に漆を塗り重ねることとなった。
2ヶ月を要してようやく完成した。
注文を受けてから約2ヶ月かけて漸く完成したものの、楽器としての仕上がりは決して満足できるものではなかった。
音程についてはオリジナルの持つ問題であるので如何ともし難いが、オリジナルの頭部管と比較してもさほど代わり映えがしない。
外見はそれなりに良い仕上がりになったが、やはり楽器として魅力のある音にならなかったのは残念だ。
今回の製作においては新しい工具の導入や既成以外のパーツ使用の必要もあり、特注価格を設定しようと考えていたのだが、納得のいく仕上がりにならなかったので通常通りに留めた。
安易に引き受けてしまったことへの自戒を込めて。